第33話ニャンコを自由にしたら・・・

33,ニャンコを自由にしたら・・・


 4月に入ってから暖かくなった事もあり


夜を除いて昼の間だけ自由にさせてあげることにした。


ニャンコにはニャンコの世界があると考えて尊重したいと思っていた。


というのもある日の昼、仕事から戻ると一階の屋根にニャンコが出ているのをみつけた。


おそらく窓から出たのだろう。


黙ってみていると下へ飛び降りたそうなそぶりをしているのだが


中々勇気がなくて飛べないようだった。


ネズミを捕ったり、他の猫を威嚇して追い出したりと強いのに


案外と弱いところもあるようだ。


やはりお嬢様育ちなのだろう。


だが、無理をして下へ落ちると怪我の元だと思い


昼の間だけ外に出そうと考えるきっかけになったのである。


もう妊娠の心配もなくなったし性格は強そうなので他の猫に


いじめられる事もないだろう。


心配は事故にあう事だけだ。


夜はモモ子と一緒に散歩に出かけ一緒に帰って来てから


私が風呂に入るとドアを開けて洗い場に入って来る。


風呂の水を覗き込んでいるので手ですくってやるとその水を飲むのである。


まるで犬だ。


洗い場は当たり前だが水で濡れている。


猫は水を嫌うというが平気なようだ。


その証拠に私がシャワーを使って髪を洗い始めても


洗い場から出ようとしないのである。


風呂から上がって寝るまでの間は三匹?がそれぞれ思い思いの場所にいる。


私は食卓の椅子に座ってテレビを見ているし、


モモ子は座椅子を平らにしてベッド状にしたものの上に寝そべっている。


ニャンコはテーブルの下の段に入って寝ていたり、洗濯籠の中に入っていたりする。


当たり前の家族になっていた。


 毎朝、出がけに一緒に外へ出るニャンコが


チャンと帰って来てくれるだろうかと最近では気になって仕方ない。


すっかりなついて私の心の中まで占領していたのである。


毎朝、ニャンコを外に出す度に帰って来てくれるだろうかと一抹の不安を感じながら送り出す。


猫は犬と性格が違う。


自由にしてあげなければストレスがたまるだろうと思って外に出していたのが


仇になったのだろうか、心配が的中したのだろうか。


4月12日、その夜、ニャンコは帰ってこなかった。


帰ってくれば玄関先でニャオニャオといつものように鳴いて


ドアを開けろと私を呼ぶ声が聞こえるはずであった。


夜中に何度も外の気配に耳をそばだてていたが何も聞こえてこない。


今までも一晩ぐらいは帰ってこない事があった。


でも、何故か今回は本当に帰ってこないような気がした。


それでも、私はモモ子の散歩中にどこからともなくニャンコがついてくるような気がして


何度も後ろを振り返った。


もしかしたら先に戻っているかもしれない、近所の軒先にいるのかも、


隣の畑を散歩しているかしら・・・


私は待った。


ニャンコが帰って来るのを・・・


そして待ちながらもどこかで事故にあったのかと道の端っこを念入りに覗いて歩いた。


それらしき跡はない。


近所の人にも聞いてみたがずっと私の家にいるものと思っていたので


いなくなったことも気づいていなかったと言う。


心配と後悔で頭がおかしくなりそうだった。


ニャンコが嫌がっても自由に外に出すべきではなかった。


家の中に閉じこめておくべきだったという声といや、


出来る限り自然体で自由にさせるべきだという声が頭の中でささやきあっている。


そして時折、幻聴まで聞こえてくる。


居間にいるとニャオと可愛い声が聞こえる。


慌ててドアを開けるがいない。


二階へ上がってみる。いない。


窓を開ける。いない。


居間に戻るがやはり、上からニャオと声がする。


居間の押し入れの上の袋戸棚を開けてみるがやはりいない。


ベッドに寝ていても軒下で声がする。


その都度起きて行って庭を探すのだがやはり、いない。


他の猫の声なのか幻聴なのかわからなかった。


 でも、時は解決してくれるものだ。


あの4月12日前後何日か近所にリホーム業者か何かの作業の人の車が


止まっていたことを思い出した。


職人さんたちの車はたいがいバンで


後ろの扉やドアの窓がいつも開いていた。


そして、あのニャンコちゃんは大変人懐っこい。


動物好きな人の腕ならすぐに抱っこされるだろう。


それにまして車が好きである。


車のドアが開いていれば中に入って探検するに違いない。


遊んでいるうちに扉を閉められて他の場所に運ばれてしまったのかもしれない。


あるいは可愛いいので連れていかれたのかもしれない。


どちらにしてもあの人懐こさと美貌?なら必ずどこに行っても


可愛がられるに決まっていると確信していた。


犬ともあんなに慣れている猫なんて聞いたことが無いし、一緒に散歩する猫も知らない。


私は大事なものを失った訳だがニャンコちゃんが幸せになってくれればよい。


きっと幸せでいるはずだと思うことにした。



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