まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜

陰陽

第1話 最高の仲間たちとの別れ

「アスガルド、……済まないが、俺たちはお前を連れて行かないことにした。」

 青天の霹靂とはこの事だった。冒険者になって早十余年、俺にそれを告げたギルマスのランウェイは、パーティーを組んだ最初のメンバー、かつ幼馴染で俺の親友だ。

 順調とは言えない道のりながらも、S級までギルドが上り詰め、いよいよ難攻不落、最下層まで到達した者は伝説の勇者のみ、という最高難易度のダンジョンに潜る手筈となっていた。

 テイマーの俺もそれに備え、準備をしている最中、部屋にギルドの主要メンバーが突然訪ねて来たのだ。


「俺たちは明日、目標にしていたダンジョンに潜る。メンバーは最高戦力を備えておきたい。

 ダンジョンには一度に6人しか潜れない。

 だから一人でも火力や回復が出来るメンバーが欲しい。……それは分かるな?」

 ランウェイが静かに言う。

「──ハッキリ言って足手まといなんすよ。」

 主要メンバーの後ろから、ファミーアキャットの獣人、アノンがニヤニヤした顔を覗かせる。

 最近ギルドのBランクでメキメキと頭角を現してきた武闘家だ。


「ちょっと、いくら何でも先輩に失礼だよ。」

 槍使いのリスタがアノンを嗜める。

 俺には当時故郷に残してきた妻と子どもがいたので断ったが、俺なんかの何が良かったのか、告白してきてくれた女性。断った後も遺恨を残さず気さくに接してくれた、俺には勿体ないくらいの美女だ。

「だってえ、本当の事っすもん。

 この人を追い出して、俺を代わりに入れる事に、違いはないじゃないっすか。」

 皆が一様に視線を下げる。


「……お前はテイマーだ。

 主な仕事はダンジョンの探索。

 俺たちがまだ弱い頃、それに何度助けられたか分からない。

 それについては本当に感謝してるんだ。」

 剣士のサイファーが言う。

 コイツとも、割と長い付き合いだなあ。酒に弱いメンバーが多い中で、俺とコイツは、よく潰れるまで飲んだっけ。

 一緒に世界中の美味い酒を飲もう。そう約束した日を、今でも昨日の事のように覚えている。


「けど……、ダンジョンのレベルが上がる内に、やっぱり、戦力にならないなって思っていたの。

 テイムしてる魔物のランクが上がれば、話は別だったんだけど。

 アンタ、その子と別れる気がないんでしょ?」

 魔道士のサーディンが言う。途中参加ながらパーティーの盛り上げ役を買って出てくれた女の子。

 アイテムも尽き、心が折れそうな時、最後まで諦めず、いつも皆を励ましてくれた。サーディンのおかげでクリア出来たダンジョンも、幾つあったか分からない。

 俺のテイムしている魔物はロックバードのリッチだ。Bランクのダンジョンまでなら戦力にもなるが、Aランク、Sランクともなると、探索以外に役に立たない。


「知っての通り、俺たちは、ダンジョンに潜る費用を稼ぐ為のBランクパーティーがあるだろ。

 あんたさえよければ、その……。そこで……。」

 弓使いのグラスタが、言いにくそうに言葉を濁す。

 入ったばかりの頃、右も左も分からなかったコイツに、冒険者のいろはを教えたのは俺だった。

 俺を兄貴として慕ってくれた可愛い後輩。いつも笑顔で明るいグラスタが、今は悲しげに俯いている。


 ダンジョンは高難易度ともなると、レアドロップがあれば黒字だが、大抵はアイテムの大量消費により赤字になる。

 その為Aランク以上のギルドでは、コスパのいいダンジョンに潜らせる為に、Bランクのパーティーを別で稼働させている。

 ようするに、主要メンバーが高ランクダンジョンに潜る費用を稼ぐ為の、資金稼ぎメンバーに置いてくれようと言うのだ。


「そうか……。

 済まない、俺のワガママで、リッチを手放せなかったばかりに、お前たちに気を使わせてしまっていたんだな。」

「アスガルド……。」

「俺は冒険者になった時から、このパーティーで戦って来た。

 今更他の奴らと組む気はせんよ。

 それに、そろそろ潮時かなとも思ってはいたんだ。

 娘も故郷に待たせているし、金も大分溜まった。これを機に、俺は冒険者を引退するよ。」


 それは強がりだった。伝説のダンジョン制覇。それは冒険者なら誰しも夢見る、俺も最初に掲げた夢の1つだった。

 だが、何度も俺を救ってくれたリッチを手放せないのも、コイツら以外と組んでまで、冒険者を続けたいと思っていないのも本当だった。

 ここまで……か。

 かくして心が折れた俺は、最高の仲間たちを失い、失意の中、生まれ育った故郷、ルーフェンを目指すこととなったのだった。

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