どこの子うちの子ニャンコの子
田ノ倉 詩織
第1話
1, ある元旦の日に
それはまだ私がゴールデンレトリバーを飼っていた頃の話である。
ある元旦の日に因縁めいた不思議な事があった。
忘れないうちに書き記しておこうと思った。
頭の下で猫の声がしている。
ミャーオ ミャーオ
幾分、甘え気味にしかもはっきりとした声がしつこく続いていた。
私は半分、夢の中でその声を聞いていた。
夢の続きかもしれないと思った。
ついさっきまで猫の夢を見ていたからだ。
正確にはどの位 猫の声がしていたかはわからないがそのしつこい鳴き声に
私は目を開けて枕元の時計をみた。
八時半。
世間の人は起きている時間であろうが私はもう少し寝ていたかった。
さっきまで見ていたはずの猫の夢は軒下の猫の声に誘引されて見ていたのかと思い当たった。
半身を起こして頭の上にあるサッシの窓を開けて庭を見た。
庭にはアメリカンショートというのだろうか、よくはわからないがそんな感じの模様の猫が一匹いた。
私が窓を開けたのを見て待ちかねたとばかりに顔を上げてミャーオとまた鳴いた。
ある年の元旦のことであった。
私は元旦であったという事と直前に猫の夢を見ていたというこの二点で良い事の起る前触れかもしれない。
きっと招き猫なのだ。
今年はよいことがあるとのお告げなのである。
くすぶっていた私の人生に光が当たる年なのだ。
と、勝手に思い込んだ。
テレビ雑誌の体験談にそういう事がよくある。
ケガをした猫を拾って育てていたら事故にあわないで済んだとか宝くじに当たったとか・・・
元旦の夢に出てきた猫が実際に外で鳴いているのである。
寒さに震えてしつこく私を呼んでいる。
私にチャンスが訪れる前触れを手に入れるため起きあがってパジャマのまま階下に降り玄関のドアを開けた。
幸いな事に愛犬のモモ子はトイレに起きたものと思ったのか薄目を開けて私を見たもののベッドから動かない。
直ぐにもどって来るものと思ったらしい。
ドアを開けると逃げてしまうと思っていたが、猫すっと近づいてきて足元に擦り寄った。
抱き上げるとそのまま腕の中にいる。
母性本能がくすぐられる。
寒さに震えて私を待っていた猫である。
腕の中でじっとしている猫を見ていとおしさがこみ上げてくる。
首輪をしていないが野良にしてはきれいな猫である。
きっと近所の飼い猫であろう。
私は自身が寒さに耐えきれなくて猫を足元に下ろし、ドアを開けて中に入ろうとした。
すると一緒に入ろうとする。
二階に愛犬のモモ子が居なければ入れていただろうが
いくらおとなしい犬とはいえ危害を加えるかもしれない。
モモ子はゴールデンリトリバーのメスである。
祖先は猟犬である。
実際に私が飼った六匹のゴールデンのうち四匹は散歩中に猫を見ると
まるで親の仇のように追い掛け回していた。
そのうちの一匹は猫の胴を咥えて私にみせにきた。
噛んで殺してしまう事はないが追いかけないではいられない性格の持ち主らしい。
モモ子は祖母にあたるルーシーのような猟犬の素質は皆無の犬ではあったが何が起きるかわからない。
逆に猫の方が強くて爪で目を引っかかれるかもしれない。
どちらにしても心配なのでそっと猫を外に出しドアを閉めた。
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