第85話 親友に似た男

 マリィさんに出会って気付かされたことの1つは、江野沢は俺が何をするんでも喜んだんじゃないかということだった。

 江野沢は校内ランキング3位に選ばれるような女の子で。

 俺はといえば、上位にはいけるものの、決して何かで毎回1位を取ったりなんて出来ないそこそこ君。

 江野沢がこんな俺のどこを好きになったのかが分からなくて。

 カッコ悪いところを見せたら嫌われるんじゃないかとか、何をしたら嫌われないんだろうかと、そればかりを考えていた気がする。

 江野沢の期待に応えられない自分。

 好かれていたかったから。

 俺も好きだったから。

 どうでもいい相手なら、別に気にしなかったし、好きだと言われて、まあまあ見た目が可愛かったら即ヤッてたと思うけど。

 1位を取れる自信がないから、カッコ悪い自分を見られるのがいつも恥ずかしくて、嫌われるのが嫌で、結果傷付くのが怖くて、いつも江野沢から逃げてた。


 けど、多分そんなこと、江野沢にとっては何も関係がなくて、俺が俺であれば、江野沢はそれで良かったんじゃないか?と。

 小さい頃、俺が運動会で転んで泣いて恥ずかしがっているのを見て、頑張ったねと言って、なんで2人が泣きそうなのかよく分かんなかったけど、嬉しそうにしてた両親。

 江野沢はただ、そんな風に、“俺が”何かしてるのを見るのが幸せで、結果なんてどうでも良かったんじゃないかって。

 第三者目線で、江野沢そのものみたいなマリィさんを見た事で、はじめて気が付いた気がする。

 マリィさんは、エンリツィオがカッコいいから好きになったというより、好きだからカッコいいと思ってて、エンリツィオがコケてようが何しようがカッコいい、愛おしい、と思ってそうだと思わせる人だった。

 江野沢がいつも、匡宏はカッコいいよ?とか、世界中の女性が欲しがってもおかしくないんだから、とか、むず痒くなって、江野沢の目の前から逃げ出したくなるようなことばかりを、日々言ってくれていたのも、実は本音だったのだと、エンリツィオに向けるマリィさんの目線を見ながら、俺は1人百面相をしていた。


 だって俺は男性アイドルなわけでも、篠原のようなダンスが踊れるその界隈では有名人だとかでも、エンリツィオのようにカッコよくて腕力と権力があるわけでも、なんでもないのだ。言われる意味が分からない。

 けど、多分、あの2人は、俺がエンリツィオの見た目で、エンリツィオが俺の見た目でも、まったく同じことを、おんなじ目をして言うのだ。

 だからエンリツィオがむず痒そうにしてた時、表情に出さないように努力してたってだけで、ぶっちゃけ江野沢を思い出して、同じタイミングで全部むず痒くなっていた。

 マリィさんがエンリツィオの腕を見つけ出せたように。

 江野沢が俺の腕だけを一瞬で見抜いたように。

 細胞というか、遺伝子というか、そのものを好きでいてくれたのだと感じるあの感じ。

 別に俺が凄くなんてならなくても。エンリツィオみたいに生まれてたら、俺だってもっと自信が持てたのになんて思わなくとも。

 江野沢はきっと、ずっと俺だけを好きなんだと、マリィさんが気付かせてくれた。


 それがなかったら、いくらユニフェイが江野沢だと分かっても、俺は江野沢を選ばなかったと思う。

 だって目の前にいて、人間の姿でいる自分好みの可愛いジルベスタと、犬の姿のままの江野沢を、おんなじようになんて思えなかったから。

 マリィさんが江野沢への感情を、日々思い出させてくれたからこそ、俺は江野沢への思いが日増しに強くなっていったのだ。

 俺が今、江野沢を大好きで、人間に戻してやりたいと思うのは、ただの感傷なんかじゃなくて、現在進行形で江野沢が好きで、もう1度抱きしめたいと思ってるからだ。

 手を伸ばせば触れられる位置にいたのに、俺が勝手に怖がって、江野沢をきちんと見ようとせずに、距離を置こうとしていたのに、江野沢はいつだって諦めずに食らいついてきた。

 今度は俺がそうする番だと、そんな風に思ってるってだけなのだ。


 俺は、江野沢が江野沢だった時のように、眠るユニフェイの頭を撫でた。最近起きてる時にはあまり構わなくなったので、寂しそうにさせてしまってるのだけど、江野沢だと思ってるから、なんか恥ずかしい。

