第24話 ドラゴン対策について

「それにしてもさ、あんまりこの世界の人って、異界人って聞いても驚かないね。」


そうなのだ、みんなの服は明らかにこの世界とは変わっている。

村人は大体ゆっくりとしたパジャマのようなシャツにズボン。

それにベストや上着を羽織り、粗末な靴を履いている。女性も色鮮やかな綿のドレスにショールだ。

リリスが立派な服を貰ったと喜ぶのも分かる。


「こちらでは昔から、向こうの世界とは接触がありましたし・・実は、あなた方の世界から、最近は色々な品物が流入しているのです。

ごく一部の、結え有ってこちらの世界を知った者が、王の許しを得てそちらで言う、貿易と言う物を行っているのですよ。」


「ぼ、貿易ー!!あっ!まさかあの爺!」


パッとドラゴン用務員が浮かんだ。


「あいつ、やってそうだよねえ。」


リリスは微笑むだけで、どうなのかはっきり答えない。話をそのまま続けた。


「ほとんど物々交換だと聞いています。この国の工芸技術は長けていて、人気があるとか。」


なるほど、最近は手作りや外国小物が凄く人気がある。

意外な話しにみんな驚いた。


「ところでさ、キアンよう。明日はきちんとあのシールーンさんに挨拶しろよ。」


「挨拶したではないか。何が悪かったのだ?」


全然こいつ分かってない。


「お前全然挨拶になってねえっての!

初対面でいきなり挨拶も無しに俺の言うこときけって言われて、ムッとしない奴がいるかよ。

今日は大間違いだって。」


「何が悪いのかお前には分かるのか?」


キアンが吉井に身体を乗り出した。


「分かるかって?こういう事って、本当は人に言われる事じゃないんだ。

そうだろ?大体何でもさ、」


吉井の前に、アイが乗り出す。


「相手の気持ちになって話すンよ。特に初対面はね、第一印象がものすっごく大事。」


「そうそう!本当に偉い奴はさ、他人を大切にする奴だって授業で習ったよ。

たとえて言うならさ、あんたリリスに会って、見た目は別にして嫌な感じした?」


「いや・・」


「ほら!丁寧に、大切に話して貰うと気持ちいいじゃん。まあ、あたし等には無理だけどさ、キアンは一応職業王子様じゃん。

一番上にいるからって、威張ってばかりいる奴、みんないやーな気分で見てると思うよ?」


ああ・・そうか・・


女官達の姿が思い浮かぶ。


「僕は威張ってる気はなかったけど、威張ってるんだな。」


「だー!あんたあれで威張ってないわけ?

じゃあ威張ったらどうなるンよ、まったく天井知らずだね!世間知らず。」


むー、すると教育係の賢者達は、僕にウソばかり教えていたのか?

王はこうであれ、とは何のために習ったんだろう?

どうやら実用向きじゃないらしい。

キアンはみんなの話を聞きながら、このドラゴン巡りの旅にはもう一つの大きな目的があることに気が付き始めていた。


 その夜、皆はここを訪れる人の為に建てられた小さな小屋で、重なるように横になった。

谷間なので風が強く、やはり小屋があって助かる。毛布一枚無いが、これだけの人数が小さな小屋にいるだけで、数度温度が上昇したようで暖かい。

ロウソクを消すと、暗闇の中にさらさらと、水の音だけが外から聞こえてくる。

じっと耳を凝らせばみんなの吐息が一定のリズムをもって、安心感を漂わせた。


「リリス、リリス。」


皆が寝静まった頃、小さくキアンが囁いた。


「・・・キアン・・様?」


「起きているか?さっきは・・どうしてお前が泣いたのか、気になってな。」


リリスの小さな溜息が聞こえる。

キアンも、聞いていい物か随分考えたのだ。

人と付き合うのがこんなに難しいなんて、今まで経験したことがなかった。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。

どうぞ、お気になさらないでください。」


「だって、気になるんだ。」


リリスがまた小さく溜息をつく。


「キアン様は私を羨ましいと仰いました。

でも、私はこの姿のためにずっと人に嫌われて育ったのです。」


「あ・・それが気に入らなかったのか?

それで怒ったんだな。」


確かに、村人の態度は酷い物だった覚えがある。


「いいえ、いいえ、違います。

いずれ、お話しいたしましょう。今日はどうかお許し下さい。」


「でも・・うん、わかった。」


キアンがあきらめて目を閉じる。


「お母さん・・・」


アイがぽつりと寝言を言った。

フン、あいつまだ母が恋しいのか、子供だな。


でも・・


キアンの脳裏に母である王妃の姿が浮かぶ。

もし・・このままどのドラゴンにも認められなかったら・・自分はまだしも父と母には酷い恥を掻かせてしまうだろう。

そうなったら、もう城には住めない。

この、アトラーナにさえ住めなくなるのかな?


ああ、怖い・・


「母上・・」


思わず口から出て、また涙が浮かんできた。


くそう・・どうして思い通りに行かない・・


悔しさを握りしめ、キアンはやがて静粛の中、いつの間にか深い眠りに落ちていた。

暗闇を見つめ、眠れないリリスの気持ちなど知る由もなく・・

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