のろいによりねむつづけるハートのくに女王じょうおうたすすためアリスはたびた。そんな彼女かのじょとともにたびをするのは時計とけいうさぎ、いかれぼうし、のんびりいもむし、不思議ふしぎなチェシャネコの四人よにん彼等かれら女王じょうおうまも四天王してんのうだ。

「でもアリスにはおどろかされたな」

「ほんと。わたし女王じょうおうたすけるたびをする……なんて普通ふつうおんなじゃあえないよねぇ」

くりくりしたひとみ興味深きょうみぶかげげにアリスへとけて時計とけいうさぎがう。それに相槌あいづちちながらいもむしがおもわらいをする。

「だって、ほか方法ほうほうがなかったし。大臣だいじんさんたち戸惑とまどううばかりで、なんかんがえもかんでない様子ようすだったから」

「ダイヤのおうたのまれたのもアリスがしっかりしているからだな」

こまった様子ようすわらいしながら彼女かのじょうと、はなしいていたチェシャネコが微笑ほほえつぶやく。

べつ王様おうさまたのまれたから、たすしにくんじゃないわ」

「ええ、ええ。かっていますよ。お嬢様じょうさまはハートの女王様じょうおうさまのご友人ゆうじんだからですよね?」

「そうよ。友人ゆうじんだからたすけにくのはたりまえでしょ」

アリスの言葉ことばにぼうしがそうたずねる。それにこたえるときっとまえ見据みすえた。

「それはぼくにはよくからないけど、友情ゆうじょうっていいよねぇ」

「ええ。おんな同士どうしうつくしい友情ゆうじょう……感動かんどうしてしまいます。あ、おちゃでもみながら友情ゆうじょう乾杯かんぱいしますか」

いもむしがそうってキセルをくわえる。ぼうし相槌あいづちつと紅茶こうちゃのカップをすすめた。

「ぼうしさん……いまはお茶会ちゃかいをゆっくりたのしんでいる余裕よゆうはないの。はやつぎまちかわないと」

大分だいぶくらくなってきたもんね」

アリスがあきれた様子ようす説明せつめいすると時計とけいうさぎもうなづ時刻じこく確認かくにんしてつぶやく。

「しかし、なんがかりもない状況じょうきょうで、どうやって女王陛下じょうおうへいかたすけるの」

情報じょうほうあつめるためにも隣国りんごくであるクローバーのくにくつもりよ」

「なるほど。世界中せかいじゅうたびしていればハートの女王じょうおうたすける手掛てがかりがつかるというわけだな」

いもむしのいかけに彼女かのじょこたえる。その言葉ことばいたチェシャネコが納得なっとくしてうなづいた。

「そういうこと」

「それじゃあ、隣国りんごくけて国境くにざかいむらまでいくんだね。だけど、あるきじゃそれほどはやくはけそうにないよ」

隠密おんみつうごいているからね。馬車ばしゃなんてりたら人目ひとめくもの」

アリスがうなづ様子ようす時計とけいうさぎがそうつぶやく。それに彼女かのじょ仕方しかたないといったかんじでこたえる。

たびというものはそううものですよ。ゆっくりとまいりましょう」

「あんまりゆっくりはしてられないけどな」

ぼうし言葉ことばにチェシャネコが淡々たんたんとした口調くちょうった。

はなし区切くぎりがついた様子ようす彼女等かのじょらつぎまちへとけて黙々もくもくあるいていく。

今日きょうまちにつけそうもないね」

仕方しかたないですね。このあたりで野宿のじゅくしましょう」

「アリス。野宿のじゅく大丈夫だいじょうぶか」

あたりはすっかりくらになり、これ以上いじょうさきすすむのは危険きけん判断はんだんした時計とけいうさぎがそうってまる。

ぼうしかたとすと荷物にもついてすわむ。チェシャネコが気遣きづかようにアリスへとこえをかけた。

わたし平気へいきよ。たびをするってめたときからこうなることも予想よそうしていたから」

「では、をおこしてごはんにしようよ」

かれへと笑顔えがおこたえるとアリスも荷物にもつろして野営やえいできそうな場所ばしょさがす。

いもむしの言葉ことばみなうなづ小枝こえだひろはじめた。

「ねえ、うさぎさん。ぼうしさん、いもむしさん。チェシャネコさん」

「ん、なに。アリス」

かこ食事しょくじえたときしずかな口調くちょうでアリスがこえをあげる。

それに不思議ふしぎそうにくびかしげながら時計とけいうさぎがたずねた。

わたしはハートの女王様じょうおうさまたすけたいからなにがあってもたびをするってめてけんった。でも……みんなちがうでしょ。わたし素人しろうとだから一人旅ひとりたび危険きけんだってダイヤのおうわれて一緒いっしょくことになった。だから本当ほんとう気持きもちはちがうんじゃないかなって」

