第29話:マジかよ・・・

 修学旅行三日目。

 俊哉たちはバスへと乗り込み、札幌へと向かう。

 途中白老にあるアイヌ民族博物館へと寄りアイヌ民族の歴史を学ぶ。


 そしてアイヌ民族博物館を後にし、次に向かうのはいよいよ札幌だ。

 札幌の街へと入る前に、俊哉たちはとある場所へと向かう。


「うぉぉー」

「クラーク像ってやつだな」


 彼らが来たのはさっぽろ羊ヶ丘展望台。

 クラーク像のある場所として有名だ。

 そしてその展望台から見えるのは札幌の街ともう一つ。


「札幌ドーム」


 俊哉がそう呟く。

 彼の目の先にあるのは札幌ドーム。

 プロ野球の試合で使われているドーム球場だ。


「でっけぇなぁ」

「あぁ」


 俊哉と竹下が札幌ドームを見ほれながら話をする。

 その隣では、瑠奈がパシャパシャとデジカメを手に持ちながら札幌ドームを激写しまくる。

 隣で俊哉と竹下が呆気にとられながら瑠奈を眺めていると、彼女は視線に気づき2人を見る。


「流石瑠奈ちゃんだね」

「こ、これは心優にお願いされてその、、、」

「委員長、もうバレてるから。言い訳しても遅いから」

「え?えぇー?何の事でしょうかー?」

「いやいや、瑠奈ちゃんが野球好きなのはもう情報として耳に入ってるよ?」


 目を逸らし声を裏返しながら言い訳をする瑠奈だが、俊哉と竹下はニヤニヤしながら瑠奈を見る。


「い、いいいいつから知ってて!!」

『心優ちゃんから聞いた』

「あ、あの子はぁぁ!」


 恥ずかしさの余り顔を覆いながらその場にしゃがみ込む瑠奈。

 そんな彼女に竹下は笑いながら心の中で(意外と可愛いトコあるじゃんか)と感心(?)したのである。

 札幌ドームを背に笑い合う俊哉たち。


 このまま赴くままにゆっくりと見ていたい所だが、時間は待ってはくれない。

 次に俊哉たちは、羊ヶ丘展望台にある食堂へと移動しジンギスカンを昼食として頂く。


 班での昼食となっており、彼らはこの間に午後からの自由行動の確認を行う。


「午後からの自由行動ですが、前に話した通りでよろしいですわね?」

「OKだよね?」


 瑠奈が確認するように話すと、他の生徒たちは了承する。

 昼食を食べ始めながら雑談をする俊哉たち。

 すると、竹下が俊哉に話をする。


「なぁ午後からの自由行動、姫野たちも合流なんだろ?」

「そうだね」

「中々の大所帯じゃんかよ」

「まぁ皆んなと一緒ならより楽しいよ」


 竹下の話に笑いながら答える俊哉。

 そんな俊哉に竹下はため息を吐きながら見る。


(お前、この後自分に降りかかる事に何も感じてねぇな?)


 能天気に笑う俊哉を見て竹下は不安しか無かった。

 自分がどうにか出来れば良いのだが、自分1人では間に合わない事は明白だ。


(まぁ、俺には関係ないから良いけどな、、、刺されなければ良いや)


