6 メイドの受難



 冒険者ギルドでリーリャと別れ、俺達は【酒場〈死にたがりの亡者亭〉】へ向う。

 ティーダがライオットに「折角だから、一緒に昼飯でもどうだ?」と誘い、それにライオットは「ああ、そうだな」と快く受けた。


 途中、三人で他愛ない話や、これまでの互いの事を話したりした。

 メリアルドから聞いた通り、ライオットは生き別れた妹のカリンを探して、東の方からこの街を目指してヴェルズリュートまで旅をしてきたらしい。

 で、そこから先、ヴァイスシティまで一人では心許ないと思い、ヴェルズリュートの冒険者ギルドで同行者を募り、メリアルドとリュクティアを紹介されたようだ。

 元々はヴァイスシティに住んでいたらしく、ライオットだけが親類に引き取られ、この街を離れたという事だった。

「アンタも、元々はここの住民だったんだな」

「ああ…、十歳の頃に親類に引き取られてな」

「カリンは一緒じゃなかったのか……」

 ティーダが呟くように言った。その言葉にライオットは露骨に表情を歪めて押し黙り、ポツと答える。

「……養父からは、別の親類に引き取られた、と聞いていたんだが……」

「…実際は違った、って訳か」

「……ぁあ」

 絞り出すように答えたライオットの表情には、苦々しいと言う後悔が浮かんで、不意に消えた。

 彼女のおもてに残る感情が諦観に変わって、俺もティーダも『どう声を掛けたら良いものか…』、と考えてるうちに、彼女は、にこり、と笑う。

「一時期は養父母を恨みもしたんだが、養父母かれらにしてみれば私を養うだけで精一杯だったんだろう。…カリンには辛い思いをさせてしまったが、無事に再会出来た。…私達は運が良い」

 満足そうに笑うライオットにつられてティーダも嬉しそうに笑った。

「良かったな、家族カリンが見つかって」

「……あぁ」


 それから、俺がトトニーの店を雑に紹介すると、ライオットは「穀物酒ウォッカが美味いな」と言いながら笑った。どうやら、ライオットは亡者亭を知っていたらしく、よくよく聞いてみると、彼女らの定宿の近くだという事だった。

 因みに、メリアルドが俺達を訪ねて来た日の夜、彼女を送って行ったティーダを迎えた酒宴は、亡者亭で開かれたらしく、そこにはアウェイン達も居合わせたようで、大いに盛り上がったらしい。

