第10話 第3の選択肢
空腹という訴えを抑えるように、うでを身体の前で組む。
私は今、とても悩ましい局面にいた。
目の前には、一枚のメニュー表。そこには『朝食を和食か、洋食から選んでください』と書かれている。
ホテルの朝食。ここではバイキングではなく、メニューを選ぶタイプものだった。
和食か、洋食か。私はどちらを選ぶべきだろうか。昨晩のチェックインで朝食の形式を知ってからどちらにするかを決めかねていて、現在午前7時半。レストラン入り口横にて写真付きの献立とにらめっこを続けている。
ご飯は食べたいけれど、おかずに苦手なやつがあるんだよな……
かといってパンはお腹にあまり溜まらないし、個人的に食べるのに時間がかかる。
今日はこの後長めの用事があるから、朝食はさっと入れられて腹持ちが良いものを食べておきたい。しかし、洋食のメニューにある、スクランブルエッグは捨てがたい。
……結局私は、その黄色いふわふわとした食感を舌の上に思い出してしまい、洋食を選んだのだった。
洋食器に、パンとスクランブルエッグとベーコンとサラダが乗ったトレーを机に置き、一息つく。
というかどうして、『うどん』という選択肢が、朝ごはんのメニューに無いんだ!!
この、宿泊先の朝食におけるうどんレスは今回のホテルに限ったことではない。
バイキング形式の朝食であっても、蕎麦はあるのにうどんはない、ということが多々ある。夕食にはかろうじて焼きうどんか、自分で作るタイプのやつが用意されているが、朝食にうどんを置いてあるところにはほとんど出会ったことがない。
まぁ、私はほとんど毎朝うどんを食べているのだから、遠出した時くらいは気分を変えて、という意味合いでもいいのかもしれないが。それでも、朝食の選択肢に『うどん』がないとなんだが悲しいような寂しいような。いつも傍に居る人がいないような、そんな気持ちになってしまう。
朝食うどん問題は、別のところでも発生している。それは、プロフィール帳やアンケートにて『朝食はご飯?それともパン派?』と聞かれた時だ。
「私はうどん派ですが?」……となるからだ。如何せん回答には困るし、渋々欄外に『うどん』と書いたりするのだけれども。
最近は性別でさえ『その他』欄があるのだから、朝食にも『その他』を作ってもいいのではないかと思ってしまう。
……そもそも、朝食にうどん派の割合はどのくらいなのだろうか。調査方法も結果も様々ではあるだろうが、この現状を見るに、ひょっとすると少ないのかもしれない。
また、学生の時にはこんなこともあった。
体育の時間、チーム分けのタイミング。担当教師はこんな指示を出した。
『じゃあ、朝食にご飯食べてきた人はAチーム、パンだった人はBチームね』
なんということだろうか。
「先生!うどんを食べてきた私はどうしたらいいでしょうか!」
『えぇ……』
そんなに困惑しないでくださいよ。
『じゃあ、人数の少ない方に入ってもらえるかな』
若干納得出来ないところがありつつも、片方のチームに入る。他にパンとご飯以外を食べてきたやつはいないのか……!?
『先生、私朝ごはん食べてこなかったんですけど』
よし、仲間がいた(?)
『自分はシリアルでした』
なるほど、そんな選択肢もあるのか。
バスケットボールの試合が始まる。同じような動きをしていても、私たちのお腹には、様々な食べ物が詰まっていて、色々な朝の思い出をのせている。
うどん以外にも、家族や世帯の数だけ、そこに更に好みなど様々な事情も加わって、朝食にはいろいろな選択肢が生まれる。
ホテルや旅館などがそれら全てに応えることは難しいし、地元の食材を使った料理を売りにするところもあれば、格安で豊富な種類のメニューを提供するところもある。
そんなところで多数派のパンとご飯は置いておく、と言う手法が無難でベターなのだろう。
そしてアンケートやチーム分けにおいても、マジョリティ、多数派がとりあえず採用されるのだろう。きっと、それがいい場面もあるのだろう。
それでも、私はうどんにそばにいてほしいと思う。
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