第26話 謎のパーティー
「ああ〜〜退屈だ〜〜何が退屈って女がいねえ。」
恭司はぐったりと甲板に寝そべりながら愚痴をこぼす。
同じように甲板に寝そべって寛いでいるユニフェイと、まったく同じポーズに見えるのが薄っすら笑えてくる。
「こっちに来るまで、普段だって俺と二人きりで、別に女なんていなかったじゃねえか。」
「学校に行きゃ女の子たちに会えただろ?せいぜい会えなくて2日じゃねーか!
こう何日も、よりによってムサイ男ばっかに囲まれて、生活することなんてなかったろーが!」
まあ確かにな。
討伐部隊も船の船員も、力自慢の男性ばかりだ。一人くらいは女性がいてもおかしくなかったが、今回は何故か男性だけ。恭司にとって面白くない環境には違いなかった。
俺も恭司程ではないが、流石にまったく女性のいない環境が楽しめるかと言われたら、せめて同年代の男ばかりならそれも楽しいが、恭司以外10歳以上年上ともなると、会話もままならず、気を使って疲れると感じていた。
「あーあ、ついて来るんじゃなかったぜ。」
「お前なー。」
「そんなことより、お前は作戦会議に加わらなくていいのかよ?
討伐部隊は、今下で集まって会議してんだろ?」
「あー。サンディの親父さん曰く、メインで討伐するのは討伐部隊で、俺は乗せる理由を上に申告する為に、一応討伐に参加の形を取るだけらしいから。
まあ、サンディを救った礼で乗せてくれた訳だしな。
参加したところで、俺の意見が通るわけでもねえし。だから何の魔物が出てくるのかも、なーんも知らん。」
「マジか。楽だな。」
「──匡宏さん。」
高い声がして振り返る。
「おう、チェンジェじゃねえか。」
前髪パッツンボブカットの、船員の制服を着た可愛らしい子が、笑顔で手を上げている。恭司は羽ばたいてチェンジェの肩にとまる。
「可愛いですねえ、キョーちゃん。」
チェンジェが恭司の頭を撫でる。
「食事にしましょうと船長が。食堂までお越し下さい。」
「分かりました、ありがとうございます。」
チェンジェは他の乗組員にも声をかけて回っていた。
「……あーあ、チェンジェが女だったらなあ。
色が白くて小さな肩で、抱き締めたら折れちまいそうな程華奢で、遠目には美少女と見紛う見た目なのに、何で余計なもんがぶら下がってんだよ。」
そこに関してはまったくの同感だ。
初めて船に乗り込んで紹介を受けた時、俺たちは二人とも、とんでもない美少女がいたと盛り上がったのだが、後から乗組員が全員男と聞かされ、絶望したのだった。
「やべえ……。そろそろ女成分を補給しねえと、チェンジェでもいいかってなってきてる。
というか、女だったら熟女でもいい。」
「──山奥の全寮制の男子校かよ。」
俺は呆れた顔で突っ込む。
そう言えば、男に撫でられるのが嫌と言っていた癖に、チェンジェには素直に撫でられてたなコイツ。
「馬鹿なこと言ってねえで早く行こうぜ。
飯が冷めちまう。」
俺は恭司の首根っこを猫のように摘んで、騒ぐ恭司とユニフェイと共に、食堂へと向かった。
食堂には討伐部隊が全員集まっていた。
タンク、雷魔法使いが3人、土魔法使いが2人。弓兵が3人。剣士や槍使いなどの近接が一切いない不思議なパーティー構成。
海上の敵は遠距離の方が有利とはいえ、甲板に上がって来られたら、魔法で甲板を傷付ける可能性を考えると、近接もいたほうがいいと思うのだが。
特によく分からないのが土魔法使いだ。聖魔法使い、回復魔法使いについで、数の少ない土魔法使いが2人もいる。
リーダーの雷魔法使いがレベル6、あとは全員レベル5。このレベルを複数人揃えるとなると、間違いなくハイクラスの魔物に対峙しようとしている。
雷属性に弱いのは当然水属性の敵だ。海にいる魔物は大概水属性なので、これは不思議じゃないのだが、土属性が弱点の敵など海にいただろうか。
と言うか、土魔法使いなんて、元クラスメートの野見山以外、まだ出会ったことがなかった。土魔法好きとしては、ちょっと話してみたい存在である。
海上戦は魔法使いでも近接でも、慣れた人間でないと実力の半分も出せないと聞く。特に近接は足の踏ん張りが効かないので、普段と別の戦い方を余儀なくされるのだ。
近接が今回パーティーに加わっていない理由はそんなことではないと思うが、俺は海上での戦闘経験と、コツについて聞きたくなった。
「──皆さんは、海上戦は何度もやられているんですか?」
静かに黙々と料理を口にしていたメンバーは、すぐには答えず、一瞬の沈黙が流れた。沈黙を破ったのは、土魔法使いの襟足が少し長い方の男だった。
「僕は初めてだけど、隣の彼は何度か経験してると聞いてるよ。バロスさんは、海上経験が豊富と伺いましたが、主にどんな魔物と対峙してこられたんですか?」
どうやら国が用意した即席パーティーらしく、話すきかっかけを探っていたようだ。俺の質問に返す刀で、バロスと呼ばれた雷魔法レベル6のリーダーに話しかける。
「……この国は今まであまり海で強い魔物に遭遇するという事がなかったからな。せいぜいシーサーペントや、アスピドケロンの幼体くらいだ。」
「アスピドケロン!幼体でもデカそうですね!」
「さすがに成体は無理だがな。」
……オイオイ、そんなのが出るのかよ。
シーサーペントは蛇とドラゴンのあいの子みたいな魔物で、サイズはまちまちだが、そっと近付き知らない間に船体に穴をあけられることも多い。
シーサーペントは海の魔物の中では珍しく雷属性だ。このメンツということは、対象はシーサーペントではないらしい。
アスピドケロンは亀に似た魔物で、デカいものはちょっとした島サイズだ。島だと思って上陸したらアスピドケロンで、急に潜られて溺死、なんてのはよく聞く話だ。
アスピドケロンは普通に水属性なので、これも恐らく今回の討伐対象じゃない。
島サイズのアスピドケロンなんて、恭司のレベル7雷魔法ですら、倒せるか分からない。
ただ幼体が出るということは、成体もどこかにいると言う事だ。頼むから出てくれるなよ、今回の目的とは違うんだ、と祈りながら、俺は楽で安全だと舐めていたこの船旅が、実は全然そうじゃないんじゃないかということに気付き始め、足元の板一枚下は、深い海の底だということに、初めて恐怖を感じた。
それを、横で自分専用の料理を準備して貰って突いていた恭司にボソッというと、なるようにしかならねえだろ?心配性だな、と返された。
いいよな、飛べる奴は気楽で。
それにしても、一体このパーティーメンツで、どんな魔物を退治するってんだ?
食事が終わり、長い船旅でなまった体を少しでも動かす為、俺は恭司とユニフェイを連れて、船内を散策していた。
この船はデカい。しかも船首に氷を砕く機能を備えた砕氷船だ。討伐部隊に対して乗組員の数も多い。
だからと言って外がめっちゃ寒いというような事はない。むしろ眠たくなるような麗らかな陽気だ。
なのに何故か海は凍っている。氷は冷たい。ちゃんと冷たい。ただし表面は冷たくなく、水面下は表面の冷気すらも集めたかのような、魔力を伴う氷なのだ。
この氷水の中に落ちれば、一瞬で心臓が止まるという、おっかない氷の海。
この氷の海を生み出せるような、見たことも聞いたこともないような魔物が出るのかと思ったが、そういうことではなく、魔力の集まる特殊なエリアだからこそ、そこを住みやすいと感じる魔物が集まってくるらしい。
元々そういうエリアなので、魔物と人間の棲み分けが何となくされていて、貿易の為の砕氷船が海を渡っても、長年何の問題も起きなかった。
むしろ魔物が見れたらラッキーくらいの感覚で、まるでイルカツアーのように、魔物を見ようツアーまであって、ナルガラの貴重な観光スポットだった。
元々魔物といっても、レッドグリーフなどのように、動物や魚に近いタイプは、突然湧いて出るというよりも、自ら子を産んで増やすことが多い。
アンデットのように倒すと消えて、剥ぎ取りも出来ないタイプは、湧くことでしか発生しない。
代わりにドロップ品などのアイテムを落とす。主にダンジョンにいる敵がそれに当たる。
海の魔物は魚に近い性質を持つ為、当然卵を生むのだが、魚は動物に比べ、一度に生む量が多いように、彼らも一度に生む量が多い。
だが魚は稚魚が孵化したあと、すぐに殆どが外敵に食べられて数を減らすのに対し、魔物は幼体の段階でもある程度強い。だからその分数年〜百年単位でしか卵を産まない。
長く生きている人は一生に一度は異常発生に遭遇するのだが、なんの事はない、ただその時が産卵年だっただけである。
それがここ最近、魔王が攻めてきた関係からか、このエリアの魔物が活発化し始めた。
……ようするに、発情期でもないのに、めちゃめちゃエッチし始めたのである。
親は卵が孵化するまで、自分たち以外が近付くのを拒み凶暴化する。
どこかの年には必ずあることなので、今までは落ち着くのを待って通っていたが、活性化のせいで、いつまで経っても産卵が終わらない。
だから船が襲われ通れないと言うわけだ。流石に減らす必要を感じ、ついに国が動いたのが今回の討伐である。
だが氷の海を進めど進めど魔物が現れない。このままニナンガについちまうんじゃね?と思った矢先だった。
通路の先で、討伐部隊のリーダー、バロスがチェンジェの手首を掴んで無理やり捻り上げながら、何やら揉めているのが見える。
チェンジェは涙目になりながらバロスを振り払おうとするも、力の差は歴然で、チェンジェの見たも相まって、まるで女の子が襲われているかのように見える。
「おい、あいつチェンジェを無理やり脱がそうとしてねえか!?」
恭司が驚いて叫ぶ。
オイオイ、穏やかじゃねえなあ。
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