「なぁ~んだ。そんなこと。……ぼくはアリスのこと大好だいすきだから、アリスをたすけるために一緒いっしょたびをするってめたんだ」

おれもアリスのたすけになりたいから。だから一緒いっしょにここにいる」

がちになりながらかたられた彼女かのじょ言葉ことば時計とけいうさぎがうとにこりとわらう。チェシャネコも微笑ほほえはなす。

「ぼくもダイヤのおうわれたからじゃないよ。アリスさんが女王様じょうおうさまたすけたいって気持きもちにうごかされたから、そんなきみたすけになりたいとおもったんだよ」

たしかにダイヤのおうわれたから一緒いっしょかたちになりました。ですが、オレはオレの気持きもちでお嬢様じょうさまについてくことをめたんです」

みんな……がとう」

いもむしもキセルをかしながらそうこたえる。ぼうし紅茶こうちゃのカップを片手かたてにそうってにこりとわらった。

みんな言葉ことばにアリスは気持きもちちがスッキリとした様子ようすれいわらいする。

それからしばらくして夕食ゆうしょくをすませるとすこしでも体力たいりょく回復かいふくさせるべくアリスたちねむりについた。

「ん? ぼうしさん……きていたの」

「おや、こしてしまいましたかな? ……ええ。まあ一人ひとりくらいは見張みはりをしておかないと。このあたりには危険きけんけものはおりませんが、夜盗やとうなどにねらわれる危険性きけんせいがありますのでね」

意識いしき浮上ふじょうしたときかすかな物音ものおとひろったアリスがましあがる。そこにはみんな寝静ねしずまったあと一人ひとりまきのばんをしているぼうし姿すがたがあった。

彼女かのじょはそっとこえをかける。それにかれ反応はんのうしてにこりと微笑ほほえこたえた。

くわしいんですね」

「いえいえ。むかし仕事しごと他国たこくったことがあるのですが、そのとき夜盗やとうおそわれた経験けいけんがありまして、そのせいでいつおそわれるかからないと……神経質しんけいしつになってしまうのですよ」

感心かんしんするアリスにぼうしうとちいさくわらう。

たびには危険きけんきものなんですね。これからは私達わたしたちみんな交代こうたいばんをしましょう」

「だめだよ。アリスはおんななんだからそんな危険きけんなことしちゃ」

「そうだ。そういうことは俺達おれたちまかせろ」

「アリスさんは心配しんぱいせずゆっくりやすんでね」

彼女かのじょ言葉ことば時計とけいうさぎがおこった様子ようすこえをあげる。それにチェシャネコが同意どういしてうなづく。いもむしもうとキセルをかした。

みんな……きていたの?」

「いつなにこってもいいように、あさねむりしかしてなかったんだ」

おれはもとよりあまりねむらない」

「ぼくもかた地面じめんでなかなか寝付ねつけなくてねぇ」

おどろくアリスに彼等かれらちいさくわらこたえる。

「ふふっ。じつわたしもこれからのこととかかんがえていたらなかなか寝付ねつけれなくてね」

彼女かのじょ言葉ことばいたみんながおかしそうにわらう。

「な~んだ。なら僕達ぼくたちみんなねむれてなかったんだね」

「そのようですな」

時計とけいうさぎがった言葉ことばにいもむしが同意どういしてうなづく。

「なら、気持きもちをリラックスさせる紅茶こうちゃをいれてげましょう」

「アリスがねむれるように子守歌こもりうたうたおうか?」

ぼうしがおちゃ用意よういするとっておわかはじめると、チェシャネコがそう提案ていあんする。

「チェシャネコさんうたなんてうたえるの?」

すこしだけ……」

不思議ふしぎそうにたずねたアリスの言葉ことばかれずかしそうにほほあからめながらつぶやく。

「それならぼくうたう」

「では僭越せんえつながらぼくも……」

時計とけいうさぎといもむしがうとおちゃができるまでのすこしのあいだ子守歌こもりうた大合唱だいがっしょうはじまった。

(なんだか不思議ふしね。みんなといっしょだと不安ふあん恐怖きょうふうすれていく……)

