第十一話 シリアル、好きですか?

「ふわわぁああ……。危うく夢の中にいってしまいそうだっただぁよ。うっみゃぅ~、まぁ、おらたちにとってはまだ見ぬ未来の話だぁ、気にせんほうがいいだぁ」

 アスラの小難しい話に舟をこぎかけ、驚くほど静かだった銀河であったが、室内のドンヨリした雰囲気を敏感に感じ取ったのか、ここで意識を取り戻してきた。

 話半分だったくせに、だいたいのことというか、大筋はわかっているようだ。

 解せぬ。

 だが、曲がりなりにも銀河は名門ヨーク学園にやってきた海外留学生。理解力は飛びぬけている。

「早い話、ジュリーが浚われる前にこの遺産ブラッディハートを、ぶちのめせばいいってことや。ほぉら、簡単だぁよ」

 銀河はドヤ顔で言い放った。

 それから、ジュリーとパディを励ますようにポンポンと軽く頭を叩く。思いやりと心配りが感じられる。

「そりゃ、そうだけど……」

 こいつ、さっきまで半寝だったよな?

 普段はエロ宇宙人のくせに、妙に説得力がある。

「ほれ、ナスカもそう言っているだぁよ」

 観葉植物(ナスカ)も同意見か……。

 あの大雑把な銀河が、毎日の世話をかかさない、愛犬もとい、愛植物。

 異邦にいる寂しさを和らげる大切な相棒であり、銀河曰く、次元を超えた兄弟姉妹。時々腹違いになるとかいう、厨二設定が盛り込まれるぐらいに、親愛な存在。

 そのナスカまで通しているのなら、道化に見えても、その言葉は銀河の本音だ。

 なんだかんだ言って、銀河は本質を見極めるのが得意なのだ。海外留学生は伊達ではない。

 そして、その言葉は決まって、遺産研究会にとって、今この場でもっとも必要なものなのだ。

(と、いうことは……見えない不安に押し潰されそうになっている僕たちが、馬鹿々々しいってことか……)

 そこまで考えつくと、パディの顔色が戻っていった。

 隣のジュリーの顔色も平常に戻っているところから、親友も同じ結論に到達したらしい。

「私たちはそのために造られた博士のフォーチュンズなのです。この未来を変えることこそが悲願なのです。ジュリーさん、博士……どうか私たちにあなた方を守らせてください、お願いします」

 美少女が深々と腰を曲げて懇願しているのに、首を横に振れるものがいるだろうか。

「はい」

 答えは無理。

 ジュリーでさえ、即決だ。

 男の悲しい性なのか、人として当然の反応というべきか。

 覚悟さえ決めれば、たいていのものはあっさりと受け入れられてしまうものなのである。

「むしろ守られる立場の小生のほうが申し訳ないよ」

 ジュリーはショッキングな未来に茫然自失した。

 だが、銀河の言ったとおり、ジュリーがブラッディハートに取り込まれなければ、破滅への未来を変えられる。

 そのために未来のパディやフォーチュンズたちががんばってきたのだ。

 まだ起きてもいないことで諦めるとか、失望するのは変だ。

 想像だけで歩みを止めるわけにはいかない。

「だから……小生にもできることがあったらなんでもしたいよ」

 くよくよしても仕方がない。

 ジュリーは彼女たちがどんな努力をしてきたかまではよくわからないけど、応えるべきなのだと思い直した。

「ジュリーさん……」

「アスラ、小生のほうこそ、よろしくお願いします」

 いい感じに吹っ切れた、ジュリー。

 その前向きな姿勢は、周りに勇気を与えてくれる。

「そうだね。僕もアシストするよ」

 パディも頷く。

 まだいろいろと困惑しているけど、親友を失うのは嫌だし、こんな美少女に頼まれたならば否とはいえない。

 協力したい。

 フォーチュンズたちの邪魔にならないように、協力すべきなのだ。

「ンだ。では、まずは、親交を深めるためにも……王様ゲームをするべぇ!」

 割り箸とコップを用意している、銀河。準備周到といわんばかりにすでに番号と王に書くという下準備まで終えていた。

「まてや、そこのエロ宇宙人」

 早くも煩悩全開の銀河に対して、つっこまずにはいられないパディ。

 いままでのシリアス展開を、よりにもよって王様ゲームで吹き飛ばすか、普通。

 バハムートなんて、ある意味生やさしいものだったよ。

 もう、野生のマーラ様が飛び出して、ピギャーとか叫びながら、そのご立派で、神々しくもいきり立っている、そのお姿を見せ付けられたような気分だよ。

 なお、様付けなのは、祟り神としても有名だから。男性なら、下半身的な意味で再起不能になるから!

 もちろんそんな男性器にクリソツで、ご利益はダイレクトに子宝という神様を生で見たことはないが、こう、なんとなく察してくれれば、うれしい限りである……。

「ちゃんとおらにも考えがあるだぁよ。これなら、ノリでアスラとセンジュのおっぱいを揉める!」

 エロスは宇宙の源!

 おっぱい星人とでもいってくれと言わんばかりに、目をキラキラさせてアスラの胸を舐めるに見る残念な美少女。

 ……どうみてもセクハラです。本当にありがとうございました。

 女でなかったならば確実に通報していました。

 パティはそんな歪みないエロ宇宙人に、備品のハリセンを叩きつけた。

 バシーン!

 それはそれは、いい音であった。

「はぁはぁ……」

「落ち着け、パディ。銀河はいつも通りなだけじゃないか」

「いつも通り過ぎて、安心はするけど……」

 廃墟の時は手元になかったから出来なかったことが、今ようやくできて、少し胸がスッとする。

 どうやら微妙にストレスだったようだ。

「いやぁ~ん。そう、褒めないでくれやぁ、パディ」

「褒めてない!」

 大声を出したおかげか。

 幸か不幸かたまっていた鬱憤が消え、パディの脳内は一気にクールダウンする。

 そして、気がついた。

「あ……」

 部室備え付けのソファで眠っているはずの紺碧の羽衣に包まれた少女が、いなくなっていることに……。

「センジュ……?」

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