 俺の予想通り、いつの間にかティーダが酔い潰れて、宿まで運ぶのが大変だったと聞いた。


「………。それは…愚兄が手間をかけて、…申し訳ない」

 呆れた…、と当人に視線を向ければ、居心地悪そうに苦笑いを浮かべる。そんなティーダを横目に、ライオットに詫びると、彼女も同じように苦笑いを浮べた。

「いや、運んだのはメリアとリュクだったから、私はなにも…」

「…そっ、そうだ! …メリアは今日はどうしてる?」

 ティーダがライオットの言葉を遮る勢いで割って入った、彼女の口からあの夜の醜態を曝されるのを嫌ったんだな。

 ライオットは、人の醜聞を安易に曝すようには見えないが…。

 ティーダの問い掛けに、ライオットは少し首を傾げ、『やはりな…』と苦笑した。

「ん? 君らに会いに【時計塔屋敷】へ行くと言っていたが…。行き違いになったようだな」

「……そっか、残念だな」

 ライオットに答えたティーダは、あからさまに『がっかりだ…』と肩を落とした。それまで機嫌よくピンと立っていた耳が、少し垂れて兄貴の気持ちを雄弁に語っている。


 まぁ、気持ちは分からなくも無いんだが…。


 ちょっとした沈黙の後、ティーダが話題を変えるためにライオットに問い掛ける。その表情には、ある種の緊張感みたいなものが混じっていた。

「そう言えば、ライオットたちはいつヴァイスシティここを出るんだ?」

「え?」

 思いもしない質問だったのか、ライオットは戸惑ったように一言漏らした。そんな反応の彼女に、ティーダは問い詰めるような語気で続ける。

「カリンに再会できたなら、ライオットは目的を果たしたんだろう?」

「ああ…、そう…だな」

「だったら、もう、ここにいる必要はないよな? オレの勝手な願いなんだが、一刻も早くここを出て、メリアを俺たちの家ヴェルズに帰して欲しいんだ」

 異論も反論も認めない、そんな厳しい表情かおでティーダはライオットを見詰めた。

「あー、それは……」

 ライオットが答えようとした時、間近に見えてきた中央広場から怒号と悲鳴が交じったような歓声が聞こえて来た。

 新市街地最大の広場なだけあって、いつも活気があって人通りも多いから、大道芸人がなにかの大技でも披露してるのかと思って、そちらに目をやると、今日はいつもと様子が違った。

 大勢の住民達が怯えた様子で雪崩れ出て来るのが見える。

 広場から小走りで出て来た男を捕まえて騒動の原因を聞くと、顔面蒼白で事情を話してくれた。

 どうやら、蛮族が人間の女を追い回しているらしく、それを聞くや、ティーダは有無を言わさず駆け出し、広場に突っ込んで行くし、ライオットもそれに続いた。


 ったく。

 …今日は『冷静さ』を部屋に置いてきたらしい。



 広場に入ると、中央に建てられた大きな噴水を挟んだ反対側で、トロール二体が人間の女を追い掛けていた。

 広場で商いを営んでいた商店や、屋台はこの騒動で壊されて無惨な姿を晒している。

 追いかけられている女は、トロール二体を翻弄するように間を上手くすり抜けつつ攻撃を避けていて、良く見れば、その女は【茨の館】のメイド、メアリーだった。

 その姿を見るや、ティーダは瞬時に獣変貌して、バスタードソードを抜き放ち、トロールに突進して行く。

 睨み合ったメアリーとトロール二体の間にティーダが割って入り、一撃一閃。トロールの片割れの手首を切り落とした。

 突然の乱入者に双方驚き、トロールは後退し間合いを取る。

「メアリー、無事か!?」

「えぇ! 大丈夫です!」

 メアリーを庇うように立つティーダが彼女を顧みて様子を伺うと、それにメアリーも余裕だと答えた。

 遅れて俺とライオットが駆け寄り、それぞれ、メアリーを囲う形に布陣すると、対峙する蛮族は苦々しいと唾を吐き、それぞれ得物を構えた。



 トロール二体に対して、そこそこに経験を積んだ冒険者が三人と格闘術の心得があるヤツが居れば、制圧するのに大した時間はかからなかった。

 トロールの死体が運ばれて行くのを見送り、俺達は一息吐く。

「ありがとうございました」

 俺達を顧みて改めて礼を言ってきたメアリーに、剣を鞘に戻しながらティーダが呟くように言った。

「新市街に蛮族が入って来るなんて…」

 その一言に、皆、俯き黙り込む。


 基本的に蛮族は新市街地には入ってこない。

 魔神侵攻の対抗策として、蛮族の首領ナグーザーバラと手を結ぼう、と進言したチェザーリに、当時の黒剣騎士団の団長が不可侵条約として『新市街地への蛮族の侵入禁止』を突き付けたから、らしい。

 当然ながら、チェザーリにも新市街地まで蛮族にくれてやるつもりはなく、蛮族側との交渉でその条約は締結されはしたが、奴ら相手にそんなモノが守られるはずもなく、知能が低い妖魔や下位蛮族どもが、度々、侵入して来ては暴れ回り、居合わせた冒険者やギルドから召集された同業が都度制圧してるのが現状なんだ。とアウェインから聞いた。

 新市街地を警備してるはずの衛兵や黒剣騎士団は、魔神の侵攻の対応に手一杯でそこまで手が回らず、蛮族の侵入に関しては冒険者が対応するしかないんだ、と官憲や騎士団に対する愚痴も言っていた。


「何があった?」

「……私にもよく分からないんです」

「…突然襲って来たのか?」

 思い当たる節がないと俯き考え込むメアリーに、俺が続けて質問した。するとそれに答える彼女は心当たりを思い出したのか、ハッ、と顔を上げた。

「…いえ、おそらく私をつけて来たんだと思います…」

「つけて来た? …なぜ?」

 メアリーの答えに今度はライオットが質問を放つ、それに視線で答えるとメアリーは俺達を見回して事情を話し始めた。

「…今日は所用で北部の街まで行ってきたんですが、訪問先を出た時から何者かの気配は感じていたんです…。でも、トロールというよりは…もっと上位の蛮族の気配だったような…」

