能力者学校の放課後

大入道雲

第1話 等価交換

能力者学校は各都道府県に最低1つある。

普通の学校の5倍はある校舎にそれなりの生徒が在籍する。基本的に、どの能力者校も同じ感じである。

最も人が多い東京もそうだ。

といっても流石に多すぎるのか、東、西、南、と3つに分かれているが。


東京校の中でも、西に位置するから西校。

おれは、そこの学生である


部室棟の廊下には、おそらく部室に入りきらなかったであろうものが溢れているが、俺とこいつがいる部室には机と椅子くらいしかない。 

空いてる部屋を勝手に使っているからだ。

放課後に、部活もないのに部室に居るなんて。と思ったりもするが、一人でいた所でなんら生産的な行動を取れないと分かっている俺は、まるで習性かのようにこの部室に引き寄せられるのだ。


手に持つトランプから目を離し、窓から校庭を見下ろすと、野球に興じる奴や、いちゃいちゃとしながら校門へ向かう奴らが目に入る、

俺の目には灰色に見えている世界が、あいつらにはレインボーにでも見えていそうだ。


つい、ため息を吐いた。そのまま前を向きながら話かける


「みんな憧れの能力者学生がこんなもんか?放課後は部室で大富豪って。下の方のクラスだからか?結局才能か?オイ」


すると目の前の少女はトランプから目を離さずに間の抜けた声で返してくる。


「努力してないからっしょ?才能って面で見れば大したもんよ。私たちって。」

適当な返事をしながらKを2枚机に投げ出す、ヒメ。ー金髪にピアスに着崩した制服。ギャルの教科書みたいなやつだ。

流行りのカフェとかそう言うのが似合いそうな少女といえよう。

今時、こんな典型的なやつがいるのかわからんが。


自分の手札を確認するが、出せるものがない。

「パス」と言う俺の声にかぶる形でヒメは思い出したように続ける。


「先生も褒めてたわ。貴様らのような不真面目なクソ野郎は初めてだ。って」

 

軍人かよ。

普通のやつがこんな事言ってたら、すげーキレてるか洋画の吹き替えかのどっちかだが、この学校の場合は、あながちこいつの言ってることを間違いとはいえない。


というのも熱血熱血の我が校は、そういう反骨精神のあるやつを求めている節がある。

お利口さんの学生が多いので、やり甲斐がないのかもしれない。

仕事にやりがいを求めるなんて傲慢だと思ったりもするが、少なくとも我がcクラス担任のそいつは、その部類に違いなかった。


dクラスの担任がどうだったかは覚えていないが。


しかし、仮に褒められたところでどうとも思えない。残念ながら。

教師の褒め言葉なんて、注意と同じくらいくだらないからだ。

だが、会話を続けるために思ってもないことを言う。

俺たちは一生懸命に退屈と戦っている。


「そりゃ光栄だ。まさか先生の初めてがもらえるなんてな」

「あんな筋肉ダルマの初めてをありがたがるってイカれてるわね」

「男にイカれてるは褒め言葉だぜ。」

「まじ?知らなかったんだけど」

「まじだって」


こんな無駄な会話を、ヒメは表情が抜け落ちた顔で続ける。

俺も似たようなもんだろう。

一見会話は成立しているが、脳みその5%すら使うことなく反射で話している。

酔っ払いですらもう少し考えて話していることだろう。

おそらく、寝ている状態に近い。

この前なんて、視界の端に、柵を飛び越える羊がチラチラと映っていた。


要するに、俺たちは退屈していた。

何に、と聞かれても答えられないが。しかし退屈であることだけが事実としてあった。

ここ数日の俺。

そして、おそらくはこいつも。

俺たちは退屈に殺されそうになっている。


ふと、なにか面白いことが起きないかと神に祈ってみたりもしたが、効果はなかった。

アンラッキーなことがあるたびに、殺すぞと念じていたせいかもしれない。

であるならば、これからはしないように気をつけるから遊び相手にでもなってほしい。

そんな妄想をするくらいには退屈に疲れていた。

2人でやるトランプには限界が来ていた。


ふと、視線を上げると、ヒメがトランプをだらしなく持ちながら、俺の頭の上らへんをぼーっと見ている

ちらっと頭上を見るが何もない


「なんだ、魂でも抜かれたか?」


おどけた感じで言うが、反応がない。

こいつは大変だ。本当に魂が抜けたのかもしれない。



俺は神に祈った

ついでに俺の魂も抜いてください、と。


この退屈が凌げれば、魂くらいくれてやる。アーメン







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