『愛するということ』フロム・ミー

ジュン

第1話

「エーリッヒ・フロムの『愛するということ』が再注目されているみたいね」

彼女はそう言った。

「そうみたいだね」

「『愛するということ』は、どういうことなのかしら」

「そうだなあ……」

僕は続けて言った。

「愛することは、相手本位に振る舞うとか、相手に奉仕することだって言う人もいるけど、僕は違うと思うんだ」

「どういうこと?」

「本当に愛するためには、『自分の』欲望と感情を失くしてはいけないということ」

「『自分本位』でいいってこと?」

「考えてもみてごらん。相手に奉仕する給仕みたいな伴侶に、魅力や解放感を感じるだろうか」

「そうね……」

「人が一番幸福を感じるのは、生き生きと自己表現している連れ合いが傍らにいる時じゃないかな」

「お互いに『自分本位』でいいと?」

「自分を大切にできる人は、その温かい感情を他者に対しても放散することができる。逆に自分を否定する人は、他者に対しても否定的で、陰鬱な人になってしまいがちだ」

「そうね。言われてみれば」

「『愛するということ』だけど、まずは、自分を尊重する。自己にやすらぎを感じられるようになることが先決だ」

「なるほど。でも、その人は自分勝手にはならないのかしら?」

「ならないと思うよ。自分を愛せる人は、他の人も同じく自分を愛し、他者から愛される欲求があるのだということが、自然と理解できるから、自分だけが愛されて、そのために他者を犠牲にしてもいいなんて思わないのさ」

「『愛するということ』を一言で言えば?」

「相互に過剰適応しないで自己を保ちつつ部分的には相手に譲歩する関係、じゃないかな」

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『愛するということ』フロム・ミー ジュン @mizukubo

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