02、HERO
「うぅ〜〜〜んぬぐぐぐぐ……っ! ろく、ごー、よん、さん……っ!!」
夕真の病室を出て、競歩選手もかくやという早足で病院をあとにした重陽は、目の前の郵便ポストを蹴っ飛ばしたくてたまらないのをぐっと堪えた。
どんなに歯痒くても、悔しくても腹立たしくても、物に八つ当たりしてははいけない。それに躊躇が無くなったら、物に当たるように人へ当たり始めるまではきっとウサイン・ボルトの世界記録よりあっという間だからだ。
「にーっ、いっち! よしっ……」
練習の一環で外部のメンタルトレーナーから「怒りは『六秒待つこと』でコントロールできる」と教わった。それ以来、重陽は一人の時にはよくこうして口に出してカウントダウンする。
ふう。と大きく息を吐き、気を取り直してストレッチ。それから、流す程度の速さで窓が割れたままの彼の部屋へ戻る。アパートの前には既に、駅伝部のコーチと主務──OBの土田元主将と一つ上のユメタ先輩が待ち構えていた。
「っすー。重陽お疲れー。タマっちどんな具合?」
開口一番そう尋ねてきたのは、主務のユメタ先輩の方だ。夕真の「夕」の字がカタカナの「タ」と見分けが付かないので、彼が「タマっち」とあだ名を付けた。キョロ充には百年経ってもマネできそうにない、真のパリピムーブである。その時も重陽は、羨ましすぎて六秒数えた。
「お疲れ様です。……被害はアバラ二本とガラスによる切り傷、それに殴打症多数です。入院はざっと三週間」
と重陽が淡々と報告すると、土田主将──改めコーチは「げえっ」と顔を顰めて見せた。
「入院長くない!? え、もしかしてアバラで肺もやった感じか」
「いえ。怪我自体はそこまで複雑じゃないんすけど、今回は相手がちょっとストーカー入ってたんで……まあ身柄の保護も兼ねてって感じっすね。最寄りの駐在がムッサさんでほんと助かりましたよ。話がはえーのなんのって」
それを横で聞いていたユメタ主務もまた「あー、ね!」と重陽に調子を合わせて頷く。
「あの人、おまわりさんにしちゃ話通じるよねえ。男同士のチジョーのモツレですんなり動いてくれる人、あんまいないって聞くけど」
「ほんとそれなんすよ。夕真先輩は退院したら何かこう、ムッサさんの厚意に報いるためにも地域の安全に貢献する記事の一つも書くべき──あ、靴は履いたままの方がいいです。どこにガラス飛んでるか分かんないんで」
なんて小声で話しながらこそこそとアパートの階段を上がり、預かった鍵で彼の部屋のドアを開け灯りを点ける。
「わあ……こりゃどえらい修羅場のあとだ」
部屋の惨状を一眼見て、ユメタ主務は引き攣った笑いを浮かべ、土田コーチはこれ以上ないほどの大きなため息を吐いて頭を抱えた。
無理もない。1Kのさほども広くはない部屋は、ベランダの窓ガラスが割れローテーブルがひっくり返り、床のそこここにはどす黒い血痕が残っている。
「いやあ、なんか思い出すねえ。丹後さん時の大捕物。ねえツッチー先輩」
「嫌なことを思い出させないでくれユメタ……最近ようやく神経性胃炎に回復の兆しが見えてきたところなんだよ俺は……」
そう言って土田コーチは顔を顰めて胃のあたりをさすり、ユメタ主務は「あははは」と乾いた笑いを浮かべている。誠に恐縮極まりなく、重陽はただただ肩を竦めて「なんかすみません……」と二人に靴カバー代わりのビニール袋を差し出すのだった。
丹後元主務が夕真に対する傷害と違法薬物の所持で逮捕されたのは、二年半ほど前のことだ。通報したのは重陽だった。
と言ってもその時は、今夜のように彼の部屋の前で張り込みをしていたわけではない。事態はもっとシンプルだった。丹後は重陽の目の前で、夕真を引き倒しタコ殴りにした。重陽が引っ越しを終えた晩のことだ。