アリスは内心ないしんつぶやくとみをかべみんなかおやる。

みんながとう」

これからのたびについての不安ふあんや、女王じょうおうたすせなかったらという恐怖きょうふが、彼等かれら一緒いっしょにいることでうすれていく。そんな不思議ふしぎ感覚かんかく彼女かのじょみんなけておれいべた。

「どうしておれいなんかうの?」

「ふふ。秘密ひみつ

「おや、おや。秘密ひみつですか……?」

「ずるいな~」

「……アリスがうれしそうならそれでいい」

不思議ふしぎそうなかおまるくする時計とけいうさぎの言葉ことばにアリスはわらってこたえる。

紅茶こうちゃをカップにそそぎながらぼうし不思議ふしぎそうにくびかしげた。

いもむしがおしえてほしいといたげにつぶやよこでチェシャネコがにこりと微笑ほほえむ。

これからアリスはこのたのもしい仲間達なかまたちともにハートの女王じょうおうたすたびつづけていくのだ。彼等かれらとならきっと大丈夫だいじょうぶだと彼女かのじょ確信かくしんもなくそうおもった。


 翌日よくじつ太陽たいよう真上まうえのぼったころ。アリスたち目的もくてきむらまで到着とうちゃくする。

「このむらさきからクローバーのくにはいるんだ」

国境くにざかいむらっていていたから、もっと活気かっきがあるのかとおもっていたのだけれど……」

「そうだな。だれ一人ひとりそとにいないようだ」

時計とけいうさぎが地図ちずにらめっこしながら説明せつめいするよこで、彼女かのじょむらなか見回みまわ不思議ふしぎそうにくびかしげた。

チェシャネコもいぶかまゆせると、いましがたいたばかりのむら様子ようすくびをひねる。

「……昼間ひるまだというのに。皆様みなさま昼寝ひるねされているのでしょうか」

「それにしてはしずかすぎやしないかい?」

昼間ひるまだというのにひと一人ひとりもいない様子ようすに、ぼうしもいもむしも不思議ふしぎそうにつぶやく。

なにかあったのかしら?」

ちかくに宿屋やどやがあるんだ。まずはそこにってはなしいてみようよ」

アリスの言葉ことば時計とけいうさぎがそう提案ていあんする。それにみんな同意どういするとまずは宿屋やどやへとかった。

宿屋やどやへとやってきた彼女等かのじょら受付うけつけりんらし店主てんしゅるのをつ。

「……だれてこないね?」

本当ほんとうだれもいないのかな」

時計とけいうさぎの言葉ことばにいもむしがこまった様子ようすたずねる。

「あら?」

「おや、お嬢様じょうさまどうされましたか」

そのときかすかにこえた物音ものおとにアリスは気付きづこえをあげた。

その様子ようすにぼうし怪訝けげんそうにいかける。

「いまそこの物置ものおきからおとが……」

おと?」

彼女かのじょ言葉ことば時計とけいうさぎがつぶやくとみみをすます。するとガサガサとなにやらこするようなおとこえてきた。

「ほんとだ。かすかだけどおとこえるね」

ってみましょう」

かれ言葉ことばにアリスはうと物置ものおきとびらける。

「っ! ゔぅ~」

「アリス大変たいへんだよ。おんなが」

「オレにおまかせを」

物置ものおきはしらしばけられたおんなさるぐつわをめさせられた状態じょうたいで、もがいてなんとか脱出だっしゅつしようとしていた。

その様子ようす時計とけいうさぎがうとぼうしうごきナイフでなわさるぐつわをはずす。

「っ。はぁ~」

大丈夫だいじょうぶ? なにがあったの」

身動みうごきがれるようになった少女しょうじょおおきくいきく。アリスはそのをさすりながらなにがあったかたずねた。

「う、うぅ……むら山賊さんぞくがやってきてみんなれてかれちゃったの」

山賊さんぞくが? でもなんきみだけはここにしばられていたんだい」

恐怖きょうふゆがんだひとみ少女しょうじょかたりだす。その言葉ことばにいもむしが疑問ぎもんいだきそうたずねる。

村人達むらびとたちことたすけたければ、クローバーのくにとの国境こっきょうにあるしろやまい。さもなくば村人達むらびとたちはどうなってもらないぞ。ってハートのくに女王様じょうおうさまにつかえている人達ひとたちがここにたらこうつたえろってわれたの」

