時計女技師の物語

グシャガジ

夜中の配達

「すみません。お届け物です。」


-今何時だ?


アパートの扉の前で呼び鈴と一緒に声が聞こえる。


-配達が来るって事はかなり寝過ごしたのかしら?


最近越してきたこの部屋は、仕事柄昼寝る為に換気用の小窓以外は無い部屋を選んだのだが失敗だったかしら。

そう思いながら一間しかないこのアパートに似つかない大きなホールロックに目をやった。


-なんだ、夜中の2時じゃん。


引っ越してきて初めてとも言える安眠を妨げられましてや夜中の2時に来る失礼な来訪者にイライラしてきた。


-このまま居留守しても良いかしら?


腰かけてなお愛おしく包む毛布と扉の前まで引っ越した後の整理も出来ていない散漫とした道を歩みながら来訪者を迎える為にある程度身だしなみを整える苦行を思うと、つい毛布の海に溺れて貝の様に外界との交信を切りたい誘惑に苛まれた。

モゾモゾと葛藤を繰り広げていると再度の確認の為か呼び鈴とさっきより大きくなった声が聞こえた。

「すいません!G2d-Gajetからお届け物です!」

「あぁ、すみません。お届け物?ありがとうございます」

「こちらこそ、夜分遅く申し訳ありません。品が品なので、、日が当たるとあんまり宜しくないので」


-G2d-Gajet?日に当たると良くないもの?何か注文してたかしら?

とりあえずさっさと終わらせて安寧の世界を取り戻すべく、魔王戦前の勇者さながらの葛藤を繰り広げ扉を開けると奇妙な光景だった。


目の前の配達員が偉く幼い。

人間であれば10歳かそこらにしかどうしても見えない。

まぁ未だ見てはいないが先週迄いた実家の村と違いこの街にはエルフやドワーフと言った亜人種も居ると聞いている。

亜人であれば多少は恰好が奇妙なのも致し方ないのかしら?

流行に疎く気にしない性格だがここ迄奇妙な姿だとさすがに訝しくなる。

制服なのか知らないが車の整備士が着る様なオーバーオールと、頭には大きなレンズ一つとそれを取り巻く半休の小さいレンズが付いた金属のゴーグルしかもそのゴーグルからはヘッドホンジャックの様なコードが何本も伸び

或るひと塊はその子の右目の下あたりに刺さっている。

腕には通信機なのか緑色のモニターがついており。またコードがオーバーオールの専用の通し穴を潜りながら腰に向かっている。

目の前の子?も奇妙だが、届けた品も何なのか解からない。

大きさは両手で持てる位の普通の小包みっぽいが

こんな時間に配達される原因となった日光厳禁な品なんて何なのかしら?

多分注文して無いと思うのだけど、、

いくらずぼらな彼女でも普段ならば断わるだろう、

だが引っ越しと仕事に疲れ寝てた所を起こされベッドを渇望し衰弱している今は

いかに早く毛布の海に戻れるかを考えていた。


結果、とりあえず迎え入れる事にした。


「では、受け取りの印をお願いします。」

配達員が出してきた帳簿の受領印という所に右の親指を押し付けた。一瞬体中を何かに這い廻された様な魔法契約独特の悪寒が走る。

「ありがとうございます。サポート等に関しましてはユーザーガイドを同封しておりますので、ご確認ください。

 今後とも引き続きG2d-Gajetを御贔屓にお願いいたします。」

そういうと配達員はアパートの階段を降りて行った。


奇妙な恰好だけど結構しっかりしている子なのかしら?と変な関心を示しながらとりあえず待ち侘びた海を目指し、邪魔な受け取ったばかりの箱を投げ捨て、安らぎの世界へダイブした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る