重陽は、新年度からイベント企画会社を始める三浦兄弟が自宅兼事務所として親戚から格安で買ったと言う古民家──通称「三浦ハウス」に下宿させてもらうことになっていた。
母からは上野の祖父母宅から大学へ通うよう強く言われていたが、上野から神奈川との県境まで毎日通うのは骨が折れるし、練習にも差し支える。
下宿先はこちらに用意があります。下宿というか、駅伝部の寮のようなものと思っていただいて構いません。私は今年度で卒業しますがOBとして最善を尽くして重陽くんをサポートしますし、今年度の体制を率いる主将や主務も信頼のおける後輩たちです。
重陽が足の手術のために入院している時、丹後主務はわざわざ東京から愛知まで見舞いに来てくれただけでなく、そう言って懸命に母を説得してくれた。重陽の右脚は、手術をしたからと言ってまた前のように走れる保証はどこにもないのにだ。
そのことに重陽はいたく感激したし、母もきっと同じだった。丹後さんがそこまで仰ってくださるなら……と言って、学校にもまあ走って行けなくはない場所にある三浦ハウスへの下宿に納得してくれたのだった。
そんな丹後が、である。重陽が三浦ハウスへ引っ越してきたその日の晩、家主の三浦兄弟が催してくれた歓迎会の真っ最中に、である。縁側に腰掛け、重陽と肩を並べて話し込んでいた夕真の首根っこを唐突に引っ掴み、真横のガラス戸へ叩きつけるようにして彼の華奢な体を庭へ投げ飛ばした。
「先輩!!」
と咄嗟に叫んだ自分が、一体どっちの「先輩」をして叫んだのかすら分からないくらい混乱した。しかし考えるより先に体は動き、重陽はいつか大手町で見た彼と同じぎこちなくしか動かない脚を引いて夕真に駆け寄った。
が、丹後はそんな重陽をいとも簡単に押し退け、土の上に蹲っている夕真へ馬乗りになって「お前が悪い! お前が全部悪いんだ分かってるよな!?」と夕真の頭を地面に打ちつけ続けた。
「ノブタ先輩! ユメタ先輩! 誰かっ!! 誰か助けて!!」
と重陽が涙目で叫んだ頃には先輩たちは庭へ躍り出てきて、三人掛かりで丹後を夕真から引っぺがした。そして土田主将は自分の携帯を重陽へ放り「警察呼べ!」と指示を出したのだ。
なので重陽は言われるがまま、涙声でロック画面の緊急通報ボタンを押した。夕真は血塗れで土の上に丸まったまま、譫言のように「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返していた。電話の向こうからはすぐに「事件ですか? 救急ですか?」と応答があり、どちらか迷ったが率直に「事件で救急です! 怪我人がいます!」と涙声を引き攣らせながら答えた。
先に来たのはパトカーで、あとから救急車も来た。傍目に見ても丹後は常軌を逸した錯乱状態で、また普段の彼の姿からは誰にも想像だにできない様でもあったので、彼はすぐさま薬物の使用を疑われて簡易検査を受けた。
その結果こそシロではあったものの、所持が見つかったので丹後は傷害と違法薬物所持で現行犯逮捕となったのだ。その後、主務逮捕の煽りを受けて駅伝部の部室や三浦ハウス、それに被害者である夕真の部屋も家宅捜索を受けた。
幸い丹後自身の自宅以外のどこからも違法薬物は発見されなかったものの、事件は週刊誌にすっぱ抜かれ、その年の新入生は入部早々から活動停止を強いられた。もっとも新しい部員は重陽ともう一人エンジョイ派の新入生だけで、重陽自身はそもそも走れる状態ではなかったのだけれど。
「──いやあ、しかし。あれから俺もノブタも頑張ったと思わねえ? 会社の汚名返上して、駅伝部立て直して、コーチと栄養士雇って下宿人の面倒見て……マジ神では?」
床に散らばったガラスを部屋にあった玄関掃除用の箒(ただし使われた様子はなく、蜘蛛の巣が張っていた)で集めながら、ユメタ主務はしみじみと発する。
「おっしゃる通りっす。マジ三浦兄弟しか勝たん」
重陽はクローゼットに仕舞ってある夕真の私物を段ボール箱に詰めながら、強く強く頷いた。
「それに、土田さんにも感謝してます。あの時、また今みたいに走れるようになるかどうかなんか全然分かんなかった上に、こんなにトラブル持ち込むおれのことほっぽり出さずにいてくれて……」
いっぱいになった箱をベッドの上に置き、ちりとりを持ってしゃがんでいる土田コーチの顔を見る。すると彼は、少し苦い顔をして「だってさあ」と発する。
「オーキャンで言っちゃったもんなあ、あの人……お前のこと『待ってる』ってさあ。でもって、地元の強豪からもスカウトあったのにわざわざウチ受験したんだろ? 最後まで面倒見るしかないじゃんそんなのさあ。知らん顔なんかできないって常識で考えて!」
彼は時折声を裏返しながら答えた。けれどそれは「厄介者を押し付けられた」という重陽への悪態というよりは、最後の最後で部をめちゃくちゃにしていったかつてのカリスマ主務に対する愛憎のように重陽には聞こえた。
「でもさ。ほんと、お前が気にすることじゃないよこれは。まあ、いくら腐れ縁っつってもタマっちのトラブルに毎度毎度自分からホイホイ首突っ込むのはどうかと思うけど……それ言ったら、俺だって付き合い長いのにあの人のヤバいとこに全然気付かなかったのもどうかと思うし──」
と続けるも、土田コーチは途中で顔を顰めて胃のあたりをさする。重陽にはそんな先輩にかける言葉を見つけることができず、部屋をしんみりした気まずい沈黙が包もうとした。その時だ。
「はい! やめやめ! 責任の奪い合いしない! 誰が悪いかって? そんなの人のアバラぶち折ったりガラス割ったりクスリやったりするやつが一番悪いに決まってんじゃん! 俺らにできんのはそんなのどーでもよくなるくらいハッピーになることだけ! オッケー!?」
ユメタ主務は先輩と後輩をいっぺんに叱りつけるような強い口調で言って、それからぐっと表情を引き締めて続ける。
「でも重陽。今回は『インディゴの不死鳥』に免じて俺らでケツ持つけど、次はねえからな。悪いのはタマっちのDV彼氏だけど、こう続くんじゃ本人の意識も変わんないと現状打破とかぜってー無理だから。今回で懲りないようならお前もいい加減手ェ引きな。分かったな」
「……はい。分かりました」
手を引ける気も引く気もさらさらなかったが、ユメタ主務のマフィアじみた迫力に気圧されて思わず首を縦に振った。
すると彼は、一瞬でまたいつものゆるふわパリピムード漂う笑顔を浮かべて「ヨシ!」と重陽の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「そんじゃ、ガラスは粗方片付いたし雨戸閉めて帰りますか。ノブタが下に車回してるから、荷物も詰めるだけ積んじゃおう。掃除は明日からぼちぼちってことで!」
そんなユメタ主務の号令で、夜逃げよろしく最低限の必需品をノブタ主将の運転してきたバンに積み込む。
「っすー。重陽お疲れー。タマっちどんな具合?」
さすが双子の兄だけあり、ノブタ主将は重陽の顔を見るなり弟と全く同じセリフで夕真の容体を尋ねてきた。
「お疲れ様ですノブタ先輩。夕真先輩の被害はアバラ二本の骨折と切り傷、それに殴打傷多数で入院はざっと三週間ですが、ストーカーからの身柄保護の意味も兼ねてなので怪我自体はたぶんすぐよくなると思います」
重陽が淀みなくそう答えたのを聞いて、ノブタ主将は「ふうん」と何事か思案するような声を上げてバンを発進させる。
「──ってことは、書き物の仕事ならわりにすぐ発注できるってことね。パソコンは確か無事だったよな?」
