第二十三話 四体の偶像~イングンロ王国の成り立ちもちょっと出てくるよ!~

 ──東西南北それぞれ守護する四体の偶像。

 現在進行形で生きる伝説であるフォーチュンズと比べると、世界的には知名度が下がってしまうのだが、イングンロ王国では有名な人物たちを模している。


 東の賢者・ニコル。

 イングンロ王国の有名な歴史家で、通史・ケルーズの著者。国や世界の記録を残すことを使命としているレコード家出身。

 彼以前にももちろん、国内の歴史を編纂した者がいるのだが、歴史書として雛形になるぐらい完成度が高い。

 歴史書を世に出した歴史編纂者はニコルぐらいだったと、褒め称えられている。イングンロ王国では、歴史の父として名を残している。

 ヨーク学園のニコル像は、当時の学者スタイルで著書ケールズを持ち、バックには史料が重ねられている。

 これらの史料はケールズを書く際参考にしたものらしく、特別な魔法を施したことによって、色褪せることなく、鎮座しているという。

 一つの偉業を作り出すためには、多くの努力とモノが必要だというのを、訴えるかのような像である。


 西の女傑・スヴァーヴァ。

 イングンロ王国の女帝の一人で、後に勝利の女帝とまで称えられるぐらいに、彼女が在位していた期間の戦歴は凄まじい。

 そもそも、彼女が王位についたのも、王族同士の戦いで勝利したから。

 領土拡大を狙う他国との戦いや、国内での反乱。政治的に不安定な時代を、武力で乗り越えた彼女。

 次代の交渉チートな人たらしの実子に、王位をバトンタッチするまで、国を維持してきた実績は、母は強しを体現したモノであったと語り継がれている。

 ヨーク学園のスヴァーヴァ像は、彼女の象徴でもある、情熱的な赤いバラが巻き付いている。

 このバラにはいつでも咲き誇れるようにと、特別な魔法を施されているらしく、枯れることなく、瑞々しい姿を保ったままだという。

 如何に苦しくても、華を忘れず、次代につなげていこうとする意志が大切だと、告げるような像である。


 南の大魔法使い・ヴィヴィアン。

 イングンロ王国の偉大なる魔女で、ヨーク学園の創設者三人の師。魔法至上主義国家にはなくてはならない人物だ。

 彼女自身の適性は祓魔、いわゆる悪魔祓いであったが、あらゆる分野に精通しており、今現存する魔法体系も彼女によって初めて編成されたとされている。学園を守る魔法陣、五色魔法陣(ファイブ・カラー・マジック)も彼女の尽力があってこそ、完成したと言い伝えられている。

 ヨーク学園のヴィヴィアン像は、ヨーク学園を守護する魔法の要である。特に隣にある鐘は、鳴らすことで、学園内に溜まった『魔』を退散させる。一流の悪魔祓いでもあった彼女らしい。そう、彼女は死してなお、教え子たちを邪悪なるものから守護し続けているのである。

 教え子たちを見守り続けるその姿勢から、教師とは何かと考えさせられるような像である。


 北の騎士・ルーカス。

 イングンロ王国建国になくてはならないと言わている、猛将。建国の父であり、スヴァーヴァの先祖である。

 彼はイングンロ島のある部族の族長で、当時イングンロ島に勢力を伸ばしていた大陸からの侵犯ロロリア帝国の騎馬戦士団に所属していた。当初友好的だったらしいが、ある時ロロリアからきた総督が暴虐の限りを尽くしたため、決別、反乱。隙をついて総督の首をとり、ロロリア帝国を追い払うことに成功。さらに派遣された鎮圧軍を撃退し、独立をもぎ取ったという。

 ヨーク学園のルーカス像は、愛馬ボウディッカにまたがり、魔法剣トランスミッションをかざしている。

 魔法君主の原点であり、機動力と情報伝達に特化した魔法は、今もなお軍隊を指揮する者にとって羨ましがられている。

 リーダーに必要な心構えと能力とは何かと、強大な魔力を持つことに囚われがちな生徒たちを一喝するような像である。


「……よく、学生の身で調べ上げましたね」

 一足先に昼食を終えたパディやアスラは、ホワイトボードに今までの経緯と推理を簡単に書き綴っていた。

 その過程で、ヨーク学園地下にある四体の偶像が怪しいということで、ピックアップ。

 魔法陣や学び舎は魔法技術によって建設されたというのもあるが、偶像は錬金術で素材を造り加工したものや、寄贈されたものであると明記されているからだ。


 そう、寄贈されたものというところがかなり怪しい。


 遺跡から発掘した何らかの遺産である可能性が高い。

 なお、この場に書かれている情報は、ほぼ、ヨーク学園タイムズから引用している。

「新聞コンテストで優勝したいから、じゃないの。ここに書いてあるし」

 特集とはいえ、かなり凝っているとパディも思った。

 だが、このヨーク学園タイムズには『新聞部、今年こそ、学校新聞コンテストで優勝してみせる!』という熱い意気込みが書かれたエッセイ記事も載っている。

 エリート教育を受けている生徒らしい向上心に思わず、ほっこり。

 偶然としては奇妙ではあるが、こういうこともあるだろうと、日ごろの行いの良さに感謝。

「ここまで調べ上げられているのに、彼らの種族は不明ですね……」

 アスラは偉人達の学名がノーデータという点が気になるのか。

 そして、アスラが知らないというのは、該当時代に時間跳躍したことがないというのと、ほぼ同義語だ。

 フォーチュンズ介入で時代の流れが変わったわけではないというのは、さすがはイングンロ王国というわけか。

 その時代、時代の偉人たちが自力で奮起して、今を作り上げていったのだとなると、少し感慨深い。

「あ~、うん。学名という定義がない時代の人たちだし、時の政府によってその都度、都合のいい見た目の種族に当てはめられたから、実際の人物がどの科だったか明らかに出来ないんだ」

 いわゆる、大人の事情である。

 ヴィヴィアンなら、本人に似ているかもしれないが、帽子をかぶっているうえに、全身をローブで包み込んでいる。

 ヒト科に近い獣人や魚人であった可能性が十分ある。

「でも、少なくても、ルーカスにはヒト属の血が流れているのは確定しているよ。じゃないと、生殖能力につじつまが合わない」

 ヒト属のいいところは、特別な処置がなくても異種族と交配が可能という所だ。

 しかも繁殖力がない一代雑種で終わることはない上に、その特性は引き継がれやすい。

 王族に至っては、子孫繁栄が必須事項だから、ヒト属、もしくはその系列の嫁を迎い入れるのは絶対条件だった時代もある。









「豆知識もそれぐらいにして……っと、この偶像の中で怪しいのは、バラの枯れない西のスヴァーヴァだな」

 敵がドリュアスでかつ植物型侵略兵器であるのだから、植物に因んでいるものが必然的にマークされるのである。

「やはり枯れない植物の方が怪しいですよね」

 むしろ、スヴァーヴァ以外だったら、ブラッディハートがバラ型の意味が分からない。

「スライムという情報だけだったら、特定しづらかっただろうけどね」

 アスラから提供された情報が合わさって、特定できたと思う。

 他の偶像、ヴィヴィアンやルーカスも一応容疑者の中に入っていた。

 ヨーク学園を守護する魔法の要である南のヴィヴィアン。

 本物ならば、伝達系魔法を妨害できるであろう魔法剣トランスミッションをもつ北のルーカス。

 この二体も十分怪しい。だが、枯れないバラと比べれば、ミスリード要員にしか見えない。

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