 そこまで言いかけて、遠くから走って来る女の叫びにも似た呼びかけに、メアリーの言葉は遮られた。

「メアリーッ!」

 その声の主は、いつだったか助けてやったユーニと名乗るエルフの少女で、その声に応えてメアリーが手を振り答える。

「ユ…ーニッ…」

 走って来た勢いそのままにユーニはメアリーに抱き着き、彼女の返事はそこで途切れた。

 ユーニといえば、心底、心配していたんだろう、メアリーの存在を確かめるように、キツく彼女を抱きしめる。そんな友人の様子にメアリーは、クスリ、と笑い、『大丈夫』と言いたげにユーニの背を撫でてやる。

「無事か!? 怪我は?」

 きつく抱きしめたかと思えば、勢いよく体を離してメアリーの全身を確かめる、急に体を離された反動でメアリーは驚いたように目を見張ったが、ユーニの必死な様子に、ふふっ、と苦笑いを零し、彼女に答えた。

「はい、大丈夫です。冒険者の皆さんに助けて頂きました」

 そう言って俺達を顧みる、それにユーニが深々と頭を下げながら「私の大切な友人を助けてくれて、ありがとう」と言って、ティーダが恐縮したように答えた。

「…否、オレたちにとっても依頼主だから、当然のことをしたまでだよ」

「…ん? …んん!? 君等は何時いつぞや助けてくれた冒険者の兄弟…ティーダとティードだったか!?」

 顔を上げ俺達を見ると、ユーニは訝しげに俺とティーダを交互に何度も見て、一瞬固まったあと、思い出したように目を大きく見開き声を上げた。その滑稽な様子に俺は失笑しつつ頷く。

「ああ、…奇遇だな」

「…ユーニ、知り合いなの?」

「ああ! 私を窮地から救ってくれたんだ」

 驚いた様子のメアリーに、ユーニは快活に答えた。その様は冒険譚を言って聞かせる少年のように無邪気だ。

 そんな様子のユーニに、ティーダが声をかけた。

「あの時は犯罪者だとか言って済まなかった…。皮肉のつもりだったんだが、言葉が過ぎた…」

「いやいや、私にとっても新鮮で貴重な体験だったよ」

 ティーダの詫びの言葉に、ユーニはさほどの問題もない、と言いたげに笑って、その返事にティーダは安堵したようにつられて微笑むが、薄く苦いものが混じっていた。

「…それで、君等はこれからどこへ行くんだ?」

「昼飯食いに行く途中だが?」

 答えた俺に、ユーニは残念だ、と言いたげに一息吐き「そうなのか…、では、ここでお別れだな」と名残惜しそうに苦笑いを浮かべた。そして、思い出したように言葉を繋ぐ。

「メアリーのこと、本当にありがとう。後で謝礼を届けさせたいんだが、どこに届ければ良い?」

「え…、いや、謝礼を貰うつもりは……」

「くれるって言ってんだ、貰っとけよ」

 ユーニの申し出に、戸惑うというよりは困ったと顔を歪めたティーダに、俺は茶化すように声をかけた。すると、兄貴は『そんな事出来るか』と言いたげに渋い表情かおを俺に向ける。

