第17話「生徒会登場」


(校内放送)

『2年5組の宮橋良太、天野樹。至急、生徒会室にくるように。繰り返します。2年5組の宮橋良太、天野樹。至急、生徒会室にくるように』


「お!お前らなんかやらかしたな!」

 放送を聞いた瞬間、柿原が嬉しそうにこちらにやってきた。


「俺と樹?なんかしたか?」

「良太は何かしてそうだけど樹も呼ばれるのは珍しいね」

「それどういうことだ、周」

 確かに大場の言った通りかもしれない。宮橋は呼ばれる可能性は高そうだけど僕はなぜ呼ばれたんだ?

 しばらく思案してみるものの全く心当たりがない。今まで通り静かに生活していたはずだけど…。

「よくわかんねぇけど。行こーぜ、樹」

 宮橋にそう言われ僕は何か釈然としないまま半ば強引に生徒会室へ向かった。


 宮橋は生徒会室に行ったことがあるらしく、僕は連れられるまま生徒会室に来た。もちろん、僕は生徒会室に来たのは初めてだ。

「ちゃーす」そう言って宮橋はノックもせず生徒会室に入った。

「宮橋ノックぐらいしたらどうだ?」

 そう言い放ったのは、黒髪オールバックの生徒会副会長の長内翼だ。普段制服を着崩している宮橋とは違ってスーツのようにビシッと着こなしている姿からまるでエリートビジネスマンのようだ。彼の外見からでも生徒会にふさわしい人物だと把握できる。

 長内については一応同じクラスだが、名前は知ってたけど未だ話したことがない。そもそも、僕は同じクラスであの4人と柿原、林以外とは事務連絡以外まだ話したことがないからだ。

「よぉ、長内。生徒会室は学級委員の会議以来だわ」と宮橋は呑気に挨拶した。

「全く、学級委員長だろ」

「まあまあ、長内君。いいじゃないかノックくらい」

 生徒会室で「コ」の字型に3つ並べられらたデスクの奥。生徒会長の席から低い声でそう聞こえた。

「会長…」

 低い声の主が生徒会長で、机に置いてあるネームプレートで名前を確認してみると3年4組大森茂徳と書いてある。そして、生徒会長の方に視線を移してみると席にどっしりと座っている人物がいる。外見の特徴は角刈りの太眉でなんと言っても目力が強い。その風貌はまるで西郷隆盛に眼鏡をかけた人物と言ったら最もイメージしやすいだろう。

 さらには、生徒会という文化部にも関わらず、まるで格闘技をやっているのかと思わせるような恰幅の良さである。舌戦でも肉弾戦でも勝ち目を感じさせない、その生徒会長の姿からはまさに知性と強さを感じさせる。

 

「君たちが宮橋君と天野君かな?」

「そうですよ」

 宮橋は生徒会長の雰囲気に臆することなくそう答えていた。というか、あまり気にしてなさそうだ。

「そうか。君らとは初めて話すかな。初めまして、生徒会長の大森といいます。急にお呼び立てして申し訳ないね。その件についてなんだけど書記の霧島君から説明があるんだ」

 生徒会長という座についているからだろう強靭な精神力の強さを感じさせ、年齢が一つ上の人間と話してるとは思えないような安定感のあるしゃべりだった。見た目も相まって、まるで、社会人経験を豊富に積んだ人と会話してるようだ。

 生徒会長はそう言った後にパソコンに向かって作業している眼鏡をかけた女性が最後にキーボードを「タンッ」と叩き、席を立ち僕らに向かって言った。

「わかりました会長。私は生徒会書記2年1組のの霧島楓と申します。今回、お二方をお呼びした件は以前、小学生の男の子を夜遅くまで連れ出していた件について近隣住民の方から報告があったことについてです」

 小学生の男の子?最近の記憶だと祐正のことか。やっぱりあのときは制服を着た高校生と小学生が夜遅くまで出歩いていたら見る人が見たら不審に思われるのか。

「目撃情報の特徴から倉西高校の制服で橙色の短髪の男性。長髪で眼鏡をかけた男性という情報をいただきました。橙色の髪の男性から宮橋さんが挙げられ、その交友関係から長髪で眼鏡をかけた男性として天野さんが挙がりました。その事実確認のため今回生徒会室にお呼びしました。これはお二人で間違いないですか?」

 霧島さんが流れるように且つ論理的に事象を説明していた。

 最近、髪の毛を放置して伸び放題にしてたけど、僕は長髪の部類に入るのか。本題とは別にそんな雑念が浮かんでいた。

 説明されて気がついたが、あの時なんだか嫌な予感はしてたけどやっぱりバレていたらしい。同じことを感じたのか宮橋があの時起きた事実をそのまま述べた。

「あ〜。あの時のことか。そうですね。俺らです。小学生が探し物してたから一緒に探してたんですよ」

「その小学生はどちらかの弟さんとか?」

 僅かな可能性もあると考えたのだろう、書記の霧島が僕らを指しながらそう質問してきた。

「いやそうじゃなくて、樹が公園で泣いてるその子に事情を聞いて探し物してるっていうから、初めは樹が一緒に探して、その後俺も加わったんですけどなかなか見つからなくて夜遅くまでかかったって感じですかね」

