第112話 穴村の秘密

 俺も恭司も、敬語じゃなくていいぜ、とミュゼに言ったんだけど、ミュゼはうーんとうなって、難しいけど頑張ってみますね、と敬語で言った。

 同じくらいの年頃なのに、村の獣人たちには砕けた話し方が出来ても、村人以外には抵抗があるらしい。


 ランジャさんの家にアダムさん、フォーイさんの家にフランツさん、ミュゼの家に俺と恭司が泊めてもらうことになった。

 ミュゼの家はバンス村の中では一番大きな木造りの家だった。元は家族と暮らしていたのだろう、いくつも部屋があり、恭司は自分一人の部屋を与えて貰って大喜びだった。


 普段は、場所取らねえだろ、と言われて、基本俺とユニフェイと一緒の部屋だからな。

 俺は獣人の国についてからは、ユニフェイをアイテムボックスから出さないでいた。

 なぜかと言うと、獣人の国では、喋る生き物以外は、すべて食べ物と見なされるから、君の彼女、気をつけてね、と、アシルさんから言われて怖くなったからだった。


 恭司は喋れるから問題ないけど、ユニフェイは喋れない。誰かが連れてれば基本襲わないけどね、とは言われたけれど。

 意思疎通がはかれるものは食べなくて、それ以外は全部食べるとか、そんなに食べ物が不足してるんだろうか。


 まあ、ユニフェイはフェンリルだから、そうそうやられたりしないだろうけど、それでも食べ物として見られるというのは、あんまりいい気はしない。

 それに万が一狙われでもしたら、たまったもんじゃないからな。

 だから、夜は久しぶりにユニフェイ──江野沢と2人きり、ということになる。

 俺……今夜寝られるだろうか。


 一度家の外に出て、恭司と村の中を見て回った。見れば見るほど不思議な村だった。

 バンス村の住人たちは、首から下げている認証タグのようなものがないと、自由に出入りが出来ないらしい。

 外して外に出たことがバレたら、かなりまずいことになるのだそうだ。


 村の周囲を覆う木の柵も金網も、天まで覆っているわけじゃないのに、ピウラは柵をこえて外に出られないらしい。

 だからバンス村の中で、放し飼いで飼うことが出来るのだそうだ。

 柵と金網に、なにかしらの魔法がかかっているのかも知れなかった。


 かといって、村人以外が出入り出来ないというわけじゃなく、認証タグのない俺たちのような客人は、自由に出入りが出来る。

 柵と金網が出入りを封じているのは、ピウラとバンス村の獣人たちだけなのだ。

 まるで──ミュゼたちまでもが、ここで飼われているかのように。


「いない……。」

 村を一通り見渡して、俺は強い違和感を感じた。だけどそれを口には出来なかった。

「何がだ?」

「いや、なんでもねえ……。」

 俺は違和感の理由を恭司にも伝えずに、恭司とともにミュゼの家に戻った。


 ミュゼの家には、凄く豪華なタペストリーがかかっていた。明らかに織られて絵柄を作っている、技術の必要なものだ。

 とてもこんな小さな村にあるには不釣り合いな、と言っては失礼だが、格式と時代を感じさせる、美しい作品だった。


「こういうのも作ってるのか?」

 と尋ねると、ミュゼは寂しそうに眉を下げて首を振った。

「……このあたりは、元はドマーっていう小国でね、このタペストリーはその次代の名残なんだ。オイラの家は、ドマーの王族だったんだって。

 だけど、それと分かるものは、もうこれしか残ってない。──忘れられた国さ。」


 世が世なら、小国とはいえ、ミュゼは獣人の国の王子様だったってことか。

 過去に思いをはせるかのように、ミュゼはタペストリーの向こうの異世界を見ているような目をした。

「なんで、なくなっちまったのか、聞いてもいいか?」

 俺は少し首をかしげながら、眉を下げてミュゼに聞いた。


「タダヒロさんには、少し嫌な話になると思うよ?

