異世界ルバ・ガイアの古代遺産戦機~僕らがグッドエンドを迎えるには、時間跳躍が必須らしい~
雪子
プロローグ 運命の輪は狂気と共に動き出す
奇怪な鍾乳石や石筍が連なる大鍾乳洞の中。
深閑と静まる空間で、鉢巻きをしたポニーテールの陣羽織姿の人間が刀を、長さ的には打刀を振るっていた。
時代錯誤な格好だと笑うものもいるかもしれない。だが、これは仕様だ。
この衣服の名はファナティックスーツ。
この世界……異世界ルバ・ガイアの古代人が創り出したという最高傑作。装着者の身体能力向上はもちろん、潜在能力を引き出し、さらにはスーツ自体に付与されている特異能力を使用できるようになる。
特異能力と言葉にすると簡単になるが、古代人の叡智が結集されているので、一言二言では片づけられないぐらいの、すごい機能である。
すごすぎて、全特異能力を解放できた装着者がいないくらいだ。
古代人は技術力こそ素晴らしかったが、装着する者のことを全く考えていないことがわかる、貴重な史料でもある。
……この言葉はある学者が前向きに考えた結果出た、全力のフォローである。
といっても、古代人に限らず、どんな道具でも十全に使いこなせるかといえば、ほぼないだろう。
だいたい一つ、二つの機能目的で使用するのが常であり、本来の目的以外でも使うことがあるが、逸脱することはそうそうない。
道具である限り、使用する側に主導権があるのだ。使用者が使いこなせない機能は無用の産物になるしかない。
この大鍾乳洞の遺跡に眠る遺産もまた、無料の産物になりやすい。ある条件下でないと起動しない、条件を満たした上で特定の物質に作用するという限定的なモノだからだ。
そのため、多くの原住民は存在を知っていても、まじめに捜索してこなかった。
実際、このモノより使い勝手のいい強力な遺産のほうが圧倒的に多い。知識があるやつなら他の遺跡のほうに注目し力を入れるのが普通だ。
だが、陣羽織の人にとってはこの遺跡に眠るモノこそが目的だ。
「ふむ。やはり、誰もまだ来ていないか……。罠の配置は変わっていないようだな」
陣羽織の人は奇妙なことを言いつつも、一度入り込んだことがあるかのように、トラップを物ともせずに順調に進んでいる。
その姿は軽やか。
まるで、剣舞を踊るかのようにクルクルと勢いよく回転しつつ、行き先を邪魔する罠を避け、時には持っているその刀で次々と断ち切っていく。
──そして、数時間後。
「ふぅ。あと少しといったところか」
陣羽織の人は汗をぬぐう。
肉体を最適化するファナティックスーツでも、この連戦では調節が利かないのか。
いや、汗をかくという行為によって、肉体の限界が近いことを教えてくれているのか。
「でも、このぐらいの疲労ならゴールまで問題ないな」
カチャリ。
人間は腰に下げていた刀に再び手を添え、万全の構えをとる。
そろそろ、来るのだ。
このタイミングに、遺跡のガーディアンロボットたちが殺到する。
最後の関門だ。
「侵入者、侵入者ヲ排除セヨ!」
独特の機械音とともに、四方八方と群がってくる、コレら。
古代人が残していった、厄介な遺物たちだ。
主に忘れ去られたとしても、製造者がいなくなったとしても、律儀に使命……今ケースでは、大鍾乳洞の遺跡に眠る遺産を守っている。
「相変わらず厄介だな、ドリュアス」
陣羽織の人はコレらに目を向ける。
大中小と様々な形をした……植物。前文で機械音と書いたが、コレらの可動に必要なのは機械だけではない。身体の構造のほとんどは木や草、花といった植物である。
このガーディアンロボットを始めとする、古代人の作り出した植物型戦闘兵器ドリュアスシリーズは、現代人の説得や融通など利かず、その機能が停止する瞬間まで、プログラム通りに動くのをやめないのだ。
「しかし『対処済み』だ!」
わらわらと近づくドリュアスたちに怯むことなく、打刀の間合い……いや、太刀並みの間合いに入った瞬間、腰から銀光を奔らせる。
絶妙の間合いで放たれた、神速の抜刀術。
ファナティックスーツ・
鬼ヶ島まで鬼を退治しに行くおとぎ話の主人公・桃太郎をモチーフに作られたという古代文明の遺産。
あいにく陣羽織の人には桃太郎がどういう話かわからないが、侍であることはほぼ確定。
ならば、それ以上の知識はいらぬと、この一撃にすべてをかける。
「!」
凄まじい速さに対応しきれなかったドリュアスは、上下真っ二つに斬られる。
だが、コレで終わりではない。
荒星の桃太郎の起動音は、まだ続いている。
それどころか、鍾乳洞に響く音が、曲が一段と大きくなる。
「いくよ、荒星の桃太郎。この胸の高鳴りを、
陣羽織の人改め、桃の侍の掛け声とともに、ドリュアス相手に華麗な抜刀術が繰り広げられていく。
その目にも止まらない速さは留まることを知らない。
装着者に勝利を──この言葉を捧げんとばかりに刀身は舞い、古の兵器を切断していく。
斬り口からは、血液ではなく、内臓でもなく、ゲル状の……粘液らしきものが溢れる。植物型なので樹液が最も正解に近いのかもしれないが、ぶちまかれても、しばらく蠢くソレらは精神的に気持ちいいものではない。むしろ、生理的に嫌悪対象だ。
「おらおらおらっ、推して参るっ!」
桃の侍は雄たけびを迸らせ、刀とともに戦場を駆け抜ける。
絡みつこうとする根が、迫りくる蔓が、飛び出す種が、バラバラに解体される。
「成・敗・完・了!」
カチリ、と刀が鞘の奥までは入り込んだ時には、取り囲んでいたドリュアスはすべて消失していた。
古代人がどんな意図で植物と機械を掛け合わせたのか、現代人にはわからないが、破壊すると、自然環境を考慮しましたと言わんばかりに、塵へと還る。
跡形もなく消えることに感傷的な気分になる。
だが、そんなことよりも目的のモノだと、気持ちを切り替えた桃の侍は洞窟内でも、ひときわ大きい石筍の前に立ち、右手をかざす。
「たしか、パスワードは……思い思われるものに祝福を。歌姫にはその資格あり……」
石筍から淡い光が放たれる。その光は桃の侍の右手に近付くと凝縮し、コップぐらいの大きさになると静止する。
「うん。確かにこれは、遺産・融合の器だな。よし、無事に手に入れたことだし、後は天命を持つだけだ」
フフゥ~フッフフ、フフ~ン♪
目的のモノをゲットした桃の侍は、鼻歌交じりに遺跡を後にするのだった──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます