緋眼の人形使い
雨宮 小夏
第1部 勇者と魔王の物語 1章 帝国編
プロローグ
その日、ルーマの森は晴れていた。普段は濃霧に覆われ何も見えないというのに、今日という日は葉の一枚や花の色がはっきりと見えている。雲一つ無い空はどこまでも青く、鬱陶しい魔物の姿もない。
この穏やかな時間が流れる場所で、木々の間から降り注ぐ陽の光が二つの影を照らしていた。
「ごめん」
震える声で話す青年に、少女は首を振ってそれを否定する。
「ありがとう」
彼女は青年の腕の中で弱く微笑むと、彼の頬に手を伸ばした。血塗られたその手を辿れば、先にあるのは大きく裂かれた腹部。
命を奪われ続け、今にも溢れ落ちそうになる少女の手を、青年は包むように掴んだ。その手もまた血と土で汚れ、顔には後悔と悲痛の色が伺える。
「“ユニリスタ・ティル・クルトニスクが命じる――”」
青年が言葉を奏でると、灰赤色の光が二人を包んだ。彼らを守るように、しかし儀式の邪魔をしないように。光はゆっくり静かに渦を巻いている。
「“我が使い魔となり その命果てるまで力を奮え 汝の真名は――”」
風が青年の言葉を攫った。涼しさの中に暑さが残る、初秋の風だった。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます