第4話

「…スゲェ。」


 東郷には、アイリーンについて一つ分かった事がある。

すなわち、彼女がタフな人間であると言うこと。


「よし、これで食いモンは確保だな。」


 嵐によって、アイリーンと共に島へ流れ着いた木の板等のゴミ。

そのゴミをナイフで削り、銛を作り瞬く間に魚を捕った。

ヤシの木の皮を使って火口を作り、乾いた木材を探し出して火を用意した。

しかも、水に関しても魔術で何とかなるらしい。


「サ、サバイバルぢからの格差が激しい…」


 東郷は、遭難してからこっち録に生存の為の行動を取れなかった自分との差を見せ付けられ、ショックの余り崩れ落ちる。


「おい、トーゴー。そんなに落ち込むなよ。慣れてねえなら、そんなもんだって。ほれ焼けたぞ。食え食え。」


「あ、ありがとう…ございます。」


 アイリーンから、串に刺さった焼き魚を受け取る。

口へと運べば、味付けされていない只の魚であるのに、えらく美味しく感じた。

何日かぶりの暖かい食べ物がそう感じさせるのであろうか。


「食って落ち着いたら、色々教えてやっから。ほれ落ち込んでる暇はねぇぞ。」


 アイリーンの東郷に対する態度は、随分と砕けたものになっていた。

その砕けた態度に、嫌悪感を感じさせない。

堂々とした振る舞いの迫力と、時折見せる愛嬌のある表情。


(何だか、不思議な人だ…)


 カリスマとでも言うのだろうか。

人を惹き付ける人間的な魅力を東郷はアイリーンから感じている。

彼女の指示に従うことを、すんなりと受け入れられる。

これ迄の彼の人生では、縁の無かったタイプの人間である。


(なんというか…無害な奴だなぁ。)


 対するアイリーンもまた、東郷に対して不思議に思う。海に生きるもの特有のギラギラとしたものが、全く感じられない。

話を聞けば、彼は自分より歳上であるという。

アイリーンの知る歳上の男であるならば、最初は必ず彼女に自分が上位者で有ろうとする所がある。

『こんな小娘の言うことなんざ聞けるかよ。』といった態度を皆必ずとるのだ。

対して、うまいうまいと魚を頬張る目の前の男はどうだろう。

魚を捕れば凄い凄いと素直に彼女を称賛し、火を用意すれば興味津々といった風にこちらの手元を観察する。

アイリーンからすれば東郷は、何とも素直で純粋な人間と見えた。

そんなあからさまなが居れば、良いように使ってやろうという思いが普通は浮かぶもの。

大海原で海千山千の船乗りと対峙するアイリーンもまた、その例に漏れない。

その筈であるのだが、その無防備のせいであろうかそんな考えが浮かばない。

アイリーンからしても、東郷は出会ったことの無いタイプの人間だった。


「所でアイリーンさん、ここから出る宛とかって有るんですか?」

「ん?んなもんねぇぞ。と言いたい所だが…ほら、ちゃんと宛は有るんだからそんな顔すんなっての。」

「ビビるんでやめて下さいよ…」

わりわりぃ。アタシが生きてここに流れ着いたって事はだ、乗ってた船からもそこまで離れて無い筈なのさ。んで、アタシの船には取って置きが積んである。」


 そう言って、アイリーンは胸元からネックレスの様に鎖を通してある指輪を取り出した。


「こいつぁ、標の指輪しるべのゆびわってアイテムでな。こいつを持ってると、船に積んであるアイテムにこっちの大体の方向が記される仕組みになってる。」

「おお!!」

「船が今どうなってるかは分からんが、最低でも2日あればこっちを見つけてくれるさ。」

「おぉぉ!!」

「もちろん、船が嵐で沈んでなけりゃぁの話だが。」

「ぉぉぅ…」

「まぁ、船の無事についちゃ、心配したところで何が出来るわけでもねぇ。そら、取り敢えず魚の取り方教えてやっから。」

「あっはい。」


その後、東郷はアイリーンに銛の使い方を教えて貰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る