 江野沢はいつも全力だったからか、体力がなかったからなのか、よく電池が切れたように、昼間に突然寝る女の子だった。

 無防備に俺の前で眠る姿を眺めながら、アレがしたいコレがしたいと思って手を伸ばし、結果頭を撫でて終わる。

 俺が信じてさえいたら、いつでもその先にいけた2人だったのだ。

 ユニフェイの柔らかくしなやかで筋肉質でもある体を撫でる。体毛も相まって、ただの犬の感触でしかない。

 ピクリ、と体を震わせ、ユニフェイが目を覚ます。俺はドキッとしたが、ユニフェイは嬉しそうに俺に体を擦り寄せただけだった。

 毎日のように抱いて寝てただなんて嘘のように、俺は緊張して心臓がバクバクして、ユニフェイと一緒だと緊張で寝られなくなってしまっていた。

 別にこの犬の姿に欲情なんてする筈もないけど、いったん意識してしまうと、もうどうしようもなかった。


 アシルさんが俺たちの部屋にやって来て、予定よりも早くチムチに着いたから、国王への謁見が明日の予定なんだよね、今日は君にお願いすることがないから、自由に観光してきても大丈夫だよ?と言ってくれた。

 俺は恭司とユニフェイを伴って、早速観光に繰り出すことにした。

 チムチは人間の国の中で、最も魔族の国に近く、高レベルの魔物や、魔法使いが多く誕生する国だと言われた。

 それが指し示す通り、魔石が豊富なのだろう、今まで見た中では、最も都市が発展していた。

 街灯もたくさんあって、夜でも普通に歩けるくらいだったし、背の高い建物があんまりないってだけで、ちょっとした地方の田舎くらいの印象だ。

 24時間やってる店も多く、トイレや風呂の排水が他の国と変わらない点を除けば、一見現代で外国に旅行に来たのと変わらなかった。

 俺は昨日行った店でアダムさんが食べさせてくれた、ゾラッカの蜜とナッツをかためた飴を売っている店を見つけて、大量に買い込んでアイテムボックスにしまった。


 ちなみにアイテムボックスは、アプリティオの囚人に、なんとレベル10を持ってる奴がいて、今はほぼ無限にアイテムが入るようになっていた。

 お金はアシルさんにお願いして、ニナンガ王国の通貨を、この国の通貨に両替して貰ってあるので、自分のお金で楽しく買い物が出来るのだ。

 買い食いしながら城下町を見て回る。割と観光客も多いらしく、この国の人たちは、みんな腰に布を巻いて、縛られた片側が右の腰から垂れ下がっている服を着てるけど、そうじゃない人も多くて、大抵が店をいくつも回って大荷物を抱えていた。

 俺はトイレに行きたくなって、お店の人に頼んだけれど、どこも貸してくれなかった。

 公衆トイレなんてものは、この世界のどこにもなかった。こういう公共設備が充実してないところも、この世界の発展度合いの低さを示していた。

 レストランに入るか、ホテルや宿に帰る以外には、この世界の旅人や冒険者たちが、ちゃんとしたトイレに行く方法がないのだ。

 俺は仕方なしに、外ですることにした。恭司にそれを告げて、適当なところを探しに2人から離れた。

 俺は木の下で、せめて養分になるようにと用を足し、さて息子をしまおうとした瞬間、突然目の前が真っ暗になったかと思うと、気が付けば草むらの上に倒れていて、恭司に唇を奪われていた。


 恭司?なんで恭司?

 それも今のフェニックスの姿なんかじゃない、転生前の人間の恭司だ。

 俺が身動きしたのを見て、恭司がニヤリとしながら俺から体を起こした。

 な、なんだこれ。

 力が入らない。

 体が熱くて、勝手に涙が滲む。

 かじろうて意識のみで動かせるステータスボードを開いてみたら、殆どのスキルが薄い灰色に変わって、一切の魔法が使えなくなっており、状態異常(誘惑)、の文字がそこに刻まれていた。

 状態異常(誘惑)!

