第40話 ネクロマンサーのドロップ品

「──そうだ、情報じゃねんだけと、もし知ってることがあれば、教えて欲しいモンがもう1つあんだ。」

「なんだ?」

「これなんだけど。」

 俺はアイテムボックスから、黒紫色に光る球体を取り出して、エンリツィオの机の上に置いた。

 これはネクロマンサーからドロップしたもので、使い方が分からないまま、拾って取っておいた物だ。

 ダンジョンのレアボスからのドロップ品だ。何かに使える物ではある筈なのだが、使用用途が分からない。


 剥ぎ取り素材と違い、ダンジョンの魔物からドロップする物は、杖とか剣のような、主に装備品であることが多いので、これもそういった使い方をするのだとは思うのだが。

 ネクロマンサーを倒した後、ナルガラに連れて来られ、バタバタとニナンガに戻って来てしまったので、冒険者ギルドに確認している暇がなかったのだ。

 知ってればラッキーくらいの軽い気持ちでそれを見せた。


「ほーお?

 メモリーオーブじゃねえか。

 俺も持ってるぜ?」

 そう言うと、机の引き出しから、似たような黒紫色に光る球体を取り出して、並べて置いた。

 エンリツィオがネクロマンサーを倒したのでなければ、普通に流通してる程度のレアさという事か。

「それなりに値のはるモンだが、よく手に入ったな?

 この国じゃ滅多に湧くことのない、ネクロマンサーからしかドロップしねえモンだぜ?

 ニナンガの普通の冒険者は、一生魔物を狩っても、まず手にするこたあねえ。」

 そうでもなかった。


「これはこうやって使うんだ。」

 そう言うと、手をかざし、何かを念じる。

 するとそれは本の形へと変った。

「こいつは念じるだけで、頭に思ったことを書きとめておけるマジックアイテムだ。

 直接手に持たなくても、近いところにあればいい。

 ただのメモ書き用のノートみてえなモンだが、こいつの優れているところは、書かれた事を所有者しか見ることが出来ねえ点だ。

 ──誰かに見せる訳にはいかねえ、組織の帳簿とかな?」

 エンリツィオがニヤリと笑う。

 うわ〜、絶対見たくねえ……。


「人について書けば、そいつ自身と、ワードについて検索出来る索引機能もある。

 例えば俺が部下について何か書いてりゃあ、そいつについて書いたことを検索出来るし、俺にしか見えない光が、連動してソイツ自身に灯る。

 書いたことの順番も、並べ替えや項目分けが可能だ。

 誰かに奪われても、最初に所有者登録しちまえば、誰も中身が何であるか知ることが出来ねえ。

 まだ所有者登録してねえなら、やり方を教えるか?」


「ああ、助かるよ。」

 書いた順番の並べ替え機能や、書いた対象を検索したら、相手が見えない光で光るというのが有り難い。これでアンデッドに付与したスキルの管理が楽になる。

 これ、地味に便利だぞ。

「指を出しな。」

 そう言って、エンリツィオが机から小さな折りたたみ式のナイフを取り出すと、俺に左手を差し出した。

 あ、やっぱり血とか使うんだな……。


 エンリツィオが俺の右手を掴むと、ほんの少し、ナイフの先端で指を傷付ける。指先に滲んだ血を、俺のメモリーオーブに付けると、オーブが少し光った。

「これで登録完了だ。開いてみな。

 メモリーオーブに触らなくていい。

 手をかざして念じるだけだ。

 何ならメモリーオーブが目の前になくてもいい。

 メモリーオーブの本体は、サーバーみたいなモンだ。所有者登録した時点で、オマエの記憶と連動してる。」


 俺は本をイメージしながら手を前にかざして念じた。

 何も書かれていない本が、開かれた状態で目の前に出現した。

 試しにエンリツィオとアシルさんについて書く。そしてアシルさんを検索すると、紙の上のアシルさんの項目と、アシルさん自体が、薄く白い光をまとった。

「こいつはイメージの具現化に過ぎねえ。

 本が傷付けられても、メモリーオーブ本体が壊れねえ限り、何度でも復活可能だ。

 アイテムボックスがあるみてえだし、普段はそこに入れときな。」


 俺は頷いてメモリーオーブをアイテムボックスにしまい、本を消した。

「……それで?

 スキルを集めてる途中と言ったな。

 これからどうするつもりだ?」

「王宮に行って、元クラスメートたちと、魔法師団からスキルを奪う。

 ──それが終われば、もうスキルが奪えることを知られたって構わない。

 あいつらを丸裸にしてやることが、俺の復讐なんだ。」

「ジュリアンから魔法スキルを奪うってのか!?こいつはケッサクだ!」

 エンリツィオがゲラゲラと笑い出す。


「──アイツはあれでもレベル7の水魔法使いだ。勝算はあんだろうな。」

「もちろん。」

 俺はエンリツィオから目線をそらさずに見据えた。俺を探るように、エンリツィオが真顔で俺を見つめる。

「……部下を貸すか?」

「いや、いい。

 お前とあいつらの戦いのコマになっちまう。

 俺に負けても、悔しがる相手がお前になるんじゃ意味がねえ。

 ──これは俺の復讐だ。」

「……そうだな。

 余計なことを言った。」

 エンリツィオは穏やかに微笑んだ。


「鑑定を手に入れたら、狙ったスキルに限定して集めるつもりだけど、そっちは何か、欲しいスキルとかあんのか?

 こないだ剣聖なんてのを持ってる奴もいたけど。」

「いや。欲しいのは魔法スキルだけだ。

 他は買い手を探してやってもいいが、多分、あんま売れねえぜ?

 魔法は、剣士や弓使いでも、そうでなくとも、欲しがる奴は多いが、魔法使いで剣士や弓使いになりたがる奴はいねえからな。

 職業スキルなんかは、特殊なモンを除いて、本人のレベルが関係するから、魔法みたいにいきなり高レベルのモンが使えるわけでもねえしな。

 まあ確かに、剣聖は欲しい奴もいるだろうが、多分王宮勤めとか、まともに働いてる奴らだろうしな。

 何でも手に入ると分かりゃ、努力しないで上に行きたい奴とかが、向こうからアクションして来ねえとは言えねえが。」


 なるほど。俺が必要とするスキルが、大抵の人からも必要とされるスキルって訳か。

 鑑定を手に入れる前にスキルを手に入れるチャンスがあったら、必要だと思ったスキルを全部奪えば、それがエンリツィオの求めるスキル、かつ、売れるスキルと言う訳だ。

「それで?服は持って行くのか?」

 そう言えば、対魔法加工を施した服を用意してくれてたんだっけ。

「──貰うよ。

 アンタとはもう、協定を組んだから。」

「隣の部屋で着替えて来な。

 サイズは合うと思うが、不都合があれば直させる。」


 俺はアシルさんに案内され、隣の部屋で服を着替えた。

「──似合ってんじゃねえか。」

 真っ黒で、裾の長い上着とロングパンツ。

 ナルガラの魔法使いたちが着ていたタイプに似ていて、前の部分は末広がりに裾が広がっている。

「別に何色でも良かったんだが、何となくオマエのイメージで黒にした。

 変えたきゃ作り直させるぜ?」

「いや、黒がいい。

 ありがたく貰うよ。」

 俺は事が終わったらまた来ると告げ、エンリツィオの城を出た。

 準備は整った。

 帰ったら恭司と、現ニナンガ城襲撃の作戦会議だ。

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