「はい。あと、携帯は瀕死ですけどネット環境さえあればラインはパソコンで繋がるはずです。つっても多分しばらくマトモに起き上がれないと思うんで、返事できるか怪しいっすけど」
「いや、さすがの俺も今日の明日とかでそんな無茶振りしないって……」
と言ってノブタ主将はちょっと引き気味に笑ったが、正直なところ「やりかねん」と重陽は思っている。じゃなきゃ容体を確認した舌の根も乾かない内に仕事の発注が可能かどうかなんて確認しないだろう。
ユメタ主務もそうなのだが、今の彼らは自分たちが選手として走ることよりも、一度は廃部寸前まで追い込まれた自分たちの駅伝部を高いレベルにリビルドするという「ビジネス」の方に重心を置いているようだ。もちろん、人数が少ないので自分たちもレースや記録会に参加してガンガン記録を縮めてもいるのだけれど。
七月現在、駅伝部の部員は全部で十一人。四年の三浦兄弟に、三年が重陽ともう一人。後輩は二年生が三人と一年生が四人いる。
三浦ハウスには三、四年生の全員と一年生と二年生が一人ずつ住んでいて、あとの部員は実家からの通学だ。
重陽以外の部員はみなエンジョイ勢──というか「もはや陸上ガチでウチ入ってくるアホとかいなくね?」という首脳陣である三浦兄弟の判断により、青嵐大駅伝部の練習スタイルは「各々の創意工夫で」から「適材適所で無理なく楽しく戦力アップ!」に方針変更されている。
土田コーチを市内の自宅へ送り届けたバンが三浦ハウスに帰り着いたのは、午前一時を回った頃だった。重陽と二人の先輩は眠気で白目を剥きながら夕真の私物を二階の空き部屋へえっちらおっちら運び込み、それが終わると互いに「お疲れ様でございました……」と頭を下げあいそれぞれの部屋へ引き上げた。
「──おきゃえり喜久井氏。お疲れサマンサ」
唯一の同期でルームメイトの御科(みしな)師馳(しわせ)は、ゲーミングチェアの上にあぐらをかいてパソコンのデュアルディスプレイを見たままおざなりに声を放ってきた。
「たでーま御科氏……すまんがクエン酸分けてクレメンス……」
喜久井が自分の根城である二段ベッドの下段へ倒れ込んでそう返すと、彼は右手でキーボードを叩きながら左手で机の引き出しを開け、駄菓子のカリカリ梅を引っ掴んで重陽へ投げて寄越した。
「アザス。財布財布……」
「いやいらんし。四十円ぞ」
「ぴえん。神か? キュンです」
「いやキュンもいらんわ。どうしてもというのなら『あおRUNちゃんねる』デイリー百回再生で手打ちにしてやろう」
御科は「ヒヒッ」とオタク丸出しのギークな笑い声を上げ、勢いよくエンターキーを叩く。すると彼の見つめていたディスプレイには「レンダリング中」のポップアップが現れ、読み込みの残り時間を計算し始めた。
適材適所で無理なく楽しく戦力アップ! がモットーの青嵐大駅伝部において、ユーチューブチャンネルの動画編集は入部前からゲーム実況動画で人気を博していた彼の担当なのだ。
そんな彼が裏方を取り仕切っているチャンネルが「あおRUNちゃんねる」で、メインの出演者は三浦兄弟と一応エースの重陽、そして実家から通っているユーチューバー経験者の後輩たちだ。
「はいっ。本日の業務終了っ。積み本消化ターイム! 薄くて熱い本たちが俺を待っている!!」
作業を終えた御科は大きく伸びをして立ち上がり、意気揚々と部屋の隅に積んである段ボール箱を開けた。中には彼が長年愛読している女子マラソン漫画──の二次創作同人誌がみっちりと詰まっている。
「おおっ。この間のイベント新刊? おれのもそこに入ってたりする?」
重陽も、カリカリ梅の種まで割って中身をかじりながら身を起こす。御科は「モチのロン」と頷いて、段ボール箱をずずずと畳の上に滑らせた。
「やはりBL二次は百合より断然強うございますな。羨ましいぞ喜久井氏……」
