鏡の中の未来

織部文里

第0話 伝説の儀式

 長い長い洞窟を抜け、少し開けた石室に出ると、黒い外套に身を包んだ一行は、それまでうつむき気味だった頭を一斉に上げた。

「ついに、見つけた……」

 薄暗い石室の中、手に持った燭台の明かりを反射した人々の目は、希望と狂気に輝いた。

「あぁ、これだ! 間違いない!」

 人々の先頭に立つ老人は、皆と同じ黒衣を纏い、皆以上の光を目に宿らせて、石室の中央を見据えた。

 老人の眼差しの先には、石造りの台座に乗せられた、一枚の鏡。

 いかなる時代に作成されたのか、人々の目には見慣れない意匠であったが、一方でその鏡面に、時の流れの痕跡は認められなかった。

「やはり、神託に誤りは無かった! さぁ、供物を……」

 老人が右手を掲げる。

 その合図と同時に、人々は燭台を床に置き、懐から短剣を取り出して、自らの首筋にあてがった。

「運命は我らの手に!」

 老人が右手を振り下ろすと、無数の刃は音も無く人々の首筋を滑り、赤い霧が老人と鏡を覆った。

「さぁ、見せてくれ。わが教団の……輝かしい……未来……を……」

 老人は自らも短剣を取り出すと、寸秒の躊躇も無く己の胸に突き立て、薄ら笑いを浮かべ地に倒れ伏した。

 地面に並べられた燭台が、鉄臭い雨に打たれて一つ、また一つと消えていく。

「愚かな……」

 今際の刻み、己の命の炎が消える間際に、老人は確かに、少女の呟きを聞いた。

 老人の命と共に燭台の最後の一本が消え、それきり石室は元の暗闇と静寂を取り戻した。

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