「つまり、その小学生とお二人は元々面識がなかったと?」

「まあそうですね」

「天野さん。見ず知らずの小学生の無くしものに夜遅くまで付き合っていたと。そういうことでしょうか?」

 実際にその通りだったので僕は頷いた。

「では、天野さん。そうなるに至った、事の経緯を詳しく教えていただけますか?」

 そう言われ、僕は包み隠さず全ての事実を話した。


「会長。だそうです」

 話を聞いていた生徒会長が一つ息を吐いた。

「そうか。つまり、君らは面識のない児童を夜遅くまで連れ出していたことになるね。うちの高校としてもそれでは近隣住民の方に不審に思われてもしょうがない。いいかい?この事象は君たちの言い分によっては謹慎処分だってあり得るんだよ?」

 生徒会長は僕らを諭すような言い方だった。

「ちょっと待てよ。謹慎ってどういうことだ?」

「僕ら危険な目には合わせてませんよ」

 謹慎と聞いて僕と宮橋は思わず反論した。

「危険な目に合わせてなくても遅くまで児童を連れ出すのは危ないよね。普通は暗くなる前にうちに返してあげるのが当然の行為じゃないのかな?」

 会長の言ったことは確かに正論だと思う。でも、僕が行なった行為に後悔はないし、祐正のあの表情を見れたことに僕らの選択は間違っていなかったと思っている。そもそも、これだけで謹慎なんておかしい。

「確かに夜遅くまで小学生を連れ出していたことは反省しています。でも、その小学生は母親の誕生日にどうしても渡したいと一生懸命書いた手紙だったんです。その子も無事うちにも返しましたし、最後は母親も喜んでくれました」

 祐正が学校で嫌がらせを受けていたんです。なんてことは言えなかったけど、僕も思うところがあって反論した。

「それは結果論だよね。現実に学校に報告が来てるんだよ。君たちが行った行為は近隣住民の方から見たら不審に思われていたんだ」

「いや、でも…」僕がそう言いかけた時だった。

 生徒会長は僕の声を押し消すように言った。

「君らは自分たちが行なっている行為が誰に迷惑をかけているのか理解してるのかな?」

 生徒会長は大きく息を吐いて、話す準備を整えたかのように顔の前で組んでいた手を解いた後鼻で息を吸い込む音が聞こえた。

「君たちはその子を助けたいかもしれないけど、もしその子が危険な目にあったら誰が責任を取るのかな?」

「それは俺らが…」といって、宮橋が言葉を詰まらせてから生徒会長はその回答を待っていたかのように反論した。

「君らが責任を取ったら終わりではないんだ。責任の所在は君らの親御さんであり、学校側の責任にもなるんだよ。場合によっては誘拐と取られてもおかしくないからね。だから、こういう報告が来るたびに、生徒指導の先生方や担任の先生。こうやって僕らも君らを注意しなければならないんだよ。君らは倉西高校の制服を着ているんだから高校の看板を背負っているという自覚を持ってもらいたいな」

 反論しようのない正論にまるで大人から説教されている気分だった。

 ぐうの音も出ない僕らは何か反論しようとしたが喉まででかかった発言がこの人には通用しないと感じざるおえない実力差に沈黙するしかなかった。

 生徒会長がそう言い切った後ため息をついた。

「君らの処分は先生方から判断を任されてる。でも、安心していいよ。君らの言い分を聞いて悪気があったわけではないことは分かったから謹慎にはしないけど、苦情が来てる以上、今後同じことのないように気をつけてくれよ。今回はそういうことでいいかな?」

 僕らは頷くしかなかった。

 生徒会長はそう言って僕らの肩を叩き、「長内君報告に行こうか」と長内を呼び会長は教室から出ていった。

 


「長内君」

「はい」

「あの2人はクラスでは普段どんな感じなんだい?」

「宮橋はあの通りの奴ですね。天野は大人しいです。でも、あまり性格が似ていないあの2人が仲良いのが意外なくらいですね。宮橋はともかく天野がこうやって呼び出されるのは正直、驚きました」

「大人しいねぇ…そういう奴が一番危ないんだよな」


 

「2人ともおかえり。なんの話ししてたの?」

「この前の小学生のことだよ。児童を遅くまで連れ出すなって。危うく謹慎になるとこだったぜ」

「え?マジ!謹慎になりそうだったのお前ら」

 また嬉しそうに柿原が飛んできた。

「なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ」

「俺は心配してるんだぞ!で、処分はどうだったんだ?」

「なんもねぇよ。けど、次やったらわかんないってよ」

「おお、そうか。それは、残…よかったな」

「おい。残念だったなって言おうとしただろ?本音が一部聞こえたぞ」

「え?そうだっけ?」

「とぼけるな!」

 さっきまでとは一変していつも通りの光景に戻った。

 しかし、謹慎は免れたが今回の一件で生徒会の存在を身をもって知ることになったのは確かだった。

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