「っ!? なんてひどいことを」

それに少女しょうじょこたえるとアリスはいきどおするどちゅうにらんだ。

「でもなんで村人達むらびとたちれてったりしたの?」

「そんなのわたしにだってわからないよ。う、うぅ……おかあさんが……おにいちゃんが、みんながつかまってれてかれちゃったぁ~。うわぁ~ん」

時計とけいうさぎの言葉ことば少女しょうじょこたえると途端とたん涙声なみだごえになり大声おおごえきわめく。

大丈夫だいじょうぶよ。私達わたしたちみんなたすけにくわ」

「で、でもおねぇちゃんたちがねらわれてるんだよ?」

大丈夫だいじょうぶなんねらわれているかはからないけれど……でも関係かんけいのない人達ひとたちさらわれて人質ひとじちにされているなんてゆるせないもの」

アリスの言葉ことば少女しょうじょおどろく。それににこりと微笑ほほえ彼女かのじょった。

大丈夫だいじょうぶですよ。オレたちかならずやお母様方かあさまがたをおたすけいたします」

「うん、きみはここでっててね」

ぼうしやわらかく微笑ほほえうといもむしも安心あんしんさせるようにはなす。

「でもつかったらきみまでれてかれちゃうといけないから、僕達ぼくたちもどってるまでどこか安全あんぜん場所ばしょかくれているんだよ」

心配しんぱいするな。村人達むらびとたちかなら俺達おれたちたすす」

時計とけいうさぎがうとチェシャネコが念押ねんおしするよう力強ちからづようなづつぶやく。

「うん」

その言葉ことば元気げんきづけられた少女しょうじょうれしそうに微笑ほほえうなづいた。

それからアリスたち少女しょうじょ安全あんぜんところかくしてからしろやまへとかっていく。

山賊達さんぞくたちねらいがアリスたちならなぜ彼女等かのじょらねらわれているのか? 自分達じぶんたちねらっているのならこんな小癪こしゃくなマネなどせず堂々どうどう勝負しょうぶいどめばいいものをと、アリスはおもいながらしろやまへのみちをひたはしっていった。