 俺達のやり取りに、ユーニが苦笑いを浮かべて言った。

「ああ、私の気持ちなんだ。受け取って貰えたら有り難い」

「…じゃぁ、ギルドに届けてくれたら、後で貰いに行くよ」

「了解した。手配しておく、ではな!」

「皆さん、ありがとうございました」

 渋々と承諾したティーダに、ユーニは満足げに頷き颯爽と踵を返した。それに続いてメアリーも俺達に再度頭を下げ、広場から出て行った。

「気を付けてな〜」

 ティーダがそう言って手を振りつつ彼女らの背中を見送ると、俺達も遅めの昼飯にありつくべく、【酒場 〈死にたがりの亡者亭〉】へ向かった。



「いらっしゃいませ〜」

「いらっしゃ〜い」

 ティーダが亡者亭の扉を開くと、明るく軽やかな出迎えの掛け声が二重音声で飛んできて、それにティーダは面食らったように驚いて、その様子に俺は思わず笑ってしまった。

 声の主は女給ウェイトレスのミニーとアンジェラだ。

「あら、珍しい組み合わせね~!」

 そう言って両手に持ったジョッキを常連客の前に無造作に置いて、アンジェラが言葉を続けた。

「空いてるテーブルに適当に座ってちょうだい! ミニーさんオーダー受けてね~」

「あ、はいッ…!」

 手馴れたアンジェラに対して、指示を受けたミニーは、まだここの仕事には慣れていないらしい。別のテーブルから下げてきた食器類をカウンターに運ぶ途中で答えて、ちょっと待っててください、と言いたげに軽く会釈してきて、それにティーダが手を上げて答えた。

「急いでないから、ゆっくりで構わないよ」

 ミニーを気遣う返事をしながら、ティーダが空席を見つけて、俺達を見返りながら指差した。壁際の四人掛けのテーブルがいくつか空いていた。


 ミニーが女給として亡者亭ここに務めだした日以降、ここの客入りはさらに伸びたらしく、飯時はいつも混んでる、とアウェインが愚痴っぽく零していたんだが、昼飯時を過ぎた店内は程よく空いていて、客もまばらだった。


 テーブルに座って、店内を見回していると、テーブルの下からエール入りのジョッキがひとつ生えた。

「とりあえず、エールひとつおいとくな〜」

 そう言ってピーターが顔を出し、またもティーダが驚き目を見張る。

「…ピーター!? 何してるんだこんなところでッ!」

「なにって、手伝いだよ?」

「…お前、あれからミニーについてここに通ってんのか?」

「うん、そうだよ。おっちゃんトトニーと話しつけたんだ!」

 俺の質問に答えるピーターは得意げに笑って、カウンターの中で忙しく手を動かす店主を顧みた。そのピーターの動きに答えたトトニーは、仕方ない、と肩を竦め苦笑いを浮かべている。

 ピーターの勢いに押し負けたんだろうな…。

 そうこうしてるうちに、ミニーが神妙な顔をして俺達のテーブルにやってくる。彼女が両手で持った丸盆の上には二人分のジョッキが乗っていて、彼女の手の震えに呼応するようにカタカタと小さな音をたてていた。

「お待たせしましたっ」

 丸盆をテーブルに置き、一息つくとジョッキをテーブルに置き、一緒に乗せていたメモを手にして「…注文はどうなさいますか?」と聞いてきたから、俺達は適当に二、三品(ティーダはミートパイを二人分追加で)頼んで、ミニーはぎこちない笑みを顔面に貼り付けたままカウンターへ戻って行った。


 …顔見知りの俺達相手にあの様子じゃ、やはり接客業には向いていないみたいだな。


 彼女の後ろ姿をそんなふうに思いながら眺めていると、ピーターが俺を見上げながら言った。

「かぁちゃん…、あれでもずいぶんできるようになったんだよ」

 その俺の内心を見透かした台詞に少し驚いて、ピーターを見下ろすと、空いていた俺の隣の椅子に断りもなく腰掛けて、心配そうに母の姿を見ている。

「…へぇ、…そうなのか」

 興味なさげに頬杖つく俺の態度も意に介さず、ピーターはぼやくような口調でミニーの働きぶりを話し始めた。

「うん。さいしょの日なんて、キンチョーしっぱなしで、ジョッキと皿を、これでもかってくらいにわるし、こわすし…。注文とる時の声が小さすぎるって、客のおっさんにどなられてたし…。まぁ、そいつはオレがやっつけたんだけどな! パニクってまわりが見えなくなってるからか、なんでもないとこでつまずいて、料理を床にぶちまけちゃうし、テーブルの上のジョッキにひじをひっかけて落としてこわすしさぁ…。夜の仕事やめてくれたのはうれしいんだけど、かぁちゃんて内気だからさ、客商売には向いてないと思うんだよな…」

