第14話 ダンジョンの謎
翌日、俺はマッサンに向かう馬車に揺られていた。商人の馬車に乗せて貰えたのだ。
商人ギルドに紹介を頼んだところ、街に留まっている期間が短いと、商人ギルドから保証を出すことが出来ないとして、一度は断られてしまった。
対象者が安全であることを示す為の保証なので無理はないが、ちょうど隣街に行く馬車が近日あるというので俺は焦れた。
だが仕方なしに歩いて行くことを決め、明日ここを発つと鍛冶職人のところにいたニグナに挨拶しに行ったところ、祭司が隣街の祭司への用事を俺に頼んでくれたのだ。
大方スキル変更の場に立ち会った俺が、隣街で奇跡の伝聞をするのを狙っているのだろう。
俺以外の奴であれば、そんな奇跡を目の当たりにしたら、人に話したくて堪らなくなる。そうして頼まなくとも勝手に噂が広まっていく。祭司らしい回りくどいやり方だ。
初めて会った俺に頼むとは、余程広めたくて仕方がないらしい。まあ、伝えるかは分からんが。
かくして俺は最も信用される職業の一つ、祭司からのお墨付きという保証を得て、堂々と商人の馬車に乗ることが出来たのだった。
御者席では気のいいおっちゃん商人が直接手綱を操っていた。
俺の傍らでユニフェイが気持ちよさそうに眠っている。馬車の揺れと陽気な天気と退屈な景色に、俺もあくびが出そうになる。
同乗者は俺の他に2人。剣士と槍使いの冒険者だ。これは護衛も兼ねている。危険な夜を走る場合は、外を歩くか馬に乗って警護するが、昼間は強盗にだけ気を付ければいいので、現れた時に馬車から降りても全然間に合う。
何せ隠れるところの少ない平原なのだ。大勢で一気に襲うのは不可能だ。出て来てせいぜい2〜3人、この人数でも全然対処出来る。
これが山中を移動するともなると、山賊が出るので必ず外を護衛しなくてはならないし、もっと大勢人数も必要になってくる。
俺は眠気覚ましと情報収集を兼ねて冒険者2人とダベっていた。
「ダンジョン?」
「ああ、マッサンにダンジョンが現れたって言うんだ。俺たちはそれ目当てなのさ。」
強い魔物の少ないこの地域において、ダンジョンは冒険者が最も経験値が稼げる場所だ。
ただし固定で存在しない。基準は分からないが、一定時間そこに存在し、ある程度の時間が経つと消える。
それまでに脱出しないとダンジョンに取り残される。
消えたダンジョンの中に取り残された場合、いつかまた出られる日が来るのか、どこか別の場所に出られるのか、仕組みはまだ解明されていない。
「マッサンのダンジョンは、一晩経っても消えないって言うんだ。」
「それって普通のダンジョンと何が違うんだ?」
「──スタンピードだよ。」
スタンピード。元は動物の群れが暴走する現象のことで、TRPGではモンスターの群れが暴走することを指す。
ゲームなんかじゃ大体、ダンジョンから敵が溢れて来る現象をまとめてそう呼ぶ。
恐らくここでは後者を示している。
「マッサンの街に、魔物が溢れるかも知れないってこと?」
「それは分からないけど、一晩経っても消えないダンジョンはその可能性が高い。
だから近隣の冒険者たちは、マッサンに集まってるのさ。」
ひょっとすると千里眼で見えたネクロマンサーは、ダンジョンにいるのかも知れない。
「ねえ、この辺で、ダンジョンにネクロマンサーって湧いたりする?」
「ネクロマンサー!?
そんな凄いの、この辺りにいるわけないよ。」
「もしいたとしたら、ダンジョンボスクラスだな。
万が一マッサンのダンジョンにいたりなんかしたら、この辺りの冒険者は、誰一人太刀打ち出来ないよ。」
……いるんだよなあ、これが。
「もし万が一ネクロマンサーがいることが分かったら、王宮の兵士じゃないと対応は無理だな。
何せたくさんの魔物を従えてて、ネクロマンサー自体の魔法レベルが5だってんだから。」
「この辺りで魔法レベル5以上なんて、王宮の魔法師団くらいだよ。」
「回復魔法ならレベル3でもアンデットに有効だけど、自分の周辺の敵しか倒せないしな。」
「大挙して来られたら、魔力が尽きて終わりだよ。」
なる程。ネクロマンサーについて知りたい情報は大分集まった気がする。
マッサンに到着し、俺は彼らに別れを告げて、冒険者ギルドに足を運んだのだった。
冒険者ギルドは確かに人で溢れかえっていた。ダンジョン目当ての冒険者たちなのだろう。ダンジョンスタンピードを警戒してか、ギルドの職員たちも何だかピリピリしている。
俺は到着の挨拶を済ませ、宿を取りに急いだ。
……だが宿がない。当然だ。これだけの冒険者たちで溢れかえっているのだ。仕方なく先に祭司に頼まれた用事を済ませることにした。
マッサンの祭司はまだ見た目が若そうなのに、大分面長に見えるオデコをした、全体的に髪の薄い男だった。
ガザンの祭司が髪が長いのに清潔感があって、目が細めだが妙に女受けしそうな見た目なのに対し、窪んだ目とギョロリとした目付きは、なんだか骸骨みたいで、本当に聖職者なのか疑わしいくらいだ。
「ラグナス君の遣いだそうですね。」
ラグナス?ああ、ガザンの祭司のことか。
「彼とは同期なんです。元気にしてましたか?」
「ええ……まあ……。」
同期ってことは同い年か?見えんな。
「ここに書いてある奇跡に、君も立ち会ったとのことですが、本当ですか?」
やっぱりスキル変更の話か。
「はい、確かに、僕の友人のスキルが変わったのを確認しました。」
「信じられません……。このような奇跡が、僕でなく彼のところで起きるなど……。」
マッサンの祭司は親指の爪を噛みだした。
何か腹に一物あるみてえだな。
「祭司様はラグナス様がお嫌いなのですか?」
俺はあえて突いてみる。
「いえ、嫌いなどということはありませんよ。同じ神を信仰し、人々を導く仲間ですから。
ただ彼は、少し女性信者ばかり大切にするきらいがありますから、そこは改めたほうがよいと思いますね。」
ようするにだ、女にモテるラグナス様が面白くないってわけね。回りくどい言い方するもん同士、気が合ってんだから仲良くすりゃあいいのに。
モテない僻みは聖職者になっても消せないんだな。
ちょっと小綺麗な見た目の若い男が、聖職者の格好をしていたら、服装効果も相まって、女にチヤホヤされるであろうことは容易に想像がついた。
反対に絶対にどんな格好をしても女性に相手にされないであろう貧相な体付きでは、背も高いというオマケのついたラグナスを敵視するのも仕方がないかも知れない。
「奇跡が起きた際、あなたも近くにいらっしゃったんですよね?」
「はい、ええまあ……。」
「今日の宿はお決まりですか?」
「いえ、それが満杯で……。」
「よろしい。では、こちらにお泊り下さい。幸い部屋は空いています。
ご友人に起こった奇跡について、もう少しじっくりと聞かせていただけませんか?」
「こちらとしては有り難いですし、構いませんが。」
本当に助かったが、祭司の態度に何やら違和感を感じる。
「──祭司様!」
と、そこに、可愛らしい女の子が教会の扉から顔を覗かせた。
「ああ、ミンティ、丁度いいところに来ました。
あなたは確か、以前、変えられるものならスキルを変更出来ればいいのにと、おっしゃっていましたね。
ここにいる彼の友人が、先日その奇跡を神から賜ったそうです。
どうです?あなたも一度、神に祈ってみられませんか?」
コレ違うよね?俺を引き止めた理由多分絶対違うよね?
奇跡が起こる条件に、祭司と、スキル変更したい人間と、俺が揃った時に、同じことが起こるか確かめたいだけだよね?
まあそれ、正解だけどな。
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