 全てをあきらめるのであった。

 竹下の心配をよそに俊哉はジンギスカンを美味しそうに食べる。

 しばらく談笑しながら昼食をとり、楽しい時間が過ぎて行く。


『ごちそうさまでした』


 昼食が終わり食堂を後にすると、出発前に学年ごとにクラーク像を背景に記念撮影。

 記念撮影を終え、生徒たちは羊ヶ丘展望台を後にする。


「午後からだなぁ」

「俺らは時計台見に行く」

「あれガッカリスポットじゃないっけ?」


 等とバスの中でザワザワと午後からの自由行動の話題で盛り上がる。

 勿論、俊哉と竹下も地図を広げながら色々話をする。


「午後一時頃に着くから。そこからホテルで荷物置いて出発するとなると一時半頃の出発だな。そこから約半日はちょい短い気もするが」

「まぁ仕方ないかなぁ。1日中回るのもかなり大変だしね」


 竹下の話に俊哉が言葉を返していき、時間目一杯まで遊ぶ計画を立てる。

 真剣な話をしているとあっという間に時間は過ぎて行き、札幌市街へとバスは入り本日宿泊予定のホテルへと到着。


「お、着いた」

「トシ降りるぞ」


 荷物を持ちバスから降りて行く俊哉たち。

 ホテルのロビーへと入り大きな荷物をまとめて置くと、教師からの話を聞いていよいよ自由行動の開始だ。


「皆さん集まりましたわね?」

『ハァイ』


 瑠奈が点呼を取ると、俊哉を含め班全員が集まっている事が確認出来る。

 そして司、ハルナ、由美の3人も合流し計12人での自由行動である。


「さてでは早速。。。」

「あーちょいちょい待ってー」


 瑠奈が出発をしようとした時、彼らを呼び止める声が聞こえた。

 瑠奈たち全員が声の方向を振り向くと、そこには美咲と明輝弘がいた。


「あら氷川さんと、庄山さん どうかされましたか?」

「いやぁ良かった間に合ってー」


 瑠奈が美咲に話しかけると、美咲は安堵の表情を見せながら近づく。

 そして美咲は瑠奈に話し出す。


「ちょっとさ、ウチらの班も一緒に行動していい?」

「。。。はい?」


 美咲からの提案に瑠奈の表情は険しくなる。

 というより困惑に近いであろう彼女は、美咲に理由を問う。


「一体どうされましたの?」

「いやさぁ、私と明輝弘でほら。デートよデート」

「はぁ。。。」

「そんで、うちの班の残りの子達あげるね?」

「。。。はいぃ!?」


 今度は困惑では無く怒りに近いであろう。

 今でさえ12人の大所帯だというのに、これ以上増やされるのは瑠奈としては拒否したい。


「お断りします!」

「まぁまぁそう言わないで。ほら菫とか真琴とか使える子いるし。ねっ?おねがぁい!!」


 手を合わせお願いする美咲。

 そんな彼女の押しに瑠奈はタジタジと後ろへ後退して行く。


「ほら!明輝弘からも」

「あぁ、頼む!」

「一言で済ませないでくださいますか!?」

「え?いやそれ以外に言う事ないし?」

「はぁー。。。俊哉さんは如何です?」

「え?!俺!?」


 深いため息を吐く瑠奈は、近くにいた俊哉に振る。

 俊哉は自分を指差しながら突然の指名に驚く。


「俺はぁ。。。」


 いきなりの事に困りながら周りを見渡す俊哉。

 彼の性格上、次の言葉しか出ない事はこの場のほとんどが予想していた。


「俺は、いいよ?」

「そう言うと思いましたわ。良いでしょう氷川さん。」

「本当に!?ありがとうー。じゃあ煮るなり焼くなり、好きに使ってくださいな?」

「私らは食材かっての。。。」


 瑠奈の言葉に嬉しそうに話す美咲。

 美咲が真琴の背中を押しながら言うと、真琴は呆れ顔でツッコミを入れる。


「じゃあねー」


 パッと笑顔を弾かせながら手を振る美咲は、明輝弘と腕を組む。

 そして美咲は司と目を合わせると、パチンとウインクをする。


(あ、美咲ちゃん)

(頑張りなさいよプラモちゃん?)


 司も彼女のウインクに気づくと、笑顔を見せて返す。

 美咲はそのまま振り返っていきホテルから出て行くのであった。


「なんか、すっごい増えたね」

「もう、どうにでもなれですわ。」


 苦笑いを見せながら話す俊哉に、吹っ切れた瑠奈。

 美咲と明輝弘を抜いた、菫、真琴、山本、秀樹、の4人が新たに加わった事で計16名。

 ゲームのパーティでも多過ぎだろと言われんばかりの大所帯となった。


「さぁ時間はありません!行きますわよ?!!」

『おー』


 瑠奈の言葉に返事をする俊哉たち。

 三日目の一大イベント、札幌市自由行動の時間が今始まったのであった。

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