第13話 千里眼の正体

「さあ、教会に行って祈ろうぜ。

 お前の本気を、神様に伝えるんだ。」

「う、うん、やってみるよ……!」

 俺はニグナと連れ立って教会に入った。

 礼拝日でなくとも、祈りを捧げたい人間や、懺悔をしたい人間の為に、いつでも開放されている。

 ニグナは誰もいない祭壇の前でしゃがみ込み、俺もその後ろで倣うように祈りのポーズをした。


「お願いです、神様、俺は、俺には夢があります、世界一の鍛冶職人になって、魔王を倒す剣を作りたい!

 必ずなってみせます!

 だから!

 俺を!

 鍛冶職人にして下さい!」

 祭壇には当然何の反応もない。

 俺は目を閉じて祈るニグナの後ろで、火魔法を、範囲を小さく、威力は高く練り上げ、土魔法で出した砂塵を熱した。


 バチッと、本当にごく僅かな音がして、小さな砂粒たちが強い火花を出して弾け消える。

 砂粒を直線に並べれば、グラインダーを使う時に出る火花に似ているかも知れない。

 万が一にも火事にならないよう、同時に水魔法で薄く包み込む。下は絨毯だしな。

 火花を出すなんて、雷魔法がありゃあ楽なんだが。

 とんだ茶番だが、奇跡を演出して、ニグナを納得させなくてはいけない。


 ニグナはハッと顔を上げてこちらを振り返った。

「今のって……。」

「うん、ひょっとしたら……。

 ニグナ、祭司様のところへ行こう!

 水晶で見て貰うんだ!」

 俺はニグナの手を引っ張り上げ、奥の間の祭司の元へと向かった。

 スキルを判定して貰いたい、という俺たちを祭司は優しく受け入れてくれた。


「あなたは……、先日スキル判定を行なった、養護施設のお子さんですね。

 確かあの時は……。」

 祭司は最近スキル判定を行なったばかりのニグナを覚えていた。

「はい、でも……。

 俺、どうしてもやりたい夢があって、いけないことだけど、神様に祈りました。

 俺の本気の夢を叶えて下さいって。

 そしたら神様が、反応して下さったんです。

 お願いです、もう一度、俺のスキルを判定して下さい!!!」


 祭司は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに優しい表情に戻り、

「神は残酷ではありません。

 敬虔で努力を惜しまない人間には、必ず手を差し伸べて下さいます。

 これで駄目でも諦めないこと。

 いつかあなたの努力が報われる日が必ず来ます。」

 いいこと言ってるっぽいけど、駄目でも納得しろよ、でも信仰は忘れんなよ、ってことか。上手いこと言うな。


「はい……。」

 ニグナはツバを飲み込みながら、祭司の差し出した水晶に手を当てた……。

「これは……。」

 祭司は驚いた表情で水晶を覗き込み、ニグナの顔と見比べた。もったいぶるなあ、結果はもう分かってんだけどな。

「こんな奇跡が……。

 あなたのスキルは、──鍛冶職人です。」

 ニグナの表情がぱあっと明るくなり、目に涙を浮かべている。

「や、やったよ、俺、俺……!」

 ニグナが俺に抱きついてくる。良かったな。お前のスキルを貰えたし、俺も嬉しい。俺は感謝を込めてニグナを抱き締め返した。いいことしたわ〜。


「──神はあなたの努力を見ていました。

 これに驕らず、与えられた人生を全うして下さい。決して、神への感謝を忘れぬよう。」

 供物を寄越せって言ってんのか?

「はい!ありがとうございます。

 毎週欠かさず祈りを捧げに来ます!」

 だってよ。あてが外れて祭司が一瞬眉を潜めたのを、俺は見逃さなかった。

 祭司の方から供物を寄越せなんて言えないのだ。それは卑しいことなので経典に反する。


 貧乏人は祈りを捧げ、金持ちは供物を捧げる。金持ちの少ない地域の教会は貧しい。

 祭司は教会から均等に分配された給料を、その役職レベルに応じて受け取るが、金以外の供物は、神に捧げた後で各自の教会のものになる。まあ、生物だしな。

 それをバザーで売ったりなんかして、生計を立てるのだ。

「祭司様、このような奇跡が起こったのであれば、きっと他の地域からも、信者が大勢集まって来ますね?」

 俺の言葉に祭司はハッとした。


 そうなのだ。神は一人だが、祭司の役職レベルがあるように、起こせる奇跡はそこにいる祭司の力量によって異なる。

 より神に愛された祭司の元では奇跡が起こる。これがこの世界の常識で、教会のトップの祭司の内の何人かは、死者すらも生き返らせる。まあ、スキルだと思うがな。

 ここに奇跡を求める信者が集まれば、教会が潤い、街が潤う。何もニグナから直接貰う必要はない。


「そうですね。神の奇跡は広く知られるべきことです。

 あなたがすぐに鍛冶職人として勤められるよう、私も計らいましょう。」

「ありがとうございます!」

 お前の鍛冶職人としての口利きをする時に、奇跡のことを親方に伝えて、噂を広めて貰う腹積もりなんだよ。まったく、お前は素直な奴だな。


 少しでも早く噂を広めたい祭司に連れられて、ニグナは鍛冶職人の親方の元へと向かうこととなった。

 俺はニグナと別れて宿に戻った。宿に戻ると、留守番させられていたユニフェイが嬉しそうに懐いてくる。

 ひとしきり撫でて可愛がった後、ステータスを開く。手に入れたスキルを早速試すつもりだった。


 ───────────────────

 国峰匡宏

 16歳

 男

 人間族

 レベル 19

 HP 4100

 MP 19800

 攻撃力 642

 防御力 523

 俊敏性 364

 知力 1143

 称号 異世界転生者 すべてを奪う者

 魔法 生活魔法レベル6 回復魔法レベル2 火魔法レベル3 風魔法レベル2 水魔法レベル2 土魔法レベル1

 スキル       テイマー(岳飛:フェンリルの幼体) アイテムボックスレベル1 調理 解体 再生 食材探知 索敵 採掘 強打 捕獲 騎乗戦闘 投擲 踊り子 狩猟 盗賊 栽培 売春婦 アイテムボックスレベル5 千里眼 隠密