 目の前の恭司にしか見えないこいつは、誘惑のスキル持ちなのだ。

 つまり今の俺は媚薬を飲まされたエンリツィオと変わらないことになる。濃度の違いはあれど、こんな状態からよく動けたものだ。

 恭司だけど、恭司じゃない。あいつと同じ金髪だけど、脱色してた恭司と違って、多分あれ、地毛だ。


 チムチの地元の人のような、腰に巻いた布の、縛られた片側が右の腰から垂れ下がっている服を着て、薄茶色の肩掛けカバンを斜めがけしている。

 恭司(?)はニヤニヤしながら、俺の目の前で下履きをしめていた長い腰布を外しだすと、目の前にボロンと起立したそれを見せつけた。

 ……恭司だ。こんなところまで恭司だ。

 こんな部分で実感したくもなかったが、何度も恭司と、同時にイこうチャレンジとか、天井に向けて飛ばしっこだとかをした俺には分かる。膨張後の形やサイズ感、色合いまでもが恭司だった。

「お前、観光客か?

 見かけない顔だな。

 残念だけど、この国にいる限り、この国の法律に従って貰うぜ?

 この国じゃ、1度抱いた相手は、強制的に自分のものに出来るんだ。

 つまり、お前はもうすぐ、俺のものってこと。」

 そう言って、抵抗出来ない俺の下履きを、下着まで全部脱がす。声からナニから、すべてが恭司だった。


 日本でも、つい数十年前までそんな地域がゴロゴロあったらしいけど、この国はそんな国なのか?人権なんてあったもんじゃない。

 けど、俺は男だ。女の子みたいに濡れるわけじゃない。無理やり入れようとすれば、あっちだって痛いだけだ。

 そう思っていたのに、恭司(?)は肩掛けカバンから、透明な液体の入った大容量の瓶をとりだすと、手のひらにその中身をドロッとぶちまけた。

 大容量オトク用ローション!?

 イヤアアアァア!!準備がいいのイヤアアアァア!!

 恭司(?)は俺が動けないのをいいことに愛撫を開始する。気持ち悪い。何が気持ち悪いって、喉から漏れた甘い声が、俺の声だってことだ。

 これが誘惑の力なのか?俺の体はしっかり恭司(?)の手に反応してしまっていた。

 だ、誰か助けて……。このままでは俺は、親友に似た男によって、オンナノコにされてしまう……!!


 その時、俺の上に覆いかぶさっていた恭司(?)の体がビタッと止まる。

「……てめえ……何俺の見た目で、俺のダチに手え出してんだ。

 気持ち悪りぃこと、──してくれてんじゃねえよ。」

 恭司(本物)だ!

 フクロウの姿で羽ばたきながら、自分そっくりな恭司(?)を睨み、ドスのきいた声で威嚇した。おそらくパラライザーを放ったのだろう。

「きょ、きょほじぃ……。助けて……。」

「何情けねえ声出してんだ。

 ……みっともねえメスのトロ顔してんぞ、お前。」

「ユ、ユニフェイ、ユニフェイを……。」

「あん?江野沢?江野沢を連れてくりゃいいんだな!?」

 そう言って恭司は羽ばたいて行った。

 江野沢にこんなところを見られたくなんてないし、ユニフェイを江野沢と呼ぶのすら、はばかられたが、背に腹は代えられない。


 すぐに恭司はユニフェイとともにやって来て、ユニフェイが聖魔法で俺の状態異常を解除してくれた。

 慌てて下履きを履き直す。ユニフェイは恭司(?)に唸り声を上げて、俺の前に立ち塞がった。

「なんだこいつら、邪魔しやがって。お前の従魔か?

 こいつはもう、俺のもんって決めたんだ。

 やるってんなら相手になるぜ?」

 完勃ちしたそれをしまいにくそうにしながら、下履きを履いて恭司(?)が言う。

 その時、後ろから大人2人が恭司(?)に駆け寄って来る。

「急にいなくなられるのはおやめください、心配いたしましたよ?」

 恭司(?)の従者か何かか?

 そういや着てる服の素材もいいし、いいとこの子なのかも知れない。

「なんだてめえら、こいつの仲間か?」

「ア、アスタロト様と同じ声!?」

「なんだこのフクロウ、魔物か?」

「お、俺って、こんな声なのか?」

 アスタロトと呼ばれた恭司のそっくりさんは、恭司の声が自分と同じと言われて困惑している。


 自分で自分の声を聞くとそうだよな。俺も動画にうつった自分の声に、いまだに慣れないもん。

「いきなり誘惑を使ってきて、俺のことを襲って来たんです。

 俺の従魔が解除してくれて助かりましたけど……。

 あなた方のお連れの方であれば、引き取って貰えませんか?」

 俺はアスタロトの従者たちにそう言った。

「アスタロト様、よそからの観光客の方に、そんなことをなさったんですか?」

「いくらなんでも、自由奔放が過ぎますよ!

