第50話 ラーナブラッドの誓い
「ドラゴン殿・・私を認めてくださるのですか?」
「気を抜くな!キアナルーサ。
お前の父は、一度我らの心を裏切った。
後はお前次第じゃ!やもすればこれが最後の誓いとなろう!」
ラーナブラッドが、キアンの手からグァシュラムに操られて宙に浮き上がる。
「わかったよ!僕も誓う!
もう二度と、髪と瞳の色で差別があってはならない。二度と過ちがあってはならない!」
「よかろう。」
キアンが手を合わせ、グァシュラムに誓う。
それに頷き、グァシュラムはドラゴン達の中央にラーナブラッドを浮かべた。
「誓いの石よ!我が息吹を受けよ!
賢き巫子リリサレーンの名の下に、我らが命アトラーナへしばし捧げよう。」
ヴァシュラムが右手を上げると、視界にあるすべての地面が、木や草が輝く。
「地の王、ヴァシュラムはキアナルーサを継承者として認める。」
声と同時にすべての光がラーナブラッドに集まり、その淡い赤色が濃くなった。
「妾、風の女王セフィーリア、継承者を認めよう。」
セフィーリアが息吹をかけ、音を立てて風がラーナブラッドを巻き上げる。
「オオ・・グオオオオオ!!」
フレアゴートが咆哮を吐いて大きく口を開き、炎を石に吐きかける。
石は炎に包まれて真っ赤に焼け、赤く燃え上がった。
「シールーンよ!後はお前が仕上げるのだ!」
グァシュラムが手の平を地に向ける。
ビシッ!ビビビ・・・・
シャアアア・・・シュワアアアア!
きしむ音を立てて地が裂け、そこからまた、水蒸気が吹き出した。
その蒸気の中に、ぼんやりと、そして次第にはっきりシールーンの姿が現れ、キアンに向けて微笑む。
「王子よ!お前の誓い、しかと聞いたぞ!
我らの願い、人々の願い、その声を聞くためにもっともっと勉学に励むがよい。
そして玉座に付くとき、お前の足下には沢山の人間がいることを知れ!
お前は一人で王になるのではないのだ!」
「もちろんです!シールーン!
私は、自分の前に必ず人の事を考えましょう!
命がけで私にそれを託したリリスの分も、私はきっと良い王になることを誓います!」
キアンが組んだ手を胸に、シールーンや他のドラゴンに誓いを立てる。
リリスは、全てを自分に託してくれた。
両親の愚かな行動も、これから償えばいい。
僕はその為に王になるのだ!
いつ気が付いたのか、ぼんやり見つめるリリスもキアンの力強い姿にふと微笑みを漏らす。
これで、いいんですよね・・御師様・・
目の前に、石の成り行きを見つめる師の顔がある。
リリスはその美しい顔に微笑むと、師の暖かな腕の中でまた、眠るように気を失った。
「ホホホ!王子よ!その誓い違えるな!」
シールーンは高らかに笑い声を響かせ、そして水の両手を伸ばして真っ赤に焼けた石をその両手で包み込む。
シャアアアア・・
石は蒸気を上げて急激に冷え、宙を舞うようにキアンの手に戻っていった。
その石は血のように赤く、そしてキンッとまるで氷の結晶のように堅く研ぎ澄まされた石となって、元の面影などまったく感じさせない、まったく違う石となっている。
「皆の誓いは王となるまで仮初めの物、お前の心が変われば石はまた色を失うであろう。
今の気持ちを忘れず、いつまでも良き心であれ・・」
蒸気に溶け込むようにシールーンの姿が消え、裂けた大地は静かにまた元に戻ってゆく。
それを追うように、フレアゴートの姿も呟きながら炎となった。
「わしはもう、有事有るまで眠るのみ。
耳を閉ざし、目を背ける、二度と起こすなかれ。」
ボンッ!シュウウ・・・シャアアアア・・
フレアゴートの炎が消え、また水蒸気が上がってくる。
後にはキアン一行とグァシュラム、そしてリリスをしっかり抱いたセフィーリアが残った。
「なんか・・・凄い、映画みたい・・・」
「ん、マジすご・・」
みんな呆然と言葉が出ず、その場に座ったまま何となく夕日を見つめた。
勝手に逃げていた馬も、そうっと戻ってくる。
キアンがゴロンと寝転がった。
これで・・全て終わった・・
真紅の宝石を見つめて、大きく溜息が出る。
「はああああ・・・・終わったあ・・」
ん?待てよ?終わってない!