 しろやまへとやってきたアリスたち山賊さんぞくがいつあらわれてもたたかえるように武器ぶきを、ち、周囲しゅうい警戒けいかいしながらあるく。

さらわれた村人達むらびとたち一体いったいどこにいるのかしら」

「それは相手あいてかないとからないが……前方ぜんぽうから山賊さんぞく一味いちみらしき奴等やつらひそんでる」

「さすがチェシャネコですね。い」

アリスがうと一旦いったんまり周囲しゅうい見回みまわす。そのとき前方ぜんぽう見据みすえていたチェシャネコがひく警告けいこくする。

それにぼうしめるようにこえをあげた。

「……足音あしおとがおかしい。みんなけて、わな仕掛しかけられているかもしれないから」

「うさぎさんもみみがいい。ではここはぼくが」

みみをすませていた時計とけいうさぎがうといもむしが一歩前いっぽまえへとすする。

「そおれ~ぇ」

「っ!?」

「ふむ。あみとはなんとも山賊さんぞくらしいわなだね」

キセルをくるくると回転かいてんさせていたかとおもうとそれをほううえからえだ大量たいりょうとす。

するとアリスたちまえ地面じめんがせりあがり巨大きょだいあみあらわれる。

わな見破みやぶられおどろ山賊達さんぞくたち様子ようす満悦まんえつしながらいもむしがキセルをかした。

流石さすがいもむし。相変あいかわらずキセルの使つかかた上手うまいな」

「ちぃ。上手うまいことわなにはまってくれればいいものを……野郎共やろうどもやっちまえ!!」

「おう!」

「でやあ」

「かかれ~」

「うおりゃあ」

かしら姿すがたあらわすと怒鳴どなる。それにわせて四方八方しほうはっぽうから山賊達さんぞくたちがナタやおの片手かたておそいかかってきた。

みんなるわよ」

まかせて!」

「お嬢様じょうさまがりください」

警戒けいかいこえはっしたアリスのまえへと時計とけいうさぎがるとハンマーをかまえる。

ぼうしうとナイフを戦闘態勢せんとうたいせいはいった。

「いつでも準備じゅんびはできている」

「いっくよ~」

チェシャネコがおおガマをりかぶり背後はいごからおそってくる山賊さんぞく相手あいてにする。

いもむしもキセルをかまえると相手あいてふところをすり次々つぎつぎ山賊達さんぞくたちたおす。

「はぁあっ!」

「ぐぅ」

「うえっ」

「ぎゃあ」

時計とけいうさぎがちいさなからだ似合にあわない大(おお)きなハンマーをりかぶり次々つぎつぎてきたおしていく。

「はっ」

「ぎぁあっ」

ぼうしもナイフでかってくる山賊達さんぞくたちのナタやおのはじくとうで武器ぶきてないようにしていく。しかも余裕よゆうでずれた帽子ぼうし位置いちなおしながらだ。

「はあっ!」

「ふん」

アリスがかしらけてロングソードをろす。しかし相手あいて流石さすがかしらをやるだけはあって彼女かのじょけん軽々かるがるとかわす。

「でや」

「っ……はぁ」

あまい!」

「きぁ」

アリスへけてナタをろす相手あいて攻撃こうげきなんとかぎりぎりでかわし、反撃はんげきするもそれは簡単かんたんはじかれてしまう。

そしてすきだらけの彼女かのじょもとかしらがゆっくりと近寄ちかよってる。

「「アリス!」」

「お嬢様じょうさま

「アリスさん」

「ぐぅ……」

みんな……」

そのとき周囲しゅうい山賊達さんぞくたちをこらしめえたみんなが、こえをそろえアリスのまえへとたちちはだかり、時計とけいうさぎがハンマーで相手あいて武器ぶきはじくと、チェシャネコがから武器ぶきげた。

すきのできたかしらうでをぼうし羽交はがいめにするとそのまま地面じめんへとせる。そして最後さいごにいもむしが加勢かせい地面じめんへとけた。

「……どうしてなん関係かんけいもない村人達むらびとたちさらったりなんかしたの? そしてどうして私達わたしたちことねらうの」

「っ。ゆ、ゆるしてくだせえ! 俺等おれらはただかねやとわれたわれただけなんだ。やとぬしからあんたをどうにかしてくれってたのまれただけで……だからどうか今回こんかいだけは……どうか」

アリスがしずかな口調くちょういかけると、ばつあたえられるとおもったかしらさけらすよう謝罪しゃざいした。

「いったいだれ命令めいれいされたの?」

「そ、それだけはえねえ。それをったら俺達おれたちのろいによりみんなわらいがまらなくなちまうんだ」

のろい?」

あくまで冷静れいせい態度たいど彼女かのじょくとかれあわててくびこたえる。その言葉ことば時計とけいうさぎが不思議ふしぎそうにくびかしげた。

「クローバーのくにとスペードのくに魔法国家まほうこっかだといている。こいつやとった人物じんぶつがそのどちらかのくにものだとすれば、おそらくはやとぬしくちにすれば爆笑ばくしょうしてしまうというじゅつでもかけられているのだろう」

「なんてひどいことを……それをくすべはないの?」

残念ざんねんだけどぼくじゃあ無理むりだよ。のろいのちからほうつよいから、おそらくこのじゅつをかけた相手あいてはそうとうな手慣てなれだよ」

チェシャネコが淡々たんたんとした口調くちょう説明せつめいするとアリスがいきどおりいもむしにたずねる。

それにかれかたをすくめてもうわけなさそうにこたえた。

「そんな……」

「お、俺等おれらのことを心配しんぱいするのか? あんたことねらったのに?」

悲痛ひつうおもいでつぶやきをこぼ彼女かのじょへとかしら不思議ふしぎそうにまるで意味いみからないといったかおいた。

「だって、貴方達あなたたちやとわれて私達わたしたちことねらったのでしょ? たしかに貴方達あなたたちのしたことはとても罪深つみぶかいけれど、でも、おかしらさんはのろいから仲間なかまことまもるためにうことをいただけ。だから……」

「あんたはゆるしてくれるんだな?」

にっこりと微笑ほほえはなしたアリスへと冷静れいせいもどったかしらがそう確認かくにんするようにう。

「ええ。さらった村人達むらびとたち全員ぜんいんむらかえしてあげて、それからちゃんと謝罪しゃざいして。そしてこれからはわるいことをする仕事しごとじゃなくて、自分達じぶんたちいのちまもるために生活せいかつするおかねかせ仕事しごとをしてしい。それさえ約束やくそくしてくれるならわたしゆるすわ」