 淀むことなくミニーのダメなところを言い切る姿に、俺もティーダもライオットも苦笑いを浮かべて聞いてるしか出来なかった。

 ただ、この年頃の子供にしちゃ、我が親のことながらよく見ているし、語り口が大人顔負けで小生意気なんだが、やや批判的な言い方ながらも最後に気遣いの言葉で締めてるあたり、ミニーのことが心配で仕方ないんだろうな。

「君のお母さんは良くやっていると思うぞ…」

 ぽつ、とライオットが言った。彼女を見上げるピーターの瞳が嬉しそうに煌めいた。

「…前職同様、自分の性分に向かない仕事だと思いながらも、君と恙無つつがなく暮らせるように懸命に働いているし、努力している。…とても、素敵な人だと私は思うのだが、どうだろうか?」

「……。へへっ、当たり前じゃん! オレのかぁちゃんだもん!!」

 同意を求めるライオットの言葉に、ピーターは得意げに笑ってそう言うと、椅子から勢いよく降りてミニーの元へ戻って行った。そして、彼女の隣で笑顔を弾けさせて、その笑顔にミニーも、束の間、癒されたのか柔らかい笑みを浮かべていた。


 その後、ミニーとピーターは出来上がったばかりの料理を俺達の元に運んできて、ようやく昼飯にありつけた。

 トトニーの得意料理スペシャリテは相変わらず、非の打ち所がないくらいに美味いし、ティーダは二人前頼んでたくせに、更に「ミートパイ追加で〜」とのたまい、ライオットはその旺盛な食欲と一言に呆れ気味に苦笑いを浮かべた。

 俺達三人の胃袋が満足した頃、アウェイン達が店に入って来た。

 俺とティーダの顔を見るなり、「こないだの貸しを返してもらうぜ~」と言わんばかりに、隣のテーブルに陣取って、そのまま酒宴の流れになった。

 更に、夕方頃には夕飯を食べに来たメリアルドとカリン、遅れてリュクティアも合流し、その日の酒宴は大いに盛り上がった。



 頬を撫でる夜気が少し鋭く冷たく感じる。

 火照った身体には丁度いい。逆上せた顔を冷ましてくれる。


「…ごめんね、ティード」

 隣を歩くメリアルドがそう言って、申し訳無さそうに俯いた。

 その横顔は、だらしない亭主の不甲斐なさを詫びる女房そのもので、なんとも言えない心持ちになった。その、ティーダと言えば、俺の肩に凭れ掛かって、気持ち良さそうな顔をした夢うつつの状態で、むにゃむにゃ言いながら、辛うじて足を動かしている。

「否、……てめぇの限界も考えず、勢いで呑むコイツが悪いんだ」

「……調子に乗せたボクたちのせいだね」

 顎でティーダを指した俺に、メリアルドは反省しきりと言った様子だ。

「…全く。君のお兄さんは人なのかな?」

「………申し訳…ない」

 ティーダを挟んだ向こう側で、リュクティアがぼやくように皮肉を吐き出した。それに俺は情けなく思いつつ、詫びることしか出来ない。

 なぜなら、泥酔して前後不覚になった兄貴ティーダの半身を担いで、一緒に運んでくれているからだ。ただ、この事態を招いた一因はリュクティアにもあるんだが、その辺に対する一言は飲み込んだ。

「まぁ…、僕等も悪ノリで酒に弱いって分かってたのに、ティーダを煽ったからね。そこは謝るよ」

 俺の横顔が不機嫌かつ不満だと映ったのか、リュクティアは少しだけ気まずいと苦笑いを浮かべる。

「……俺は忠告してたからな?」

「ボクも前から言ってたし…。リュクは止めてくれると思ってたのに…」

「ごめんね、メリア。煽られたとは言え、ティーダがあんなにも頑なだとは思わなくてさ。それに…まさか本当にショットグラス一杯で撃沈するとは思わなかったんだよ」

 メリアルドの言葉に、リュクティアの面に浮かぶ苦笑いが申し訳なさを帯びる。その二人のやりとりに、メリアルドがリュクティアを兄のように慕っている事が伺いしれた。リュクティアの方も同じように思ってる事も見て取れた。