 ──大変申し訳ございませんでした。

 このお詫びは改めてさせていただきたいのですが、宿を教えていただけませんでしょうか?」

「いえ、結構です。

 引き取っていただければ、じゅうぶんなんで。」

 アスタロトの従者は、何度も振り返って頭を下げながら、アスタロトを連れて去って行った。


「あ!!」

 俺は思わず大きな声をあげる。

「なんだよ?」

「しまった、あいつがどこの誰なのか、聞いておけば良かった。

 あいつがいなくなれば、恭司も元に戻せるかも知れねえのに……。」

 この世界では、同じ姿の人間が存在していると、勇者召喚で呼ばれた人間は、人の姿を保つことが出来ない。

 恭司がフェニックスで転生した理由が、おそらく、さっきのあいつなのだ。

「──ただの一般人を、お前に殺させねえっつったろうがよ。

 いいんだ、俺は。

 あいつが寿命で死ぬのを待つさ。」

「恭司……。」

「それに、ヤクリディア王女は江野沢と真逆みてえな性格してたが、あいつはなんていうか、俺そのものみてえな感じだったろ?

 ただ、性欲の対象が、女じゃなく……お前……ってだけでよ。」

 恭司はお前、の部分を言いづらそうにゴニョゴニョと小声で言った。


 それもそうだろう。俺が戻るのが遅いと迎えに来てみれば、自分そっくりの奴が、今まさにおっ始めようと親友を押し倒していた場面を見てしまったのだから。

 俺も丸出し。向こうも丸出し。言い逃れのしようもないくらい、完全な真っ最中だ。

 俺が恭司と立場が逆でも、同じ気持ちになっただろう。相手が知らない奴なら、単に相手をボコボコにして終わりだが、自分と同じ姿形だった場合、そこに別の気持ちの悪さが加わってくる。

 俺と恭司は、同時に寒気がして身震いをした。

 気分がのらなくなってしまった俺たちは、観光を切り上げて宿泊先のホテルに戻ると、恭司とともに大浴場とサウナを堪能した。

 さすがに恭司は羽毛があるので、無理だと言って、サウナには入らなかったが。

 サウナはこの国の文化の1つで、大人も子どももみんな入る。自宅に構えている人も多く、ご近所さんのお互いの家のサウナに入って裸の付き合いをするのが、大事な交流の1つとなっているらしい。

 俺たちだけでホテルのレストランで夕食を食べ、部屋でゾラッカの蜜とナッツをかためた飴を食べながら、恭司とお喋りしてから眠りについた。

 寝ようとしたら、ユニフェイがくぅーんと鳴きながらベッドに潜り込んで来た為、拒絶も出来ずに受け入れはしたものの、俺はなかなか眠りにつけなかった。


 翌朝ホテルの朝食を取りにレストランに行くと、何やらまたエンリツィオとアシルさんが揉めていた。

「大人は全員パートナー同伴ってことになってるんだからね。

 下手に見繕うよりも、これが一番安全でしょ?

 ──いいから、僕を守れ。

 君は最悪、彼とも付き合ってたんだからいいだろうけど、僕は奥さんがいるんだから、万が一にもそんな目に合うわけにはいかないの!」

 そんな目ってなんだ。

 食事を終えたら正装させられた。エルフの国に行く為の許可を得るためだけなのに、国王に謁見することになっているらしい。

 アダムさんとカールさんが護衛につくのだから、俺は行かなくてもよさそうなものなのだが、チムチ王宮のご飯美味しいよ?と言われてそのままついて行くことにした。

 王宮に行くと、そこにはたくさんの人々であふれ、思い思いにパーティーを楽しんでいるようだった。


 中に入る瞬間、アシルさんはエンリツィオの、護衛のカールさんはアダムさんの腕に腕を絡め、まるで男が女をエスコートする時のようにして中に入っていく。

 ──ん?

