Ⅳ:date

「じゃあ、行こうか」

「うん…」

 これは、やはりデートdateと呼べるものなのだろうか?

 戸惑いからか嬉しさからか、息づかいが早まってしまう。気づかれるのも恥ずかしいので、君の少し後ろを歩くように努めた。後ろ姿からも分かるほど君は楽しそうにしていた。

 君も問う者askのファンなのだろうか?

 自分でいうことではないかもしれないが、僕には既にaskが遠い思い出にさえ感じ始めていた。

「じゃあ、一番近くから回ろ」

 商業区域marketに近づいた辺りで、君はそう言った。

「わかったよ」

 返事を返しながら僕は手近にある場所問いかけを遺した所を思い起こそうとした。しかし、返事を聞いた君は迷いもなく歩みを再開した。

「場所分かるの?」

「うん。覚えといた」

 確かに君は一度も携帯naviを使わなかった。

 犯罪関連の検索頻度frequency監視対象warningになってしまうから、それの対策だろうか?気にはなったけど、それについて聞くのはやめておいた。

「ここが、最初だよね?」

 僕らが着いたのは、最初の犯行現場聖地

 問う者askが生まれた場所。しかしー

「これじゃ、跡を見ることもできないね」

「そうだね」

 僕らの前にあるのは、二世代前の高層集合住宅Ⅱpassed apartment。半年前、僕はその脇の壁に最初の問いかけgraffitiを描いた。

 その時、隣は老朽期限に達した建物Expiredが取り壊されたばかりで、集合住宅apartment側の更地の一部が、道路上の監視班lookoutから完全な死角となっていた。

 それに気づいてしまった僕は、という一心から、そこに最初の問いかけgraffitiを描きなぐった。

 確か問いかけgraffitiは一日で消されてしまい、その壁面も今や、更地に建てられた新世代高層集合住宅neon apartmentによって塞がってしまっている。次に老朽期限Expiredが来るのは確実に問いかけgraffitiを描いた方の建物だ。同じ場所で問いかけることはできないだろう。

「隙間入れるかな?」

「やめときなって」

 住宅の間にある僅かな隙間をのぞく君。

「ところで、最初はなんて聞いたんだっけ?」

これでいいのかIs this right?だったかな」

 気恥ずかしさが込み上げてきた。まさか、これを今日ずっと続けるのか?

「わたしはいいと思ってたかな。最近はちょっと違うんだけど…」

「何かあったの?」

「うまく説明できないの。でも、多分自分のせいな気がする」

 そこで、君は初めて歯切れの悪い表情を浮かべた。僕はおれがとても気にはなったが、やっぱりそれ以上聞かなかった。

「じゃあ、次に行こう」

 君は再び迷いなく歩きはじめた。本当に全部を覚えていたんだ。

 その後、2問目、3問目と問いかけgraffitiを巡っていった。


 ∧


 それが続く内に、僕も乗ってきたのか。

「これ以降はいくつか飛ばしてもいいかも」

「どうして?」

「以前の質問graffitiをアレンジしたり、無駄な言葉Extraを足したりしちゃってて」

「スランプ期?」

「そんな感じ」

 そんなことを言い始めていた。

 それか、かわいい女の子が自分に関することaskで楽しんでくれていることに、胸が躍ってしまったか。

 どちらにしても、僕は君を早くあの場所へ連れていきたいと思い始めていた。

 僕が、みんなが知る問う者askとなった場所聖地へ。

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