「リリスは?!」
リリスは師の手の中でホッとしたのか、目を閉じて、意識がないようだ。
セフィーリアがぽろぽろ涙をこぼしながら、彼の身体を気遣った。
「リーリ!痛い?痛い?可哀想に!ああ、可哀想に!
ザレル!!お前は守ると言うたでは無いか!何をしていたのじゃ!
この子を斬った不埒者はどこじゃ!千に引き裂いてくれる!」
またセフィーリアは怒りに燃えている。
ザレルは立ち上がり、彼女の前に歩み寄りながらぼそっと呟いた。
「男は切り捨てた。
しかし俺に隙があっての事、どうしても罰したければ俺を罰するがいい。」
「フン!お前を手にかけても力の無駄じゃ!」
彼女はギュッとリリスを抱きしめると、プイッとザレルに顔を背けた。
「さて、セフィーリアの館に今夜は帰るとしよう。急いでリリスの手当もしなくてはならん。
ほれ、お前達馬を連れてこい。」
「リリス、大丈夫なんだ?」
ヨーコが心配そうに訪ねる。
「これが大丈夫と言えるものか、かなり消耗が激しいぞ。
ヴァシュラムよ、巫子の癒やしを頼みたい。
これほどまで無理に無理を重ねたうえに、あの馬鹿のせいで心も傷ついたことでしょう。
可哀想に・・うう・・可哀想に・・可哀想に」
泣いたり怒ったり、セフィーリアって何だか他のドラゴンとちょっと違う。可愛い人だ。
「我が息吹を受けて、空に開け瞳の門。
セフィーリアの館へ続く道よ、さっさと開け。」
爺が空を切るように手を振り下ろす。
まるで魔法のように、爺の前に黒く細長い空間の裂け目が現れて、そこに爺はヒョイと入り込み皆に手招きした。
「ほれ!さっさと来ないと閉じちまうぞ!
閉じたらひたすら回り道じゃ。」
セフィーリアが先に入り、その後をキアンと二頭の馬を引いたザレルが追う。
「あっ!待ってくれよう!アイ!行こう!」
「ヨーコ!早く早く!」
アイが吉井と裂け目から覗いて叫ぶ。
ヨーコは片手を上げてそれに応えると、ふと振り返り、美しく空を暁色に染めて沈んでゆく夕日に引きつけられた。
「ヨーコ。」
河原がそっと手を繋ぐ。
「リリス・・無事で良かったな。」
「ん・・・」
「行こう。」
二人、裂け目に向かって歩き出す。
ヨーコは繋いだ手を見つめると、河原に笑って言った。
「やっぱり、あたしにはあんたくらいで丁度いいよ。」
河原が思わず振り向く。
「ヨーコ、俺・・」
「あいつの人生重すぎ!あたしにはとても無理だ。あんたくらいでいいさ。」
ふふ・・ふふふふ・・
顔を見合わせて笑い合う。
河原が握った手に力を入れた。
「悪かったな!俺くらいでよ!許してやるからしっかり付いて来いよ。」
「へへっ!しがみついてるよ!」
二人がポンと裂け目に飛び込む。
それと同時にツッと裂け目は閉じ、そしてそこにはまた、ただの荒れた道と、大きくえぐれた壁、そして地面からシュンシュンと噴き出す蒸気が残った。
夕日が辺りを赤く染めて山の向こうに沈んでゆく。あとにはただ静かな暗闇が落ちて、いつもと変わらぬ夜が訪れた。
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