1話 問題児の魔法使い
天から溢れる僅かな明かりが室内を照らしている。朽ち始めている柱や棚には蜘蛛の巣。乱雑に置かれた陶器や木箱には埃が飾られている。どれだけの年月放置されてきたのか。ここには長いこと人が訪れていないようだ。
そんな場所で青年は「それ」の位置を確認すると、腰に着けた鞄に手を突っ込んだ。手探りで目当ての物を取り出し、「それ」に目を向けたままペンを走らせる。
右手には灰色の液体が入った透明なペン。左手には、丸く平たい黒い石。彼は慣れた手付きで石に文字を書き終えると、手元を見る事なく石を「それ」に向けて投げた。
「ヂュー!!」
石を投げつけられた「それ」――
そんな集団に石が触れた瞬間、石は光の粒となって消えた。同時に粘着性のある網が現れ、逃げようとした魔鼠を全て捕らえる。しかし、青年の表情に安堵の色はない。
「ヂヂヂヂヂ!!」
一匹が鳴きながら網を咬み始める。それはすぐに連鎖し、魔鼠達は網を咬み始めた。粘着性があることなどお構い無しに、魔鼠達はほんの数秒で網を咬み千切ると集団のまま一斉に逃走する。
その様子に青年は小さく舌打ちをした。
「そっち行ったぞアリア!」
「はい!」
女の子の元気な返事が聞こえた直後、陶器の割れる音がいくつも鳴る。
「すみません逃がしました! リンさん!」
木材の間を縫って倉庫の中へ射し込む光が、背の高い人影を映した。それが拳を振るうように動いた瞬間、光は一気に強く大きくなる。わずかに遅れて、耳を塞ぎたくなるような轟音が周囲に響き渡った。
倒壊は免れた、だがもうこの場所は使えないだろう。誰が見てもそう思える程度に、ここは一瞬で倉庫としての機能を失ってしまった。
「……はぁ」
砂埃が舞い、バラバラと何かの欠片が落ち、時には砕ける。そんな中で大きなため息をつきながら、青年は腰布に張り付いた埃を適当に払った。銀灰色のそれは、一部が焼き切れていて見た目もボロボロだ。しかし不思議と不潔感はない。
「まーたやっちまったよ」
そんな事を呟きながら、青年は直前まで無かった大きな穴を眺めた。
◇
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