宝石の捨て子
@tukky777
灰被りのエラ
「こんにちは。坊やの名前をお姉さんに教えてくれるかしら?」
夜の路地裏にて、場違いな程に気高く美しい女性は倒れ込んでみすぼらしい姿の少年に問う。
「エラ…」
「そう、エラって言うのね。素敵な名前だわ」
そう言うと彼女は少年の頬に手を添える。彼女の純白の手袋は、少年の頬に着いている土汚れによって汚れてしまう。
少年は手袋が汚れるからと彼女の手を拒む。しかし、彼女には手袋のことなどどうでもよく、少年の骨の輪郭がはっきりと分かるほどに痩せこけた頬に同情の念を抱く。
「ねぇ坊や、私と一緒にいらっしゃい。こんな所、貴方はいるべきではないわ」
彼女は少年をじっと見つめる。彼女のルビーのように赤く真っ直ぐな瞳に、少年は吸い込まれそうになる。
少年は思った。きっとこの人は女神様で、僕を連れて行く気なんだろうと。
しかし、少年にはこの世界に留まる理由などない。この世に降り立ち産声を上げたその日から、少年の世界は灰色だった。だからもういい、十分だ。
少年は彼女の手を握り、また手袋を汚した。
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