 そんな二人の様子に少しの寂しさを感じつつ、俺はリュクティアに前回の酒宴の事を聞いてみた。

「前の時も泥酔して手間を掛けさせたみたいだが?」

「ぁあ〜、…あの時は普通に飲んでて…、今夜みたいな飲み比べはしなかったんだけどね。いつの間にか、こんな感じになっちゃったんだよ…」

 俺の質問にリュクティアは苦笑いのままでそう言って、俺は『だろうな…』と溜め息を吐きつつ答える。

「コイツ、酔ってる素振りを一切見せないからな……」

 実際、ティーダは酒に弱いくせに、なぜかが表に出ない。本人が酔いでいっぱいいっぱいでも、外側から見てる分には普通と変わらず、顔色も変わらない。いつもと違うとすれば無口になって、存在感が薄れるくらいだ。

 だから、突然、テーブルに突っ伏して寝て(というか、気絶だな…)しまうし、気がついたら端の方で寝てることが多い。今回は、アウェイン達に煽られてウィスキーを呷ったところで撃沈した。

 それを思い出しながら、俺はリュクティアに釘を刺すように言い渡す。

こいつティーダの限界は、調で、エールはジョッキ三、四杯。度数強めはショットグラス一杯。それ超えると気絶して使い物にならねぇんだよ…」

「そうみたいだね、……覚えておくよ」

 そう言って、リュクティアは肩を竦め、フッと納得したような笑みを含む溜め息を吐き出した。






【攻略日記:雑感 七日目 3】


ティード:おい、……戦闘があるなんて聞いてないぞ。

saAyu:まぁ…、言ってませんでしたしねぇ〜。

ティード:……(イラッ)。

ティーダ:えっと、これは次の行き先、【つながれた浮遊岩】のランダムイベントの分なんだな?

saAyu:そです〜。小説パートに組み込めそうな内容だったので、ここにねじ込みました! 『メイドの受難』と言うやつです。では、振り返りいきますかね〜。

ティード:えっと…、脅威度が強敵加算入れて7.1以上、出目は①だから…蛮族遭遇表は「トロール×2」になってるな。

ティーダ:ちなみに、襲われていたメアリーはこの戦闘にフェローとして参加するんだよな。

saAyu:そう言う事で〜す。


【トロール】戦(ランダムイベント)

 ※トロールのデータはルルブⅠ447頁を参照。各判定は固定値を使用。 

 ※メアリーのフェロー表は本書109頁を参照。

 ※ティードの初手は【鎧貫きⅠ】(攻撃対象の防護点半減、端数切り上げ)を宣言するものとして扱います。


◆1ラウンド目

 こちらからの先攻で、まずはトロールAを攻撃。

 ティードは、初手、二撃目とも当てて、【5(出目⑨)+10(追加D)=15】そこから敵防護点3点を引いて、まず、12点の確定ダメージ。【1(出目③)+10(追加D)=11】そこから敵防護点5点を引いて、6点の確定ダメージ。

 続く、ティーダの出目は②で【近接攻撃】を選べる出目。【6(出目⑦)+11(追加D)=17】ここから敵防護点5点を引いて、12点の確定ダメージ。

 メアリーさんは【ポーション類】になったので、キャンセルしました。

 トロールAの残りH Pは20、Bの方は無傷です。

 トロールの攻撃をティードは2回とも回避しました。


◆2ラウンド目

 こちらの攻撃ですが、さっきのラウンドでかけ忘れていた練技【マッスルベアー(MB)】と【ビートルスキン】を宣言後、ティードはトロールAを殴りに行きます。二撃とも当てて、【4(出目⑧)+12(追加D+MB)=16】そこから敵防護点3点を引いて、まず、13点の確定ダメージ。【3(出目⑥)+12(追加D+MB)=15】そこから敵防護点5点を引いて、10点の確定ダメージ。

 ここでトロールAが倒れます。

 続く、ティーダは出目⑥で【フォース】を選べる出目。抵抗の達成値は19で、トロールの精神抵抗の固定値は15なので、抵抗できず【3(出目⑦)+9(魔力)=12】トロールBは12点の魔法ダメージ。