 聞かないほうが、いいと思うな。」

 困ったようにそう言うミュゼの声には、悪意も敵意もなかった。

 多分、人間がなにかしたのだ。恐らくは。


 だけどミュゼは、それを匂わす言葉ですらも、同じ人間である俺に、少しでも、不快な気持ちを与えたり、俺を傷付けてやろうとかも、思っていないようだった。

 俺なら、自分が、姿形の違う一族になにかされていたら、同じ姿形の奴らに対する不快感で、知らない相手でも、他人にその感情を相手にぶつけていたと思う。


 ただの諦めなのか。ミュゼが優し過ぎるだけなのか。悲しげな目をしたミュゼの気持ちは、俺には読み取れなかった。

「──聞かせて欲しい。」

 俺はそれでも、そう言った。

「……人間たちにね。襲われたんだ。」

 ミュゼは俺から目線をそらしながら、ぽつりと呟いた。


「獣人の国は、当時、まだ人間の国と協定を結んでいなかった。だから、人間が獣人たちを、まるで魔物のように討伐したとしても、人間の国に逃げられた場合、犯人を罰することが出来ないでいたんだ。

 オイラたちの先祖を殺しまくって、国を滅ぼしたのに、捕まることもなく、どこかに行ってしまったらしいよ。」


 犯罪人引渡し条約みたいなもんか。日本はなんでか、パスポートを持ってるだけで、スイスイ行かれる国の数は、世界中の国の中でナンバーワンの、最強の信用を誇っているのに、犯罪人引渡し条約は、たしか2つか3つくらいの国としか締結出来ていない。


 これは世界中のどの国と比べても極端に少ない。大体の大国は100ヶ国以上の国と、犯罪人引渡し条約を結んでいるのだから。

 死刑廃止国が、死刑のある日本と、犯罪人引渡し条約を締結したくないってのが理由らしいけど、そのせいで海外に逃げられたら、もうアウトなんだよな。


「犯人は、勇者を名乗る人間たちだった。

 魔族の国に、魔王を倒しに行くんだって言って、その為の経験値稼ぎだったらしい。

 姿形が違うだけでオイラたちだって人間なのに、オイラたちを殺しても経験値にならないのに、それをどれだけ伝えても、無視して殺しまくったって言ってた。」


 ミュゼは、泣きたいのに泣けないかのように、顔をくしゃくしゃにして、それでも涙は流していなかった。

「もう、残ってるのは、この村の獣人だけなんだ。

 今このあたりに住んでる獣人たちは、よそから移り住んで来た人たちばかりで、オイラたちとは関係のない獣人ばかりさ。」


「そうだったのか……。」

 だけど、まだ疑問が残った。

「けどよ、今、バンス村に住んでる獣人以外がよそから来たんだとして、どうしてあんなに、ミュゼに対してえばってるんだ?

 生き残ったドマー王国の獣人たちを、なんで同じ獣人が迫害してるんだよ?

 少なくともあの店主は、王族の血を引くミュゼよりも、絶対的に立場が下な筈だろ?」


「それは……。

 ──さすがに言えないや、ごめんね。」

 ミュゼは困ったように笑った。

「そっか……。」

「この村にお客様なんて初めてのことだからさ、夜ご飯はみんなで集まって食べようって話してるんだけど、来てくれるかな?」


「ああ!もちろんだぜ!」

 そう言うと、ミュゼはニッコリ微笑んだ。

 俺とミュゼ、恭司が家の外に出ると、既にバンス村の獣人たちが、広場のような場所で食事の支度を始めていた。

 バーベキューするのかな?

 焼き物の台みたいのを組み上げている。


「俺も手伝うよ。」

 ランジャさんとフォーイさんが組み立てをしているのを見て、駆け寄って声をかける。

「──俺たちも、準備を手伝ってもよろしいでしょうか?」

 後ろにいたアダムさんたちが、俺に聞いてきたから、俺はミュゼにいいか?と尋ねた。


「……いいの?」

 ミュゼも他の獣人たちも、凄く不思議そうに、目を丸くして俺たちを見ていた。

「一緒に食べるんだろ?

 じゃあ、一緒にやろうぜ!

