代わりに散歩をしてあげる私(未完状態時
夕方の6時ごろ、私はかわいい子犬の散歩をしている。
「まっちゃん」と呼びかけると、「ワフッ」と高い声で短く答えてくれる。首輪には「マチ」と書かれているが、彼がまっちゃんと呼びかけているので私も自然と同じように呼んでいる。
愛しい彼が最近、飼い始めた子犬だ。まだどこかぎこちなさの残るよちよちとした歩き方にあどけなさを感じる。ふわふわとした毛並みは、彼の癖毛を思い起こされて自然と笑みがこぼれる。その愛らしい子犬の散歩を、彼が忙しくて帰りが遅くなる時は、私が代わりにしてあげているのだ。
引っ越してきたばかりの彼は、散歩を代わってほしいと気軽に頼める知人が近くにいなかった。仕事などで疲れてしまった彼を癒すために、この子犬は彼の元へやってきた。その子犬の世話が彼の重荷になってしまっては本末転倒だ。生まれて数か月のその子犬は、まだやんちゃ盛りで、十分な運動をさせてあげないと家の中をぐちゃぐちゃにしてしまう。だから忙しい彼は、ときどき子犬をケージに入れっぱなしにして出かけてしまう。仕方のないことだが、ケージの中にいれ続けておくのはかわいそうだと思った私は、ときどき散歩を変わってあげることにしたのだ。
彼が帰ってくる前に彼の家についた私は、まだ遊び足りないとまとわりついてくる子犬を、名残惜しいと思いつつも、優しくケージに入れてやる。
散歩をしたときの子犬の排泄物を置いていくようなことはしない、彼の負担を減らすために持って帰るのだ。そのついでに部屋の掃除も少ししてあげる。
彼の部屋のゴミを袋に入れて立ち去ろうとしたときに、玄関のカギが開く音がした。おかしい。彼が帰ってくるのは、あと1時間はあとのはずだ。
警察は子犬を抱えてうなだれる女性の話を聞き終えた。
彼女の話や、その現場となった家に住む男性などの話をまとめると事件の顛末はこうだ。
彼女が彼の家におとずれると、知らない女が突然襲いかかってきた。つかみ合いになりつきとばしたはずみにその女は、頭を打って気絶。彼女は警察に通報した。
その女は部屋の持ち主の男性にずっとつきまとっていて、それから逃れるために男性は引っ越したのだが、その女は見つけ出しただけでなく、勝手に飼い犬の世話をしたり、ゴミを持ち帰ったりという異常行動をおこなっていたらしいのだ。
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