 国王が来るまで、楽しんでて、とアシルさんに言われて、美味しそうな料理に舌鼓をうっていると、突然見知らぬヒゲをはやした屈強な男性に声をかけられる。

 まるでライオンのたてがみのような豊かな茶色のヒゲに、優しい目を携えたその人は、楽しんでらっしゃいますか?と俺に聞いた。

「はあ……、まあ……。」

「これは私が作ったものです、大分お気に召していただけたようで嬉しい限りです。」

 ミッフィーさんと名乗った彼は──ライオンなのにウサギかよ──この国の宮廷料理人だった。

 他の人たちがダンスを楽しむ中で、モリモリ料理を口に運ぶ外国人の俺を見て、嬉しくなって声をかけたらしい。


「お1人ですか?」

「いえ、連れがいます。」

「パートナーの方ですか?」

 ミッフィーさんは露骨にがっかりしたような表情で俺に言う。

「いえ、単に連れです。

 あそこで話しているのがそうです。」

 俺は離れたところで話している、エンリツィオとアシルさんを指さした。

「では、今夜のパートナーはお決まりではないと?」

 ダンスって意味なら、まあ、そうだな。

「まあ、そうですね。」

「これは嬉しい。

 では、ぜひ、……あなたと夜を過ごす光栄を、私にいただけませんか?」

 そう言って、ミッフィーさんは、俺の右手を取って、女性にするみたいに、恭しく口付けた。

 ?????

「俺……男ですけど。」

「はい、だからお誘いしています。」

 俺はここで初めて気が付いた。女性もたくさんいるけれど、テラスで肩を寄せ合っているのは男性同士で、男女のカップルが見当たらないことに。


「こ、今夜って、えと、その……。──そういう……?」

「あなたの為に、最高の部屋をお取りいたしますよ。」

 だあああああ!!

 アダムさんの言っていた、すぐ分かる特徴的な国って、そういうことか!

 ようするに、パートナーがいる男性には声をかけないのだ。しかも無理やりでもモノにしてしまえば、自分のモノに出来るという法律のある国。

 だからアシルさんは、エンリツィオをパートナーとすることで、自分の身を護ろうとしてたのだ!

 アダムさんとカールさんも、それが分かっていたからあんな風に城に入ったのだ。

 この国に嫌な思い出しかないってのは、てっきり両腕を切り落とされたことかと思っていたけど、ひょっとしたらこっち関係という可能性だってあるわけだ。

 ちょっと!俺はどうすんだよ!

「あああああ、あの!俺!ま、まだ未成年なんで!」

「──失礼ですが、おいくつですか?」

「16です。」

「大変失礼しました。

 背が高くてしっかりとした体つきをしていらしたので、てっきり成人されているとばかり……。

 未成年では仕方がないですね。

 このあと出てくる料理が、私の一番の自慢の一品です。

 ぜひパーティを楽しんでらして下さい。」


 そう言って微笑むと、ミッフィーさんは奥に戻っていった。

 大人が未成年に手出し出来ないのは、この国でも同じらしい。だから大人はパートナー必須でも子どもの俺には必要なかったのか。

 ミッフィーさんがいい人で良かった……、と、俺がほっと息をついていると、

「──そうそう、未成年は、未成年同士、ってね。」

 そう言って、正装した姿で、ニヤついたアスタロトが俺の目の前に立っていた。

「お、お、お、お前!?」

「よう、また会ったな。

 今夜は逃さねえぜ。

 俺のもんになる覚悟を決めときな?」

 そう言ってにじり寄って来て、俺は思わず身をすくめた。その時、何かの鳴り物が鳴らされて、みんなの視線が中央へと集まる。

「──国王陛下、女王陛下のおなりです。

 みな様盛大な拍手でお出迎え下さい。」

 剣を携えた兵士が両側に立っている中央があいていて、そこに赤い絨毯の敷かれた階段があり、割れんばかりの拍手の中、チムチの国王と女王陛下が階段を降りて来る。

 そして広い段差に置かれた椅子のある場所で立ち止まると、

「──何をしている。

 こっちに来なさい。」

 と、国王陛下に声をかけられたアスタロトが、やんちゃに階段を駆け上がる。

 中央に国王陛下、右隣りに女王陛下、……そして、国王の左隣りに、アスタロトが腰掛けた。

「チムチの国王陛下、並びに女王陛下、王子殿下のアスタロト様にございます。」

 お前が王子かよおおおぉ!!

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