 その方が楽しいからな!」

 そう言うと、獣人たちがミュゼにコックリとうなずいて見せ、ミュゼが、じゃあ一緒にやろう!と言ってくれた。


 アダムさんは、ちょっと料理に自信があるらしく、料理班を手伝っていた。俺とフランツさんは、焼き物の台を組み立てたり、椅子やテーブルを運ぶのを手伝った。

 恭司が器用にクチバシで、テーブルクロスをテーブルに引くのを見て、獣人たちが拍手してくれ、恭司がドヤっていた。


 テーブルの上には、このあたりで取れたリースラという果物を使った果実酒、それの加工過程で出来るジュース、バンス村で育てている野菜、それと、料理班に加わっていたアダムさんから、肉がまったくないようなのですが……と言われたので、俺の出した肉をアダムさんたちが料理したものが、木をくり抜いて作ったお皿に盛りつけされ、テーブルの上に所狭しと並んでいる。


 肉食の獣タイプの獣人が多いのに、肉を食べないのかと聞いたら、あんまり手に入らなくて……とのことだった。

 だからタップリと肉料理を並べたことで、みんな大喜びだった。

 宿賃、お金と肉、どっちがいいか?と聞いたら、肉がいいと言われたからだ。


 お金をたくさん貰っても、バンス村のみんなが肉を手に入れられないことを知っているから、買い物する時に足元を見られて、かなりの高値をつけられてしまうらしい。

 おまけにそもそも他にお客がいると、店の中に入れて貰えないんだそうだ。


 あまりにムカついたので、1食じゃ食べきらないんじゃないかってくらいの量を出したら、みんな呆気に取られていた。

 更に常温保存可能なランチョンミート、ウインナー、ブロックベーコン、ソーセージステーキをたっぷりと出した。

 ランチョンミートしか知らなかったんだけど、種類増えたんだな。


 みんな異界の門にも驚いていたけれど、宿賃としてこれは多すぎるよ……と、ミュゼも他のみんなもさすがに遠慮してきた。

 だけど俺と恭司が譲らなかった。

 最後にはお礼を言ってくれ、みんなで鍵のかかる共用倉庫にそれらをしまった。


「それじゃあ、お客様を……、

 ──フォーイ、よだれよだれ。」

 ミュゼにクスクスと笑われ、あんぐりと開けた口から、マンガみたいな大きなよだれが落ちそうになっていたことに気付いたフォーイさんが、みんなにドッと笑われた。


「改めまして、お客様を歓迎して。

 乾杯!」

 みんなで手に手に持ったグラスを掲げる。これも木でくり抜かれたものだ。

 俺はジュースを貰ったんだけど、スパークリングワインのアルコール抜きみたいなものですね、とフランツさんが言った通り、シュワシュワして美味しかった。炭酸苦手なんだけど、このくらいなら飲める。


 料理は凄く美味しかった。フランツさんはランジャさんと飲み比べを始め、最後は2人して同時に倒れて引き分けとなった。

 フランツさんは気が付いた途端、護衛が何をやっているんだと、アダムさんに叱られて頭をかいていた。

 それを見てまたみんなで笑った。


 俺も恭司も場酔いして、まるでお酒を飲んだ人みたく、気持ちよくなっていた。

 和やかに食事会が終わり、はじめは俺たちを警戒した様子だったバンス村の人たちも、最後はみんな笑顔で手を振ってくれて、それに見送られながら、俺たちはミュゼの家へと戻った。


