ゴッド・オブ・ボルネ〜神と人を紡ぐ者〜

根津白山

第一章

第1話 幸福な朝

「いや〜〜いや〜〜やああああ〜〜め〜〜〜ん」


晴れ渡った気持ちのいい早朝6時、家の敷地内にある道場に奇声が響き渡る。

毎朝欠かさず、1時間だけ竹刀を振る。

剣道部ではないが、親父の個人的な稽古場だった道場が家にあるため、暇つぶしに竹刀を振っていたら、それが紡の日課になった。


「もうすぐ7時か……」


ガラガラとゆっくりと扉が開いた。


つむぐおはよう、毎日毎日熱心だね。」


落ち着きのある透き通った声で挨拶しながら、女の子が道場の中に入ってきた。

彼女は、神楽愛かぐらあい、5歳くらいからの知り合いで、いわゆる幼馴染である。まあ、普通に可愛いと思う、最近ますます可愛くなってる……気もしなくない。


「お前も毎日毎日よく来るよな。」


「もう、紡を迎えに来るのが日課になっちゃったんだもん、しょうがないじゃん。それより、早く支度した方がいいよ、今日入学式だよ。さっき庭先で、おじさまとおばさまにお会いしたけど、もう入学式に向かう準備してたよ。」


「マジかよ、早すぎじゃない?まだ、集合時間まで1時間あるで。」


「早くシャワーに入ってきなよ。私待ってるから。」


「はいはい、ありがとうさん、それか愛、一緒に入るか?」


「何言ってるの、馬鹿なこと言ってないで早く用意して!」


紡は、後ろに手を振りながら、道場を後にした。相変わらず愛は生真面目さである。まあ、そんなところがいいんだが……。


——そう、今日は高校の入学式、新たな門出である。


家の玄関を開けると、駆け足に風呂場に向かった。

風呂場の洗面台では、母さんが化粧をしていた。


「紡、早くシャワー浴びちゃいなさいよ〜、愛ちゃんを待たせちゃダメよ〜、後、かっこよくしていきなさいよ。愛ちゃんに失礼よ。」


「わかったよ、早くするよ。」

愛に失礼という理論は訳がわからないためスルーした。


「後、シャワー浴びたら、お父さんにカメラ忘れないように伝えといて〜」


「はいよ!わかったよ。」


風呂場から鬱陶しそうに大きな声で答えた。


5分でシャワーを浴びて、さっさと支度を済ませて、家を出ようとしたら、母さんが、


「ちょっと待って、記念に玄関で写真を撮りましょ。お父さん呼んでくるからまってて。」


「もうそんな時間ないよ!早くして!」


俺は、家の奥に戻る母さんを急かすように言った。


すると愛が、甘く撫でた声で上目遣いになりながら紡の手を握った。


「記念なんだからいいじゃん、高校まで歩いて10分くらいだし、余裕で間に合うよ。それに、私は紡と写真撮りたいな〜」


「わかったよったく」


愛に言われると、なんだかよく分からないが、逆らえない。仕方ない感が出てしまう。


「お待たせ〜お父さん早く早く。」


家の奥から小走りで母さんが出てきた。


「お〜馬子にも衣装ってか、紡よく似合ってるぞ。愛ちゃんは可憐すぎて紡にはもったいないな」


少し低めの声で、親父が笑いながら話しかけてきた。

愛も「もう、おじさま、ありがとうございます。」と笑顔で応対していた。


「余計なことはいいから早く撮ろう。」


紡は、集合時間が気が気でなかったため、みんなを急かした。

 

親父が三脚にカメラを取り付け、位置を定めている。


「みんなもっと寄って寄って、紡、もっと、愛ちゃんの方に寄れよ〜」


——いやいや、俺だって今、思春期なんですよ、親前で女の子とくっつくとか恥ずかしいから、

ってことを考えてると、愛が急に腕を組んできて紡を寄せてきた。かすかか愛からいい匂いがする。少しばかり、紡の動悸どうきが速くなる。


「もっとちゃんとくっついてよ。あ、紡……私がおとといあげたシャンプー使ってくれてるんだ、嬉しい。」


愛は、頰を赤らめながら、喜んでる犬のように俺の髪をクンクンとして、匂いを確かめている。


「そんなこと今はどうでもいいだろ、親父〜〜〜早く撮ってくれよ。」


「はいはい、お待たせ、じゃあタイマー起動するからね、ホイッと。」


ピ……ピ……ピ…ピピピピ…………カシャ


「おーいい感じじゃないか、ほれ見てよお母さん。」


「ホントね、いい感じじゃない、愛ちゃんとっても可愛いわね、これは紡、頑張らないと愛ちゃんを取られちゃうわね。」


なぜか、母さんは嬉しそうである。


「そういえば愛ちゃんのご両親は入学式に出席されるの?」


「それが、私の両親は、公務があるらしく、出席できないみたいです。」


「それは、残念ね。じゃあ、愛ちゃんの親御さんも分もいっぱい写真撮らな……」


「愛、早く行こうぜ、親父、母さんまた後でな。」


母さんの話を遮りって愛を急かした。


「ちょっと待ってよ、では、おじさま、おばさま、また入学式で。」


そういって、紡と愛は、高校に向かった。










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