3 ふたりだけのパーティー結成
恥ずかしいくらい泣いた後で、俺たちはお互いぐずぐず鼻をすすりながら改めて自己紹介をした。
……中学の時の同級生に「
「サーシャはこれからどうするの?」
勇者パーティーを追放された現場はかなりの人が見ていたはずだ。彼女の今後が心配になる。それに、俺も右も左もわからない場所で知り合った人間といきなり離れたくはなかった。
「それなんですが。あの、ものは相談で、私とパーティーを組んでもらえませんか?」
「パーティーってあの、勇者パーティーみたいな、一緒に冒険をしたりする……?」
思わぬ彼女からの提案に俺は動揺した。でも表情筋が7割死んでると言われる俺だから、声にもあまり動揺が出ていない。
「はい、そうです。基本的に冒険者はギルドに登録してお仕事を請け負って、報酬をもらいます。でも、私はさっきパーティーを抜けてしまいましたから、このままだとお仕事を受けられないんです。ひとりというのは危ないので、余程簡単なもの以外ギルドの方でお仕事を認めてくれなくて」
「俺が、冒険者に? でも、サーシャならどこでもパーティーに入れてくれるんじゃ?」
冒険者になるのはちょっと嫌だなという気持ちもあってそう尋ねてみると、みるみるサーシャの顔が曇った。
あ、もしかして地雷を踏んだかな……。
「はい……多分、誘っていただけるところは多いと思います。私、有名になってるそうですし。でも、アーノルドさんたちの迷惑になりたくないんです。有名になってしまった私が既存の他のパーティーに入ったら、きっと悪い噂になってしまうから」
彼女の言葉で、俺の体に電流が走った。
聖女だ。この子、まさしく聖女だ。
心根が清い。見た目が可憐なだけじゃなくて、性格がいい。例えそれなりの理由があり土下座をしてたとしても、自分を「追い出した」パーティーの心配をここまでするものか?
その上ドラゴンひとりで倒したなんて、そりゃこの子自体が噂になるに決まってる。
俺は目の前の天使のような少女を見つめて、味わったことのない感情に翻弄されていた。
「ジョーさん、この世界でどう生きていきたいとか考えてますか? きっと何もわからない状態ですよね? 私も若輩者でそんなに世間に凄く詳しいわけじゃないですが、一緒にいれば何かと助けてあげられると思うんです。ジョーさんの目の前で、私がパーティーから抜けてひとりになったこと、これも女神テトゥーコのお導きだと思います」
「女神テトゥーコ」
だめだ、どうしてもその名前が出てくると意識がそっちに引きずられる。
いや、でもちょっとありそうだな。俺の転移先として、わざわざサーシャの追放現場の目の前を選んだとか。あの女神はちょっとお節介そうだったし。
――あちらでも元気でお過ごしなさいね。
女神の最後の言葉が耳に蘇った。
正直、「またお会いしましょう」とかじゃなくて良かったけど、あの人善意で言ってくれたんだよな。
「俺も、女神テトゥーコのお導きかもしれないと思う。元気でお過ごしなさいねって言って握手してくれたし」
「えええっ! すご……凄いですね! あの、ジョーさん、握手してもらっていいですか?」
「別にいいけど?」
俺が手を差し出すと、サーシャは白くてほっそりした手でぎゅっと握手してきた。
……思ったより手のひら硬いな。まあ、武器と盾持って戦ってたら当然か。
「あわわ、この手が、女神と握手した手!」
なんか、反応がアイドルと握手したみたいになってるけど。間接握手ってやつか。俺と握手したことが重要なんじゃなくて、「女神と握手した俺」と握手したことが重要なんだな。
……ちょっと悲しい。
「感無量です! ジョーさん、ありがとうございます!」
さっきまで泣いていたのに、サーシャはふわふわとした笑顔を浮かべた。
「いいよ、パーティー。俺、空間魔法しか使えないけど」
君ともう少し一緒にいたいから。そんな気持ちは口に出さないけど。
多分女神の思惑もあると思うけど、右も左もわからない俺が誰かから「一緒に行動をしよう」と誘ってもらえてるのはとんでもない幸運のはずなのだ。
「お世話になります、よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、サーシャは口をパクパクさせながらあわあわしていた。
「どうかした?」
「く、空間魔法って言いました?」
「うん。こっちの世界に来るとき、好きなスキルを選べって言われたから。他には上位聖魔法とか勇者もあったけど」
「空間魔法の使い手、物凄く珍しいんですよ! 上位聖魔法は、凄く頑張ればそれなりに習得できます。勇者はそもそも別格としても、空間魔法は生まれつきの素質がないと使えない魔法なんです! わあ、どうしよう、ジョーさんって凄い人だったんですね。私ったら軽率にパーティーに誘ってしまって……」
「いや、ひとりでドラゴン倒す方が凄いと思う」
「それは、その、コツがあるんです」
ドラゴンを倒すコツって何だろう……。気になるけど、聞くのが怖い気もする。
さすがの俺も変な顔をしてしまったんだろう。んんっ、とサーシャが咳払いをした。
「と、とにかく、空間魔法が使えたら凄いですよ。例えば魔物の討伐とか以外にも、荷物の運搬とかのお仕事もできますし。いろんな人助けができると思います」
「そうか、そういう仕事もあるんだ……。じゃあ、なんとかなるかな」
俺は体力には自信があるけど、凄い運動神経がいいわけじゃない。それにそんなに度胸もないし、戦闘はできるだけ避けたい。
「よかった、じゃあ、明日一緒にギルドに行きましょう」
「今からじゃなくていいの?」
「ギルド、実はあそこなんです」
サーシャが指さしたのは、さっき彼女が勇者から土下座されてた場所の目の前にある建物だった。――確かに、あの騒ぎだったら中にも聞こえてただろうし、パーティーから離れて即別の人間と組むというのも不自然に思われるかもしれない。
「わかった。それで、これからどうしたらいいかな」
「ええと、まずジョーさんの服と装備を買いに行きましょうか」
「やばい、俺お金持ってない!」
「大丈夫です。私がそれなりに持ってますから。ジョーさんは心配しなくていいですよ」
待て、サーシャは笑顔で当然のように言ってるけど、それってヒモじゃないのか?