「いやはや御科氏。しかし貴殿の推しカプはコミケが本命であろう。次の記録会ではぜひとも自己ベストを更新してコミケ参加権を勝ち取ってくだされ……っ!」
と重陽が熱を込めて言うと、同期であり同胞──と書いてオタク仲魔と読む──の彼もまた「うむ!」と強く強く頷いた。
御科師馳は重陽にとって初めてできたオタク友達であり、そしてオタク道の師でもある。重陽の三浦ハウス入居から遅れること一週間後。彼は丹後の事件でてんやわんやしている三浦ハウスの様相を全く意に介さず予定通りの日程で、大量の同人誌と共にやってきた。
陸上競技を本格的に始めるのはこれから。動機は「推し」がマラソンをしているから。
そんな理由ではあるものの凝り性な性格と推しへの愛が功を奏し、御科は部活にこそ入っていなかったものの地元の市民マラソンにおいては敵なしだったという。
噂に違わず、彼のポテンシャルは高かった。しかし彼の「推し」はロードレースしか走らない──つまりトラックを走ることはなかったので「駅伝部」に入部した彼にトラックを走らせることには当時の主将だった土田コーチはえらく苦心していたのを、重陽はよく覚えている。
が、ここで重陽が培ってきた「まあまあ」「そこをなんとか」が本領を発揮した。また、重陽自身も彼と同じ重度のオタクであったことも幸いした。
御科氏の推し、駅伝走ってるんだよね? 描いてないだけでたぶん、フツーに夏はトラックで千五百とか三千とかの記録会出てるよ。
重陽は自分が走れない分、彼の愛読書を熟読して懇切丁寧に長距離陸上の競技の仕組みを彼に落とし込み、そして彼にオタクとして「我が道をゆく」芯の強さの重要さを教わった。
「ぐうっ……冒頭からもうマジくっそ尊い……長文感想不可避っ!」
疲れ切った心と体に、じっくり丁寧に綴られた推しカプのラブストーリーが沁みる。俗に「薄い本」と言われる同人誌の中では分厚い方に分類される小説同人誌を胸の上で広げ、重陽はその場にひっくり返る。
「ほうほう。センシティブ系小説ガチ勢の喜久井氏を唸らせるとは、よほどの筆致とお見受けする。読み終わったら交換オネシャス」
と言って御科は、重陽が胸の上に広げた同人誌の表紙を覗き込み「装丁もシャレオツですな」と顎をさする。そんな彼が広げている同人誌もまた、重陽好みの線が細いタイプの百合漫画である。御科は本人曰く「ヘテロ」らしいが、読むのはお互いに雑食だ。
オタクをしていて、こんなに普通にアニメみたいに「萌え」とか「尊み」を誰かと共有できるだなんて、御科に出会うまでは全然思っていなかった。
御科だけではない。先輩の土田コーチや三浦兄弟、それに後輩たちも、それぞれにクセは強いがみんないい意味でお互いに「無関心」だ。「寛容」と言い換えることもできる。オープンキャンパスの時に丹後から聞いた「懐の深さはよその比じゃない」という言葉は、青嵐大駅伝部を最も端的に表す言葉であったわけだ。
世界は鏡で、自分の選択が自分の人生を作る。
だから今の重陽が愛すべき仲間たちに囲まれ居心地の良い場所で走ることができているのは、当然のこと人に恵まれたおかげではあるけれど、何割かは過去の自分のおかげ──差し伸べられた救いを意固地になって振り払わず、素直にその手を取ることができたからなんじゃないかと思う。
そういう意味で言えば重陽は、夕真をはじめ自分に影響を与えてくれた多くの「ヒーロー」に支えられ、自分自身の「ヒーロー」になれた。
だから今度は、本当に正真正銘、自分の番だ。
夕真には何がなんでも、差し出された救いの手を取る勇気を振り絞ってもらわなければならない。
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