 ベッドに倒れ込むと同時に、アシルさんから借りた通信具が光る。宝石の部分を押したら、相手は恭司だった。

「なんだよ、緊急用って言ってんだろ?」

「ちゃんと聞こえるかと思ってよ。」

「聞こえてるよ、ちゃんと。」

 そう言って通信具を切った。

 またしばらくすると恭司から連絡が来る。


「なんだよ!?」

「今シコってたろ?」

「人んちでシコるか!!」

「でもこの時間、家ならシコってたろ?」

「まあそうだな。」

「おやすみ〜。」

「シコってると思ってんなら、かけてくんじゃねえよ!馬鹿!死ね!」


 恭司の、ヒャッヒャッヒャ、という笑い声とともに通信が切れる。

 久々受けたな、恭司のシコ電。

 この世界に来る前は、しょっちゅう来てたから、くだらない内容なのに、変に懐かしくて笑ってしまう。

 恭司も多分そうなんだろう。


 俺はユニフェイをアイテムボックスから出してやった。ここに来るまで、ずっとアイテムボックスの中に入れていたのだ。

 歓迎会で出して貰った食べ物を、分けてもらって来ておいたので、それを食べさせてやる。ユニフェイは嬉しそうに食べた。


 ふと、視界のはしで、何かが動いた気がした。俺の無駄にいい動体視力がそれをとらえて、気になった俺は窓に目をやった。

 窓から、まるで綿毛のようにふわふわと浮かぶ、白いホタルのような光が、いくつも飛んで漂っているのが見えた。


 俺はこれを、ユニフェイ──江野沢と一緒に見たいと思った。本当は、全部の景色を一緒に見たかったのだけど仕方がない。

 俺はユニフェイを連れて、そっと家の外に出た。そろそろ夏も終わる頃なのだろうか。

 夜は少し冷えた。ユニフェイを抱きかかえるようにすると、とても暖かかった。


 恭司のいる前じゃ、さすがに恥ずかしくてこんなことは出来ない。ただの犬だと思っていた時ならいざ知らず、江野沢だと思っているから、見られたくないのだ。

 恭司はそれに対して何も言わないけど、江野沢が元に戻ったら、絶対にイジってくることは間違いない。


 一面の広い花畑の上を、たくさんの白い光がふわふわと舞っている。それはとてもとても、幻想的に美しい光景だった。

 ここがとてもおかしな村なことも。

 俺たちの置かれた状況も。

 すべてを一瞬忘れるくらいに。

 そして、何故かとても物悲しかった。


「きれいだな……。お前と一緒に見れて良かったよ。早く元の姿に戻れるといいな。

 許可がおりれば獣人の国からエルフの国に移動して、そこから妖精の国に行かれる。

 元の姿に戻れたら、もう一度、ここに来ような。──人間の姿のお前と、これを一緒に見てえんだ。」


 無邪気に俺を見上げる江野沢に、愛おしさがこみ上げる。俺はそっと、フェンリルの姿のままの江野沢を抱きしめて、キスするように首元に唇を埋めた。

 その途端、人が動く気配にビクッとする。

「──誰だ……?」


 深夜までいかないまでも、だいぶ遅い時間で、村の明かりはすべて消えている。

 その人影はなにか大きな荷物を肩に担いだ状態で、村の入口へと人目を忍んで向かっていくようだった。そっと近付いてみると、その人影は──ミュゼだった。


「ミュゼ…!何やってんだ?」

 突然声をかけられたミュゼが、ビクッとして振り返る。目を見開いて、まずいものを見られた、という表情をしていた。

「──捧げ物さ。」

「こんな夜中に?」


 ミュゼはうつむいて、押し黙ったまま答えなかった。

「……なあ、その袋の中身、なんだよ?」

 俺は嫌な予感に背中に冷たい汗が伝った。

「──ユニフェイ。」

「あっ!!」


 俺の声に、ユニフェイがミュゼの担いだ袋に飛びつき、噛んで振り落とす。

 体勢を崩したミュゼが地面に落とした袋の中から、酒に酔って寝ているランジャさんが現れた。

「どういうことだよ、ミュゼ!?

