第三十三話 この超新星のように輝く未来を掴みとってよ
「はぁ、はぁ……これだけ切り裂いているというのに、まだ出てくるなんて……やっかいな敵だな、もう」
距離にして、中盤まで差し掛かったころだろうか。
ジュリーは泡影を鞭状の形態にし、ビシッ、バシと打ちつけながら悪態をつく。
「残量エネルギーだけのはずなのになぁ。孵化したばかりのカマキリみたいに、わんさか出てくるとは……まったく、まったくだぁよ」
ブラッディハートは時間跳躍能力者・ジュリーを取り込むことで、最終形態へ進化したドリュアスだ。
ジュリーの天敵として進化していて当然ある。だが、ここまで、再生・増幅に特化した物量型の凶悪兵器になってしまわなくともいいじゃないかと思ってしまう。
「おらも能力上不得手だぁよ。いくら資料と格闘しても、おらだけで勝てる見込みなんかゼロに近いしぃよぉ~」
「ずいぶん弱気だね、銀河」
「いくらおらが超スペックで、ハイブリッド美少女剣士銀河ちゃんでも、おらだけじゃ逆立ちしたって勝てねぇもんは勝てねぇだぁよ」
銀河はホイホイと球体を作り出しては投げて、爆発させる。
表面上の蔓とバラの花びらの敵を弾けさせるのが、精一杯だ。
「でも、コーチやパディが……仲間がいるなら、余裕だぁよ!」
気合とともにピンク色の長いポニーテールを大きく振りかざす。
銀河の気合が最高潮に達した合図だ。
今まで放っていた光の球が一斉に銀河の鞘に集まり、テクノミュージックがこれでもかという大音量で響き渡る。
「じゃ、おらはこれから三十秒時間を作るだぁ! あとは任せただぁよ」
銀河は腰につけた鞘が、灼熱色に燃え盛り鳥のような紋章が浮かび上がってくるのを目視すると、抜刀術の構えをとる。
両目を閉ざし、意識を澄ませ。この世界線の未来を見据えながら。
「いっけぇぇええー」
カッと開いた。と同時に、刀を勢い良く振り下ろす。
「秘剣・コズミィイイックッ・フェニィイックスゥウウウウウ!」
正式名称コズミック・フェニックス。
荒星の桃太郎の付属武器、三体のお供の一体『キジ』に該当する、鞘である。
精神エネルギーの塊である光の球を吸収ことで、灼熱色の大鳥……鳳凰となって顕在化する。
銀河の剣戟に合わせて、強力なプラズマを、燃え盛る火の粉を、撒き散らす。
その破壊力は絶大で、大地が吹き飛び、木っ端微塵に引き裂かれたブラッディハートの根、蔓、花が視野を覆いつくす。
一見すると無造作。しかし、コズミック・フェニックスの羽ばたきはアスラとジュリーをつなげる一本の道を作り出していた。
ジュリーの超人的な動体視力でしか捕らえきれない、勝利への道である。
「はぁあああああ、一点突破!」
ジュリーは布を手にくるくると巻いて、ドリルのような形式にし、衝き進む。
轟音を奏でるとともに、立ちふさがろうとあわてて向かってくる敵をすべて砕く。
「アスラのもとに……導け!」
目的の人物の名を叫んで突っ込んだのは、すぐ側にいけるようにと、泡影に命じたからだ。
言葉が、想いが、力になる。
それも、最大にして最高の絶対的な運命をつかんでくれる。
ゴゴゴゴゴゴォォォォオオオオ!
ジュリーの言霊に反応し、泡影は回転。その凄絶な加速力は、株の密集地帯へと直撃。植物が、茎が、粘液が一瞬で細切れにされ、吹き飛ばされる。
ブシュユユュュッシュ!