俺は女の子にお金全部出させて、「ありがとう」なんて平気な顔してられないぞ。
「悪いけど、お金は一旦借りるって形にしてもらえるかな。冒険者の仕事で稼いだら返すから」
「ジョーさんは立派な方ですね。大丈夫です、空間魔法があればすぐにいい報酬のお仕事もできますよ。じゃあ、行きましょう」
そして俺は彼女に連れられて、大通りにある盾と剣のマークの描かれた一軒の店に連れて行かれたのだった。
「うわ……」
店内を見て、思わず俺はそんな声を上げてしまった。
剣や槍や斧、いろんな物が飾られているし、やたらめったら鎧も種類がある。
ファンタジーだ。文字のメニューで選ぶRPGじゃない。どっちかというとアニメで見た武器の店。
「ハワードさん、こんにちは」
「サーシャちゃんじゃないか! アーノルドのパーティーから抜けたんだって?」
「ふう……もう広まってしまってるんですね」
サーシャががっくりと肩を落とす。そんな彼女を慰めるように、ハワードと呼ばれたおじさんは大きな手で彼女の肩を叩いた。
「ギルドの前で大騒ぎしたそうじゃないか。そりゃああっという間に広まったよ。実はさっきアーノルドもここに来てな。サーシャは悪くないから、他の人とここに来ても怪しまないで欲しいって言われたんだ」
あの勇者、いい人かよ!
いや、さすが勇者、というべきなのかな。正義の側に立つ、正しい勇者ってことか。
「アーノルドさんにも気を遣わせてしまってるんですね。いえ、私が悪いんです」
「いやいや、どっちも悪くないさ。サーシャちゃんがいい子で、よく頑張ってるのはみんな知ってる」
「でも、私が未熟なせいで……」
「それこそ気にすることじゃないさ。まだ17だろう? これからまだまだ成長するんだ。そのうち魔法も正しく使えるようになる。――で、今日は何を見に来たんだい?」
その話題が続けばサーシャがどんどん落ち込んでいきそうだったので、うまく話を切り替えたおじさんに俺はナイス! と心の中で叫んでいた。
「あっ、はい! こちらはジョーさんといって、アーノルドさんたちと別れた直後に偶然出会った方なんです。彼は女神テトゥーコの御加護を受けているので、これも女神のお導きと思ってご一緒させてもらうことになりました」
「へえ、女神様の御加護をねえ。凄いじゃないか、兄ちゃん」
「え、いや、俺は何も凄くなくて、ただの偶然で」
手違いで死んだことになってるからこっちの世界に送られたとか、サーシャ以外には口が裂けても言えなさそうだな。女神の評判に関わってしまう。
「どんなのを探してるんだい?」
「そうですねえ。ジョーさんは直接戦うことはないと思いますし、素材のいい革鎧があれば」
「これなんかどうだ?
「ええと、できれば、私と同じものがあるといいんですが」
「サーシャちゃん……
古代竜? なんか妙に物騒な響きの単語が聞こえたな。
「素材もないですか?」
「ないねえ。あったら店に並べてるよ。全属性防御なんて希少品、目玉商品になるからね」
「あ、じゃあ、今から古代竜狩ってきますね。それで革鎧を発注します」
「えっ!?」
「えっ!?」
ハワードさんと俺の驚きの声が綺麗にシンクロした。
恐ろしく軽く爆弾発言をした当の本人は、自分がおかしいことを言った自覚は全くないようだった……。
サーシャ、多分、そういうところだぞ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます