とても熱い職場です!

赤。赤。赤。

見渡す限り、赤だ。

私の狭い視界は赤一色に塗りつぶされている。

目の周りだけ耐熱ガラスのような透明度の高いものでおおわれているので、顔を向けた方しか見ることは出来ない。

顔を前後左右に向けても赤い。私は赤い溶岩に囲まれている。

「清水さーん、みつかったー?」

「いいえー、もう少し下の方に行ってみまーす」

「わかった、気を付けてねー」

先輩の呼びかけに応じた私は、今いた場所よりも下に向かう。

超耐火プロテクターをまとった体は、溶岩の海に沈んでいく。



数か月前の自分は、まさか煮えたぎる熱々の溶岩に全身を浸けることになるなんて思いもしなかった。

私は大手宇宙間輸送商社に勤めていた。給料もそこそこいいし、老舗企業であったため、将来安泰だとホクホクとしていたのだが、実際入社してみるとホクホクなんて気持ちは一気に冷めきってしまった。

一言で言うなら「冷たい職場」であった。日頃から最低限の会話しかないオフィスでは、会話があったとしてもギスギスとしたものばかり。

誰それがミスをした、どうして自分がそのしりぬぐいをしなくてはいけないんですか?

あなたが引き受けた仕事でしょう、自分は関係ない。

などなど。

助け合いの精神などはまったく無く、自分さえ良ければそれでいい。何も問題を起こさなければ将来安泰なのだからという精神によるものなのかもしれない。私もここに居続けたら、この冷えた空気に慣れきって、身も心も冷え切った人間になってしまう気がした。

それでもいいと思える人はそれでいいかもしれないが、私はそれが嫌だった。

だから私は数か月ほど勤めただけで、辞めてしまった。

中途半端な時期にやめたうえに、会社の空気が冷え切っていて耐えられませんでしたという理由を受け入れてくれる転職先なんて、そうそう見つかるはずもなく。早まったかと後悔し、いやいや、そんなことはないと否定する毎日を過ごしていると、知り合いから連絡が来た。

「人手不足なんだ。うちに来ない?熱い職場だよ!」

なんだかとても胡散臭かったが、背に腹は代えられぬと私は働くことにした。


溶岩の星。

銀河系から少し行ったところにある真っ赤な星である。

正式名称はくっそながいので、私のまわりの人たちは溶岩星(ようがんぼし)とそのまんまな呼び方をしている。

そこで行われている観光施設に私はいま務めている。

赤い視界の中で動くものを見つけた。

視覚情報の上に探査機器から送られてくる周辺情報を上書きして、視界に映し出すことによって、マグマの中でも周辺状況を把握することが出来るのだ。

私が溶岩から上がって、事務所の方に移動すると、そこから小さな女の子が駆けよってきた。

「ジョン!」

「ワオーン」

私の腕の中で犬型のロボットがかわいらしく鳴いた。



(お題:熱い転職 制限時間:30分 )

(誤字修正をプラスすると30分超過)

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即興小説集 狩込タゲト @karikomitageto

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