ブヨブヨの体内に入り込むと同時に粘液が振りまかれ、回転を抑えようとしてくる。
「……小生では入るだけが限界だな」
吸い取られるエネルギーに苦笑する。
やはりジュリーでは、ブラッディハートの弱点を攻撃するまでの時間は与えられていない。
株の密集地帯から遠ざかりつつも、この近くにいるはずの褐色のフォーチュンズの姿を探す。きょろきょろと見渡し、倒れこんでいる赤い軍服の少女を見つけ出すと、すぐに駆け込んだ。
アスラは口元から血を流し、胸のあたりには穴が開いてある。呼吸は荒いが、息をしているのだから生きている。
止まっていない命に少しジュリーの顔が緩む。
「アスラ、しっかり。気を確かに!」
ペチペチと頬を軽くたたく。
「ジュリー……さん……?」
「よし、とりあえず意識はあるな。一気に逃げるよ」
ジュリーはアスラの柔らかな髪に優しく触れる。
「え?」
硬いが暖かい手にアスラは頬を赤らめ、戸惑いながらもそのぬくもりを受け入れる。
「ぶっつけ本番だから不安だろうけど。大丈夫、小生は慣れっこだから、きちんとリードするよ……銀河!」
「はい、コーチ!」
銀河の返事。
実は、銀河、後ろからついてきていたのだ。ただし、その姿は……鳳凰だった。
「え、ええ?」
銀河としてはこれから放つ必殺技のため、コズミック・フェニックスと、一時的に一体化しただけなのだが、宇宙を彩る恒星たちが積み込まれたような強大な光の化身の姿に、初見で驚くなは無理があるだろう。
「まぁ、一丁派手にかましてやるだぁ!」
銀河のファナティックスーツの聖音が鳴り響き、暖かい光がまとわり、そして──。
「風魔忍法、
煉獄の炎に包まれたのではないかと錯覚してしまうぐらいの大量の熱量が、光量が、ブラッディハートの内部で
目に映る範囲を瞬く間に焼け焦げさせる。
星々の誕生を模したような必殺技を放った鳳凰は、バラを吹き飛ばす勢いで羽ばたき、破壊的膨張に巻き込まれないように飛び去って行った。
鳳凰による救出成功の狼煙。
これ以上、ブラッディハートへと吶喊するのにふさわしい場面はないだろう。
「今だ。いくよ、センジュ」
「ああ、突撃なら、任せて!」
魂の片割れ同士が補い、一つとなったパディとセンジュこと、現・猫観音。
「「最高の、セッッションを今!」」
グルグル模様が付随した紺碧のファナティックスーツから発せられる聖音が、二重奏となって大気を震わせる。
「「光輪・千手招来!」」
一回り大きくなった光輪が、大量の金色の手が、大きく揺れ動きながら、ブラッディハートへと突っ込む。
その途中、わずかな時間だが、鳳凰と交差する。
「後は任せたよ、パディ、センジュ」
「気張ってけよぉ!」
「ああ。任せろ、ジュリー、銀河。そして、アスラ。僕とセンジュは……いや、僕たちは絶対勝ってやるんだから」
入れ替わるように……。
「だぁああぁああ!」
紺碧の羽衣に身を包んだ猫観音は、先程がドリルのように回転していた布に切り裂かれた上に、鳳凰によって焼け焦げ修復し切れていない隙間から、強引に、侵入を邪魔する蔓を押し退けて、内部の、中心部の、株の密集地帯へと飛び込んだ。
スボボボォボボボォォオオ!
ブラッディハート中で、醜悪な赤黒い株たちがビクリと動き出す。侵入者を警戒し、うごめく。
「遅いよ」
琥珀色の目が忙しなく動き、敵の全貌を、弱点を見極めようとしている。
「ロック・オン。今だよ、センジュ」
すべての株を捉え、照準を定める。
その情報を頭の中で受け取り、改めて少女のピンク色の唇は宣告する。
「往生しぃろぉぉぉおおおおお!」
空間一帯に響き渡る神聖で厳格な音。聖音の鳴るもとに、光の輪から数千の枝のように金色の腕が浮き上がってくる。
ドババァァァアア!
境界のディーヴァの無数の腕は、強大な腕力をもって、株に打ち当たっていく。
光の拳で強打した箇所は原子レベルまで分解。金色の粒となり、空中に溶け合い、塵へと帰っていく。
勢い余った力は突き抜けて、ダメージを軽減させてきた妙に生臭い粘液もまた、吹き飛ばされ、虚空の彼方へと消し飛んでいく。
グガァアアァアァアアァ!
ブラッディハートは苦しそうに、ジタバタとその巨体を揺らす。株を失うことで、体を支えていた蔓もまた消失。バランスを崩し、グワングワンと大きく揺れる。
「んっ!」
体内の猫観音もたまったものではない。
猫観音は押し寄せてくる肉壁を抑えつつ、広域視覚能力で動きをよみ、悪意と偶然で襲い掛かってくる蔓を弾き、いなし、逸らして、致命傷を避けている。
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