 ───────────────────


 散々やり取りを繰り返したので、やはりレベルは上がっていた。ニグナを入れて25人分だもんな。

 俺は土魔法レベル1を改めてそっと撫でた。予定外だが素直に嬉しい。

 俺は千里眼に触れた。スキルに対する使い方や説明が見える。

 ただし俺が使ったような、火魔法と土魔法を混ぜて呪文にない効果を発動させたり、テイマーが魔物に遠距離からでも回復やバフスキルを使えることは、特殊な事柄なので説明欄にはない。

 あくまで使ってみた人間にしか分からないことも、スキルにはたくさん存在するのだ。


 火魔法と土魔法を混ぜて使ったのも、俺がイメージして勝手にやったことで、やれる保証があったわけではなかったが、科学を多少知っていれば起こる事象は想定出来る。

 魔法は空想のものではなく、実際に起こる物理的な影響だ。魔法が存在する理由や、魔法の使い方の原理は分からないが、発生した結果については、火魔法で燃えた火が水で消せるように、科学が介入する余地があるのだ。


 ニグナのスキルも、わざわざ水晶で判定しなくても、ステータスを自分で見りゃいいじゃん、と思うだろう。それがそうはいかない。

 ニグナを含むこの国の人間は、自分で自分のステータスを見ることが出来ない。それに慣れている俺たちには、ステータスを見るなんて当たり前の事だと思っていたが、これが出来るのは、俺たち異世界転生者だけなのだ。


 王宮でさらっと言われたので普通のことだと思っていたが、アテアたちに何故15歳まで待って教会でスキルを見て貰うのか、自分でステータスを見ればいいのに、と言ったら怪訝な顔をされてすぐに誤魔化した。

 だから子どもの頃は自分のスキルを知らない人間が多数存在するのだ。

 俺は魔法スキルに触れれば、今のレベルでどんな効果の魔法が使えるのかすぐに分かるが、通常は先輩たちに教わるか、先人たちの書いた書物で知る事になる。


 千里眼は、名前のまま遠くが見えるスキルではなかった。対象を選択し、サーチする。それを地図上に浮かび上がらせる能力だった。

 失せ物探しとか、占い師がやったら確実に見つかる感じだ。

 試しに対象者をニグナに設定する。おお、今ここにいるのか。

 俺は近くにいるであろう祭司を設定する。ニグナと重なるように前に表示される。

 ニグナを後ろに従えて、親方に説明している絵が浮かぶ。

 恐らく親方を検索すれば、祭司の前に出る筈だ。

 俺は親方を検索しようとして──


「──ん?」

 親方が検索対象者に上がって来ない。知らない人間は探せないということか?

 これでは自分の知らない対象を探すことが出来ない。

 何か方法がないか。あれこれ弄っていると、検索対象に鍛冶職人があった。

 鍛冶職人を検索する。

 すると祭司の前に一人、その後ろに複数の●が表示される。なるほど、名前の分からない会った事のない人物は、これで表示されるのか。


 なる程、つまり──。

 俺は検索対象者をすべてリセットし、火魔法レベル3を検索した。

 いるいる、この街にも3人。恐らくは冒険者だろう。さすがに今は奪えないが、いずれ奪いに来るのに役に立つ。

 俺は検索結果をリセットし、鑑定を検索した。

 一人いたがこれは王宮の鑑定師だろう。やはりレアスキルなのだ。

 対象範囲はどの程度なのか。数値がないので距離が分からない。


 俺は再度ニグナを設定し検索したのち、今度はアテアを検索した。そして王様も検索する。うん?おかしい。出ないな。

 仕方がないので再度鑑定を検索する。

 すると3人の現在地が地図上に表示された。

 アテアたちのいる城下街からここまでの距離、アテアたちのいるところから城までの距離を計算すると、ざっと──。

「半径70km……!?」

 表示されている地図の端までの距離が分からないので、誤差で50kmかも知れないし90kmかも知れないが、それでもそれだけの範囲を検索出来ることが分かった。


 70kmと言われても、具体的なイメージが湧かないと思うので日本の地図で例えよう。

 東京の中央区あたりから計測して半径70kmと言うと、東京は奥多摩町、神奈川県で小田原市、千葉県で香取市、茨城県で石岡市、埼玉県で深谷市や秩父市あたりまで届く。

 つまり関東全域がほぼ対象範囲となる。

 この国がいかに広いかも伝わったかと思うが、それだけの範囲で対象者を探す事が出来るのだ。

 俺は震える指で、ネクロマンサーを検索した。


 ……いた。

 地図の端っこにポツンと、それこそ半分近く見切れているが、●と分かるそれがある。

 魔物なのか人なのかまでは分からないが確かに存在していた。

 魔物であれば他の魔物を従えている。まずは現地に行って調べなくてはならない。

 俺はただちに旅の準備を整えた。アイテムボックスレベル5が手に入ったので、前回より持って行くものも増えた。

 まずは目指すは隣街、マッサンだ。

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