 なんでランジャさんをこんな目に……!」


 アダムさんは、俺を守る為に建物の影に隠れてこちらを見ている。家には寝ているランジャさんしかいない状態だ。

 その隙にランジャさんの家に忍び込んで、寝ているランジャさんを連れてくるのは、わけもないことだっただろう。


 ミュゼは俺に振り返り、そして微笑みながら涙を流した。

「タダヒロ……。

 ……オイラたちの国は、とっくに獣人の国じゃない。

 オイラたちの生まれるずっとずっと前に、人の国に支配されたんだ。」

「支配……?」


「……人間に負けたドマー国民は、生まれた時に爪と牙を抜かれる。

 獣人の誇りである、爪と牙をだ。

 だから狩りも出来ない。爪と牙を失った獣人を、獣人たちは同族とは見なさない。」

 だから、おんなじ獣人から見下されていたのか、生まれた時から、ずっと。


「入れ歯を渡されるから食事は出来るよ。

 だけど獣人としての誇りは、──生まれた時から死んでんだ。

 “穴”として使うにゃ、その方がちょうどいいんだと。だからオイラたちの村は、バンス村じゃなく、穴村って呼ばれてる。」

 人間たちの穴として使われる獣人たちの住む村。なんて屈辱的な呼称だろうか。


「オイラたちは狩りが出来ない。

 他の獣人たちは、誇りを失った獣人を仲間とは認めない。どこかに逃げても、他の獣人たちに拒絶されるから、住む場所はここしかないんだ。

 定期的に人間に仲間を捧げ物として渡すんだ。そうしなきゃこの土地にも住めない。

 誰も助けてくれない。誰も……!」


「ミュゼ……。」

「──これが、ドマー王家末裔の、オイラのたった1つの仕事なんだ。

 オイラたち、生まれた時から、人間の奴隷なのさ……。」

 ミュゼは笑いながら泣いた。

 大切な仲間を売り渡す。それだけが、王族の末裔としての仕事だなんて。


 俺が感じた一番の違和感。

 だからこの村にはいなかったのだ。

 老人や、大人の獣人が、誰一人として。みんな、捧げ物にされたのだ、人間たちに。

「──ああ、そうかよ。

 俺たち異世界人だけじゃなく、こんなとこまで来て、他の種族にまで手え出してやがったか、クソッタレ野郎ども。」

「タダヒロ……?」


 様子のおかしい俺を見て、ミュゼが恐る恐る、うつむく俺の顔を覗き込んでくる。

「取り戻せ、お前の力でそいつを殺せ。

 ああ、気に入らねえ、気に入らねえ、気に入らねえ!!!!!

 ──スキル合成、再生、回復魔法、知能上昇、MP回復、千里眼。対象指定、半径1キロ以内の獣人の爪と牙。

 デットボーンリバース!!!」


 俺の体から光の柱が立ち上り、雲にも届くかというところで、周囲に拡散していく。

 ミュゼの体も光に包まれたかと思うと、

「ウオオアアアア!!!!」

 メキメキメキッと、ミュゼの体に牙と爪がはえてくる。口からポロッと押し出された入れ歯が落ちた。

「な、なんだ、なんで、これ……。

 タダヒロ、一体オイラに何を……?」


「回復魔法は、髪の毛と血液みたいに、減るのが確定してるもんは戻すの無理だけどよ、骨とか歯の根本とか、爪の根本は本来あるもんだから、治すことが出来んのさ。

 臓器みてーな複雑なもんは、傷を塞いだり治したりは出来ても、病気を直したりは出来ねえけどな。」


 バンス村の家という家に明かりがつき、獣人たちが次々と起き出して、家から出てきては、口々に、爪が!牙が!と騒いでいる。

「最近抜かれたなら、再生持ってれば戻せたかも知れねえけど、ただかなり前に抜かれちまってるから、回復で歯と爪の根本を治す必要があった。

 そっから強制的に再生させたんだ。」


「そんな……、そんなことって……。

 なんでそんなことが出来るんだよ?」

「魔族の友達がいてな。再生は人間と動物以外なら使えるって、教えて貰ったんだ。

 腕の1本くらい、余裕で生やせるぜ。

 ミュゼが獣人だったから出来たのさ。

 この近辺の獣人すべての、爪と牙を復活させた。……もう、お前らは、自由なんだぜ、ミュゼ。」


「自由……。」

 ミュゼは急に言われても、どうしていいか分からないようだった。そこに光の元を辿って、他の獣人たちが集まってくる。

「ミュゼ!俺たちの爪と牙が……!」

「戦える!これであいつらと戦える!」

「お前だけに背負わすことは、もうしねえよミュゼ!!行こう!奴らのところへ!」

「みんな……。」


 バンス村の獣人たちは、ミュゼを取り囲んで口々にそう言った。

「さあ、奴らの根城に案内してくれよ。

 ──復讐といこうぜ。

 お前はこのドマー王国の後継者だ。

 みんなを率いてくれよ、ミュゼ。」

 ミュゼはバンス村の獣人たちの顔を見渡すと、そして力強く、コックリと頷いた。

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