第16話 ダンジョンの洗礼
俺たちは朝早くから冒険者ギルドの前で待ち合わせた。初めてのダンジョンに俺はワクワクしていたが、ガッツたちは浮かない顔をしている。
「──どうかしたんですか?」
俺は首を傾げて訪ねた。
「実は昨日先にダンジョンに潜った奴らが、かなりの数帰ってきていないんだ。」
「ひょっとしたら相当レベルの高いダンジョンなのかも知れない。
無理をするのはよくないからな。
ある程度潜って厳しそうなら、撤退も視野に入れる。
命は一つだからな。」
この世界には、ダンジョンのレベルを事前に冒険者ギルドが調べるといったことがない。依頼があれば募集をかけて冒険者に調べて貰うが、湧いたばかりのダンジョンにそれを依頼する人はいない。
通常は放っておけば消えるのだ。わざわざ中に入る物好きは冒険者たちだけなので、調べる必要性がない。だから誰かが入ってみるまで魔物の種類もレベルも分からない。
今回はスタンピードの危険があるので、王宮の依頼で調べているかと思ったが、王宮からも距離のあるこの場所に魔物が溢れたとしても、その時対処すればよいという考えなのだそうだ。
だからギルド職員があんなにピリピリしていたのだ。いつ起こるかも分からないスタンピードに怯えながら、職務を全うしなくてはならないから。
なんつー王様だよ。俺は民主主義と、国民主権が懐かしくなった。
「分かりました。危険と判断したら、すぐに戻りましょう。」
そう言いつつも、俺は千里眼の力を使って、最短ルートでネクロマンサーまで到達するつもりでいた。まずは見てみないと話にならない。
俺はアイテムボックスレベル5に、ガッツたちの購入した持ち物を入れてダンジョンへと向かった。
ダンジョンの入り口は地下への階段のようだった。街から外れた草原の中に、ポツンと突如階段のある異様な光景。否が応でもここが異質な場所と分かる。
階段を降りると中はひんやりしていて生臭く、昼間だというのに暗かった。
「じゃあ、ユニフェイが魔物を探しますので、皆さんはそれに付いて来て下さい。」
ユニフェイ、タンク、俺、剣士、火魔法使いの順番で道を進む。思ったより道は広かったが、2人が並んで通るには少し狭い。
剣士とタンクは両手が武器でふさがっているので、俺とガッツがランプを持って足元を照らす。
俺はステータスを開いて千里眼にネクロマンサーをセットして検索した。
「ん?」
地図の縮尺が勝手に変わり、この辺りの地図が消える。代わりに俺たちの進んだ分だけ、道が地図として刻まれていった。
『はは、こいつはいい。ダンジョンの地図か。道を覚えなくていいのは楽だな。』
後ろで迷わないようにガッツが通る道に目印の傷をつけてくれていたが、俺は地図があるので気持ちの余裕があった。
「どっちだ……?」
道が二股に分かれた。ネクロマンサーは地図の右側を示している。
「こっちみたいです。」
俺がこっそりユニフェイに合図を送ると、ユニフェイは右側の道に進んだ。
「出たぞ!アンデットだ!」
2体のアンデットが道を塞ぐ。タンクが挑発のスキルを使う。俺は回復魔法を発動させた。後ろから剣士が飛び出して1体に攻撃をしかけた。もう1体にガッツの火魔法が飛ぶ。
「やったぞ!」
「思ったより手応えがないな。」
「まだ階層が低いしな。前の奴らが倒してから、そんなにわいてないのかも知れない。」
ちなみに魔物もダンジョンと同じで時間で復活する。初のダンジョンとしては拍子抜けするくらい魔物がいないが、その分進みが早くていい。経験値目当てだと美味しくないだろうが、俺の目的は一刻も早くネクロマンサーを見ることだから問題はない。
道を進むと、更に地下に進む階段がある。それを何度か繰り返し、5階分降りたところで、明らかに今までとは違った階段があった。通路よりも大分狭く、恐る恐る階段を降りる。
ユニフェイが唸り声を上げる。俺たちは顔を見合わせて頷き合った。階段を降りきらずに壁から顔を覗かせる。
そこは開けた広間のようなところだった。壁に火が灯り、明るくなっている。
そしてそこには20体程のアンデットがウロウロと一定の速度で動き回っていた。
俺たちが階段を降りて地面に足をつけた瞬間、それまで規則正しくウロウロしていたアンデットたちが、それを察知したかのように一斉にこちらを向いて襲いかかってきた。
「後ろへ!」
タンクが盾を構えて叫ぶ。火魔法使いと俺が後ろに隠れる。俺は回復魔法を発動させた。
「ユニフェイ!」
俺の声と共に、最も近付いてきていたアンデットにユニフェイが風魔法を放つ。1体がすり抜けてこちらに近付いた。
目の前のまで来たところでタンクが切り裂く。
「くらえ!」
遠くにいるアンデットにガッツが火魔法を放つ。アンデットは炎に包まれて崩れ落ちた。
剣士がアンデットの中に突撃して行く。援護するようにガッツの火魔法が左右のアンデットに連続で飛ぶ。
急なアンデットの動きの変化に一瞬心臓が縮まったが、戦闘が始まってみれば彼らも慣れたもので、落ち着いて1体ずつアンデットを倒していき、気付けばフロアを一掃していた。
「君の連れてる魔物凄いじゃないか!」
「風魔法が使えるなんて!
それにアンデットには威力が落ちる筈なのに、普通に倒してるぞ?」
まあ、レベル4だしなあ。
レベル4の威力が落ちても、レベル3以下が1レベル分火力が落ちるのと違って、元々が高レベル魔法になるので、1割程度しか火力が落ちない。
逆に言えば、レベルの高い魔法を使う際、それが弱点属性だった場合、レベルに応じて威力が倍増する。
風魔法が弱点の魔物に攻撃する場合、レベル4で1割増し、レベル5で2割増し、といったように。
そこに本人の知力と攻撃力が合わされば、それは足し算ではなく掛け算で威力が増していく。
レベル3の回復魔法でも戦力になるレベルでアンデットを倒せるのはそれが理由だ。回復魔法は回復そのものには攻撃力は当然乗らないが、対アンデットになった場合攻撃力が乗る分威力が増すのだ。
「しばらくわかないだろうし、一旦ここで休憩にしよう。」
タンクの言葉で俺はアイテムボックスから水と携帯食料を取り出し、皆が床に腰掛けた。
「──何階まであるんだろうな。」
「来る時に魔物が少なかったのもあるが、レベル的にみんなここまではこれた筈だ。」
「……あの、来る時に誰にも遭遇しなかったんですが、戻って来なかった皆さんは、まだ下にいるってことはないですか?」
俺の言葉に皆が俯く。死体がないのだから、生きてるにせよ、死んでいるにせよ、更に下にいる可能性があると思ったのだが。
「ダンジョンで死ぬと、ダンジョンに取り込まれるんだ。だから死体は出ない。」
俺の意図を察して剣士が答える。
「取り込まれる……?」
「ダンジョンの一部になるって言ったら分かりやすいかな、床や壁に吸収されて、取り込まれるんだ。だからその場で連れて戻る仲間がいない限り、次に誰かがダンジョンに入った時には、もうその死体はないんだ。」
掃除いらずの自浄作用といいたいところだが、この壁や床にも、死体が埋まっている可能性があるのか。
そう考えると食欲がなくなってくる。
「さあ、気を引き締めて行こう!まだまだ先は長いんだ!」
剣士が立ち上がり、俺たちは頷いて立ち上がった。
更に進むと、道が段々開けて来た。ネクロマンサーの位置は俺たちの進む方向を指している。
だが、おかしなことに、進めど近付いて来ない。位置が同じまま階層はまだ大分下のようだ。俺は地図に従いユニフェイを誘導した。
「行き止まり……?」
地図はこの下を指している。だが目の前にはアンデットと道のない洞窟の壁が広がっている。取り敢えずコイツらを倒して、他の道を探すしかない。
俺たちは2体のアンデットを倒して引き返そうとした。突然足元が光る。
「──魔法陣!?」
「しまった罠だ!」
まばゆい光に包まれて、俺たちは逃げる間もなく魔法陣に巻き込まれた。
ここに来た冒険者たちが帰って来ない理由が分かった。アンデットを倒すと発動する罠。強制転送魔法陣。そして今俺たちの目の前には。
「──ネ、ネクロマンサー、だと……。」
20体のアンデットを従えたネクロマンサーが、手に開いた書物を持ち、祭壇のような場所の前で、怪しく空中で揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます