第21話桃太郎の死

21,桃太郎の死


桃太郎は口ばしの曲ったのを切ったせいか


少しずつではあるが食べるようになった。


でも、老化現象は止められない。


昼間の居眠りが多くなり、止まり木から落ちて下にいることが多くなった。


下に落ちても上に上るためのくちばしの力や足の力がなくなり


登れないのかエサ入れの所に止まっていたりした。


ドテッと音を立てて下に落ち羽根を広げえたまま


起き上がれないでいることもままあった。


愛子の時には気が付かなかった老いがあったのである。


籠が二階建てになっていたので落ちても傷つかないように一段にした。


五月二十五日の事だった。


止まり木から落ちた桃太郎が尾羽を折ってひっくり返ったまま


起き上がれないでいるのを見つけて止まり木に戻してやった。


かすかに抵抗しようとしたが力はないようだった。


何よりも軽い。


枯れるとはこういう事かと近づく桃太郎との別れを覚悟した。


愛子の年を越しているので寿命は充分に生きている。


「モモチャン」と呼んでも聞こえないのか反応をしない。


目を閉じて口ばしをモゴモゴ動かしているだけだった。


二日後の二十七日夜、帰宅すると桃太郎は籠の下で冷たくなっていた。


愛ちゃんの時のように看取ってあげられなかったことが哀しかった。


白い布に包んで籠の上に寝かせ翌日、庭に埋めたが主のいなくなった籠を


すぐに処分できなくてしばらくはそのままにして置いた。


愛子が死んだ時、桃太郎が納得するまで時間がかかったように


私にも桃太郎が居なくなった事を自分自身に納得させるのに時間が必要だったようである。


朝に昼に台所に行き籠を見た時、もう桃太郎はいないんだという事実を重ねていく必要があった。


桃太郎がこの時期に居なくなったのも意味のある気がしている。


庭には何十匹の野良や飼い猫が縁側の餌を食べに来ているのに


この猫ちゃんのように腕の中に抱かれるほど懐いたのはいなかった。


家の中に自由に入ってモモ子と仲良くできるのもいなかった。


世の中は自分が考えなくても偶然が重なってうまくいくようにできているのだと感じる。


我が愛犬がたまたまモモ子のように猟犬の素質のないゴールデンだったことと


猫ちゃんの方は犬を恐がらない猫だった事、そして、


家の中で飼っていたオカメインコが年老いていたこと。


すべてがなるようになって猫ちゃんは堂々と家の中に出入りできるようになった。


猫ちゃんにとってはラッキーなことが重なった。


わたしの猫好きを見透かされての神様の計算だったかもしれない。





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