第2章 孤独と疑惑、疑念と思惑
第10話 重大な軍議はそ知らぬうちに行われている
明らかに地球上ではない緑の森のなかに、突如出現した巨大なガラスドーム。
その上を飛び回る複数の
それらに鉄槌を下すは、漆黒の
そして少女は、亜麻色の長い髪を悠然と振り乱しながら、的確かつ素早い攻撃で、
「超人的な跳躍だな……あの少女は人間ではないな」
「うむ、見た目は人間そのものだが……」
「あの身体能力は……アンドロイドで間違いないだろう」
会議室の全面に設置されたモニターに映し出される映像を見ながら、地球政府軍の幹部たちは、口々に唸った。
やがて、大写しになった少女が自らの背中から槍のような武器を繰り出すと、それを
その様子に、照明を落とした会議室の各所からちいさな呟きが漏れる。
「
「敵ながら、まったくもって見事としか云いようのないやり口だな」
……次の瞬間、大きな衝撃音とともに画面が乱れると、ぶつり、と映像が途切れた。モニターは黒い闇に沈む。そして室内に灯が点る。そして、幹部たちの興奮の囁きが静まったタイミングを見て、第6星域軍のリェム少佐が声を放った。
「以上が、デネブ星域、惑星ノヴァ・ゼナリャで、先日発生した戦闘の模様であります。……ノヴァ・ゼナリャはいままで、無人惑星と考えられておりました。だが、ご覧になりましたように、ノヴァ・ゼナリャには疑似生命体が存在することが判明しました。そしてその疑似生命体に、我々は完膚なきまでに叩きのめされたのであります」
リェムの低くよく通る声が会議室に響きわたる。
「ですが、その疑似生命体とは、見ての通り、地球外生命体ではないようです。そして、皆様もご存じの通り、ノヴァ・ゼナリャといえば、約500年前、我々の祖先が「
「……ふむ、よく分かった、レフ・リェム少佐。報告ご苦労であった」
その声にリェムは一礼して、壇上より自らの席に戻る。リェムは、つくづく、ノヴァ・ゼナリャに乗り込んだ際、救援機に
……なんせ、この目で見た俺でさえ信じられない光景であったからな。
リェムは心の中で独りごちた。そもそもは、サナトリウムに向かう途中に行方不明になった宇宙船を捜索するだけの、簡単な任務であったはずなのに、気が付けば救援機のレーダーは地表に巨大な建造物を捉えていた。そして、その上空に派遣した
「惑星ノヴァ・ゼナリャのある第6星域。たしか、あそこは例の電波が発せられていた星域ではなかったかね、リェム少佐」
リュムは議長である将軍からのその声に我に返った。……いかんな、あの少女のことを思い返すとついつい我を忘れちまう……。リェムはそう胸中で呟きながら、栗色の髪を揺らし顔を上げると、投げかけられた質問に答えるべく口を開いた。
「はい、その通りです。いままでは、無人惑星と思われていましたから、ノヴァ・ゼナリャは発信元の探索から外していたのですが……」
「なるほど、そうだったな。だが、こうなってくると、ノヴァ・ゼナリャが……というか、ことによっては、あの、我々の祖先が作ったと考えられるアンドロイドが、電波の発信元である可能性も出てくるわけだな」
「……仰せの通りです」
リェムは手短に答えた。途端にまた議場が、ざわざわっ、とする。
「うむ……ならば、惑星ノヴァ・ゼナリャにも早急に探索の手を伸ばす必要があるな」
「すぐにでも、また軍を派遣せねば。今度は救援機などではなく、本格的な軍艦をだ」
……やれやれ、また俺に出番が回ってくるのか。リェムは幹部たちの囁きを耳にしながら心の中で思わずぼやいた。第6星域などという、有人惑星もほぼない、地球からすれば宇宙の辺境に過ぎぬところで、のんびりと軍務を行おうと思っていたのに……どうやら、アテが外れたな。リェムは軍人にあるまじき考えを頭の中で巡らせる。
……久々の地球だというのに、どうやら、お偉い方は俺に暇を与える気はなさそうだ。ああ、地球に帰ってきたからには、抱きたい女が、あちこちにいたのだがな。
そうして、リェムは議場の誰にも気づかれぬよう、僅かにそっ、と肩をすくめるのであった。
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