「あは、アリスがそうめたのならぼくゆるすよ」

おれもアリスの言葉ことばしたがう」

「おかしらさんの言葉ことばはよくかりませんが、オレたちばつあたえる理由りゆうもないですよね?」

「アリスさんはやさしいねぇ~。勿論もちろんぼくもみんなおなじだよ」

それにおおきくうなづ彼女かのじょうと時計とけいうさぎがおかしそうにわら同意どういする。

チェシャネコもちいさくわらうなづくと、ぼうしからないといった様子ようすくびかしかしらたずねた。

いもむしもうとくわえているキセルからけむりす。

「あ、がとう。かった。約束やくそくする。村人達むらびとたちもすぐに解放かいほうする!」

「おかしら~」

かれ涙目なみだめおおきくうなづくと約束やくそくわす。はなしいていた子分達こぶんたちうれきしながらおかしらこえをかけた。

それから山賊達さんぞくたち約束やくそくどお村人達むらびとたち解放かいほうし、これからは義賊ぎぞくとしてこのむら周辺しゅうへん生活せいかつすることとなる。

本当ほんとうにこのたび皆様みなさまのおかげでたすかりました。村長そんちょうとしてれいいます」

「おれいわれるようなことはしていません。私達わたしたちひととしてたりまえのことをしただけですから」

騒動そうどうおさまったむらでクローバーのくにへとかうアリスたち見送みおくろうと村人むらびと全員ぜんいん広場ひろばへとあつまっていた。

初老しょろう村長そんちょうつえをつきながらまえへとすするとそうってあたまげる。

その言葉ことばにアリスはゆるりとくびこたえた。

「おねえちゃんたちがとう!」

「アリス」

「うん。どういたしまして。こわおもいしたのによく頑張がんばったわね、えらかったわよ」

そのときはなんできたおんなってるとアリスへとす。

それに時計とけいうさぎがうながすと彼女かのじょかっていた様子ようすちいさくうなづ笑顔えがおこた花束はなたばる。

「うん! わたしおおきくなったらおねえちゃんみたいな冒険者ぼうけんしゃになる」

「うん、おおきくなって再会さいかいすることをたのしみにしてるわ」

おんなうれしそうに満面まんめん笑顔えがおかべると将来しょうらいゆめかたった。それにアリスは再会さいかい約束やくそくして微笑ほほえむ。

「それじゃあ、名残惜なごりおしいですがそろそろ……」

「ええ……失礼しつれいします」

「おねえちゃんたち! バイバイ。またねー」

ぼうし言葉ことば彼女かのじょうなづくときびすかえあるす。っていくアリスたちへとおんな元気げんきいっぱいにわかれのこえをかけをふりつづける。

彼女達かのじょたち一度いちどまるとそれにこたえるようにアリスは右手みぎてをふりかえし、時計とけいうさぎは両手りょうてでバイバイした。

ぼうしとチェシャネコはかる会釈えしゃくこたえ、いもむしはキセルを上下じょうげにゆさぶりわかれをげる。

「……」

そんなっていくアリスたち様子ようす建物たてものかげから見詰みつめるあやしいかげが……そのおとこすべてを見届みとどけると一瞬いっしゅんでそのから姿すがたした。

「……山賊達さんぞくたちはアリスたちつかまえるのに失敗しっぱいいたしました」

「え~。もっと簡単かんたんつかまえれるとおもったのになぁ」

薄暗うすぐら部屋へや一室いっしつさきほどのおとこあらわれるとまえにいるツインテールのかみ人物じんぶつへと報告ほうこくする。

それをいた人物じんぶつ意外いがいだといった様子ようすくちひらいた。

山賊達さんぞくたち処罰しょばつはいかがいたします?」

処罰しょばつとか全然ぜんぜん可愛かわいくないからほっておきなさい」

「はっ」

おとこ言葉ことばにツインテールのかみ人物じんぶつがそうこたえる。かれがそれにひと返事へんじ了承りょうしょうした。

「でも、ふ~ん。アリスちゃんたちってばちょっとはやるみたいね」

「これからいかがいたしますか?」

おもしろいといった様子ようすでほくそ人物じんぶつへとけておとこたずねる。

今回こんかいのはほんの小手調こてしらべだったし、こんなので簡単かんたんつかまっちゃってたらつまらないってのも半分はんぶんおもっていたのよね。だ、か、ら」

「……」

それにこたえると一旦いったんくちざし無邪気むじゃきかお微笑ほほえむ。それにかれつぎ言葉ことばつ。

「ふふ。わたしが退屈たいくつしない程度ていどにいじってあそんであげて」

「はっ!」

ツインテールのかみ人物じんぶつ言葉ことば返事へんじをするとおとこ部屋へやから姿すがたす。

どうやらアリスたちたび妨害ぼうがいしようとする者達ものたちうごはじめたようだ。    

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