 メアリーさんは【スカウト運動判定】になったので、キャンセルしました。

 トロールBの残りH Pは38です。

 トロールは、自身を【キュアハート】で17点回復(全快)しました。


◆3ラウンド目

 ティードの攻撃は初手は当てたものの、二撃目は同値回避されてしまい、【4(出目⑧)+12(追加D+MB)=16】そこから敵防護点3点を引いて、13点の確定ダメージ。

 続く、ティーダは【近接攻撃】を選べる出目。【6(出目⑥)+11(追加D)=17】敵防護点5点を引いて12点の確定ダメージ。メアリーさんはここでも【スカウト運動判定】になったので、キャンセルしました。

 トロールBの残りH Pは25です。

 トロールは、回復しても消耗戦になるだけなので一矢報いるため、ティードに対して【フォース】を放ち、ティードは抵抗して半減とはなりますが、【3(出目⑦)+7(魔力)=10÷2=5】、ティードは5点の確定ダメージを受けて、残りのH Pは51。


◆4ラウンド目

 今回、ティードは二撃とも当てて、【4(出目⑧)+12(追加D+MB)=16−3(防護点)=13】【5(出目⑨)+12(追加D+MB)=17−5(防護点)=12】合計25点の確定ダメージをきっちり叩き出し、トロールを倒しました。


ティーダ:危なげなく終わったな〜。

ティード:まぁ、メアリーもいたしな。

saAyu:…私の出目のせいで…攻撃は出来ませんでしたけどね〜。

ティード:まぁ、アンタのダイス運には期待してねぇし……(肝心なとこで出目が悪い)。

saAyu:すみません…(ティード君の異貌時のダメージ+1するの忘れてたけど、言うのやめとこ…)。

ティーダ:(場を和ませるように)そっ、そういやさ、オレが酒に弱いって設定っていつからなんだ?

saAyu:ん〜? 最初からですね~。小説版でも弱い設定です。

ティーダ:…そうなのか、…あの、もう少し呑めても…。

ティード:酒が入ると無口になって存在感が薄まるんだ、今のままがちょうど良いよ(喧しくなるよりよっぽど良い)。

ティーダ:……。(不本意だと言いたげ)

saAyu:まぁ…、そうですね〜(苦笑) ティーダさんはわりと完璧男子なので、一つ二つ弱点があったほうが可愛げがあっていいんですよ。

ティーダ:…そうなのか、……じゃぁ仕方ないな。(安定のポジティブシンキング!)

ティード:そういや、現実世界そっちのビールはエールよりもラガーが主流なんだな?

saAyu:日本に限って言えば、そうですね〜、エールも最近は聞くようになりましたけどね。(※ちなみに著者はお酒はあまり嗜みません)

ティーダ:こっちでエールが主流になってるのはどうしてなんだ?

saAyu:…ん〜? ファンタジーRPGで飲まれるお酒といえば『エール』ってイメージだから?? まぁ〜世界観のイメージが中世ヨーロッパなんで、発酵温度の関係でそうなってるんじゃないかな、冷却設備が整ってないとラガーは発酵時の温度管理が容易ではないでしょうし。あと、エールはお水の代わりにガブガブ飲んでる印象ですね~。中世は水は飲料としては適してなかったみたいですし。

ティーダ:その割に、水を飲む描写が結構あるよな?

saAyu:まぁ、そうですね〜。では、飲料用水に関しては、地下水である井戸のお水は濾過した上で、都度熱処理して飲んでるって感じですかね〜(山間の湧水なんかはそのまま飲めても良いかもな〜)。

 川の水は…ちょっとアレ(基本、下水垂れ流し)かも…(下水設備に関しては後で話してるけど)。

ティーダ:じゃぁ…オレたちが持ってる水筒の中身の水は?

saAyu:あれは、濾過した上で熱処理したお水です。唾液が混ざると直ぐに傷んじゃいますが…、まぁ、神官ティーダさんがいるので、ダイジョブダイジョブ〜。(ニコッ)

ティーズ:………。

ティード:……アンタの住んでる世界では飲料水ってどうなってるんだ?

saAyu:ん? まぁ、私が住んでる所では、蛇口を捻れば安心して飲める水が出てきますよ。

 あと、作中のラクシアの文明レベルは、魔動機文明を経てるので、現実世界こちらの19世紀中期〜20世紀初頭を想定して書いてます。なので、都市部(ラクシアの大都市や栄えてる国)は、一応、上下水道の設備が復旧していて、比較的安全なお水が蛇口から飲める。といった感じでしょうかね…。(あくまで、での話)

 ヴァイスシティでも新市街や西街区は、蛇口から出るお水はそのまま飲めても良いかな〜?

