婚約破棄されたけど、不幸になったなんて意地で言いたくない。

仲仁へび(旧:離久)

第1話





 くるっぽー。


 僕はハトノスケ。


 飼い主が二人いるんだけど、どっちも似た者同士だから、呆れながら仕事をしている所だよ。


 そんな僕は、たまに手紙を運ぶお仕事をしているんだけど、今日も二人とも疲れた顔してそう。。








 私は、婚約破棄されてから、不幸になった女だ。


 運が悪くなった、と言えばいいのか、元婚約者であった男性に切り捨てられてから全てがうまくいかなくなった。


 たった一年の間にあれよあれよと、周りの環境が悪くなって、様々な物を失ってしまった。


 災害の影響で領地が荒れ果て、貴族の立場を失い、領民に八つ当たりされ、命からがらその地から逃げ出し、平民になって、貧乏生活で苦しい思いをしている。


 けれど、こんな事は、婚約破棄をしてきたあの男にだけは知られたくない。


 だから、私は精いっぱい意地をはるのだ。


 今にも壊れそうなボロ机の上で、貴重な紙とインクを消費しながら、手紙をしたためる。


 運ぶのは、幼いころからの話し相手だった鳩、ハトノスケだ。


 この子がいれば、手紙は飛ばせるから。


 元婚約者であった彼とは子供の頃から良く手紙をとばしあっていた。


 だから、よっぽどのことがない限り、この鳩が目的地を忘れる事はないだろう。


 インクを使いながら、文字をつづる私は、架空の物語を記していく。


 私は幸せ。

 今では、次の恋も見つけた。

 もうすぐ婚約するだろう。

 しかもその人はお金持ち。

 まわりの人も祝福してくれる。

 食べる物にも、着る物にも困ってなどいない。

 結婚式を挙げるなら、壮大な物になるだろう。

 私は不幸に等なっていない。

 だから、残念でしたね。


 そんな具合に。





 数回に分けて、わざとらしくないように飛ばした手紙には、たまに返信があった。


 元婚約者から来たそれは、彼らしい尊大な口調そのままで、書かれた文面だった。


 内容はこんな感じだ。


 俺の方が幸せだ。

 お前を切り捨ててから、全てが上手くいっている。

 もっと顔の良い女と付き合っているし、お前より立場が上。

 前よりも知名度が上がったし、領地の経営も順調。

 多くの人が俺の手腕を褒めたたえている。

 財産も増えたち、料理も豊かだ。


 などなど。


 ずいぶんと良い思いをしているらしい。


 ならば、ますますこの意地を引っ込める気にはならなくなった。


 私は断じて可哀そうな女ではないし。


 不幸な女でもない。


 幸せで幸せで、何もかもが満ち足りた女なのだ。








 くるっぽー。


 僕はハトノスケ。


 今日も手紙を運んできた。


 二人とも、やっぱり似た者同士だった。


 僕の飼い主たちはどうしてそう、素直になれないんだろう。


 どっちも、壊れそうな机に向かって、眉間にしわを寄せながら手紙を書いてるなんて。


 でも、虚勢を張るのはハト界でも常識だ。


 強者に襲われそうになった時、弱々しい姿を見せたら、生き残れないからだ。


 でも、それは強いやつが相手の時だけ。


 飼い主二人はどっちも大したことないんだから、無駄な時間を使って、意地なんて張らなければいいのに。






「はぁ、いつまでこんなバカみたいな手紙書かなくちゃいけないのかしら。このお金で、生活用品を変えるのに」


「はぁ、いつまでこんなあほらしい手紙を書かなければならないんだ?この時間があったら、荒れた領地を立て直さないといけないのに」






 さあ、手紙を書く時間だ。


 今日も私は(俺は)、ボロ机に向かって、意地をはり続けなければ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄されたけど、不幸になったなんて意地で言いたくない。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