第10話:試合がしたいです

 とある練習の日。

 いつも通りに練習をし、いつもの様に終わって帰る。

 そんな日常が待っているはずだった。


 だが・・・


 この日、一人の男子生との言葉で一気に変わる。

 事の発端は練習後の監督からの話の中で起こった事だ。


「あの、いいですか?」

「ん?あぁ宮原、どうした?」


 挙手をするのは琢磨。

 春瀬監督が琢磨を呼ぶと、琢磨は立ち上がり話をする。


「あの、1つ提案していいですか?」

「なんだ?」


 琢磨の言葉に春瀬監督は提案が何かを聞き返す。


「そろそろ自分たち一年生達の実力を見てもらいたいと思います」

「ふむ 具体的に?」


 春瀬監督は、この瞬間に琢磨に対して不思議な感じを感じていた。

 入部してからと言うもの、琢磨ん動きは実に堂々としている。

 先輩にもハッキリと物を言う彼の度胸に感心すら覚える。

 そんな琢磨の言葉に、春瀬監督はどこか期待していた。


「試合をしてもらいたいと思います」

「試合・・・」

「はい」

「試合といっても、対外試合は」

「いえ、対外試合ではないです。」


 春瀬監督の言葉を遮る琢磨。

 そして琢磨は目線を動かし俊哉をジッと見つめる。


「二、三年生と試合をさせてください」

「なるほどそれなら・・・え?」

「一年生対二、三年生 これで自分たちの実力を確かめて見てください」


 その言葉に全員が固まった。

 だが春瀬監督はゾクゾクっと身震いした。


(本気でいってるのか!?凄い・・・凄いな・・いや、面白い)


 ニッと口元を緩める春瀬監督。


「なるほどな 面白い 許可しよう」

「ありがとうございます」


 そこで話が終わり解散。

 異様な雰囲気が漂う中、琢磨の所に一年生の選手が集まる。


「お前!マジで言ってんの?!」

「マジマジ」

「いやいや・・・ちょっと待てって!」

「え?何が?」


 他の一年生が驚くのも無理はない。

 琢磨だけの言葉ではあるが、実質一年生が二、三年生に喧嘩を売ったのと同じである。


「試合て・・しかも一年生と二、三年生で?」

「いや。これの方が手っ取り早いでしょ?」

「そりゃそうだけど・・・」


 困惑する一年生選手。

 だが真逆に琢磨は堂々としており、一点の曇りもない目をしていた。


「琢磨」

「何?亮斗」

「勝つつもりか?先輩らに」


 その質問に一年生全員が琢磨を見た。

 琢磨は、少し間を開けるがハッキリと言った。


「勝つよ?勿論、俺らにはその力があるよ」


その琢磨から出た言葉に、一年生達は驚愕と共に彼のその表情にむしろ清々しささえ感じた。


「あーもう!!わかった!!やってやるよ!」

「お、おー!!」


 半分ヤケだ。

 一年生らは来たる試合に向けて気合をいれる。


「んで、いつなんだ試合は?」

「え?」

「え?」


 空間に無言が走る。


「さぁ・・・?」

「はぁ?」

「そういや何時なんだろうね?ハハハ・・・」


 笑いながら話す琢磨に他の一年生らは一気に力が抜けるのであった。

 そして、二年生の方ではと言うと竹下が俊哉に話をする。


「喧嘩売られたなぁ、流石はトシの後輩」

「それどう言う意味さ」

「そのまま すっげぇ度胸だよな」

「まぁ琢磨は昔からそうだったからね」


 ハハハと笑いながら話す俊哉。

 その俊哉に明輝弘が近寄る


「だが気に食わないな その自信がな」

「いや、お前が言うか!?」

「ん?」


 鋭いツッコミを入れるのは山本。

 明輝弘は首を傾げ何のことか分からないといった表情をしていたが、山本はそれ以上は何も言わなかった。


「でもまぁ・・・楽しみだよね・・・本当に」


 笑顔を見せながら話す俊哉。

 だが俊哉は内心楽しみでならなかった。


(琢磨・・・これだよ。琢磨に期待してるのは実力だけじゃない この自分の動きや発言で、周りを引っ張っていく力だよ 面白いよ)


 琢磨に期待を寄せる俊哉。

 そんな一年生と二、三年生の試合日はと言うと、後日ゴールデンウィーク中に行うことが決まったのであった。

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