(※【時計塔屋敷】や【茨の館】は、小説パートでは新市街内にあるていで書いてます。)

ティーダ:ヴァイスシティは上水道が整ってるって描写があったが、下水道も一応機能してるのか?

saAyu:そうですね~、新市街は割と快適に不便なく暮らせる感じで書いてますよ〜。上下水道に関してはこちらの最新鋭な設備ではないでしょうけど…、それなりの(原始的な)設備があるんじゃないかな? 下水は…最終的には川に流してるでしょうけど(あ、農村部や村なんかは肥料として利用してる感じかな~…)。

 あと、電力も無いでしょうし、電子コンロや電子レンジはないけど、氷や魔動機の技術を使った冷蔵庫(遺跡から掘り起こして修理するの前提で冷やすのが精一杯)くらいはあるんじゃないかな〜って思ってます。あと、レンガ造りのオーブンとか竈はあるかな〜?。

ティーズ:……デンリョク?

saAyu:あ~…、ラクシアそちらで言うならマナみたいなもんです(動力=エネルギーと言う意味では同じ感じかな…?)。ともかく、飲み水に関しては安全なお水が手に入る環境なので、安心してください!

ティード:…まぁ、不便はないし良いけど。そういや、食いもんに関してもついでに解説しとくか?

saAyu:あぁ! そうですね、近況ノートにも書いてますが、私のラクシアには現実世界にある食べ物は『大抵ある』と言う前提ですね。舞台となるヴァイスシティはアルフレイムの北に位置するので、温暖な土地で採れる野菜や果物は入手が難しいかもですが…。細かい育成条件を調べると寒冷地に適してないものもあるかもですが、魔動機文明経てますし、コルガナ地方=東北・北海道くらいの気候と思ってるので、その辺りで採れるものは入手可能と言うことですかね〜。

 基本的に野菜は地産地消で、外からも何かしらの野菜は入ってくる、って感じでしょうか? あと、お肉は牛豚鶏が基本で、いわゆるジビエなんかもあるでしょうね。…そういや、…モンスター的なものを食べたりします?(某ダ○ジョン飯的な意味で聞いてみる)

ティーダ:…倒した敵を食べるのか? ってことを聞かれてるんだろうか?(ティードを見る)

ティード:そうなんじゃねぇの?

ティーダ:野生動物を食べる事はあるが…、基本的に得体の知れないものは食べないな。

ティード:一応、拠点を出る時は保存食を携帯するから、出先で狩猟して食うってことは稀だな。保存食が尽きる前に拠点に戻るか、補給出来る街や村を探すし。…ティーダは、俺が引き取られる前は親父と冒険してたんだろ?

ティーダ:そうだな〜、父さんと冒険してた時も保存食が基本で、食べるとしてもウサギや鳥類、川魚とかだな。大型の動物は始末が大変だからな〜。それに二人だと食べ切れないし、行き先も僻地でもなかったし…。

saAyu:なるほど〜。お肉は好きですか?

ティード:…普通に喰うけど。

ティーダ:そうだな〜、魚よりは好きだな〜。トトニーさんのミートパイは絶品だ!

saAyu:ティーダさんの好物はトトニーさんのミートパイっと、ティード君は?

ティード:……芋を油で揚げたやつフライドポテト。…芋を使った料理は割となんでも好きだ。

saAyu:私と同じですね!(著者はジャガイモと麺類が突出して好き)

ティード:…この話まだ続けるのか?

saAyu:いや、そろそろお開きにしましょうかね〜。

ティード:…じゃぁ、今回はここまでだな。お疲れ。

ティーダ:お疲れさ〜ん。

saAyu:は〜い、お疲れ様でした〜。次は【つながれた浮遊岩】からお伝えします〜。

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卓歴10回未満の駆け出し冒険者が単独でヴァイスシティに挑んでみた saAyu @saAyu_h

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