第54話 文化祭2 3(1)
今年の文化祭ももちろんステージ企画があり、絢音はPrime Yellowsで参加する。最初はクラス展示や誕生日企画のために体を空けておくと言っていたが、出る気満々のメンバーを前に反対できなかったそうだ。私としてもそれで構わない。少なくとも、それが決まった段階では、こんな展開になる予定ではなかった。
「ナミがユナ高で演奏したいって。来年はさすがに出ないだろうから、今年は出ようって」
絢音が渋い顔でそう話していた。もちろん、絢音もライブが大好きなので、嫌々出るわけではない。単に文化祭という青春の祭典で、私や涼夏と過ごせる時間が少なくなるのが嫌なだけだ。
「千紗都のことは任せて」
涼夏が私の肩を抱きながら勝ち誇った顔をすると、絢音がえーんと可愛らしく嘘泣きしていた。ああいう茶番は大好きだ。
そんなわけで、今日は絢音の背中を教室で見送った。珍しく涼夏も絢音も空いている日だったが、絢音にはバンドの練習を頑張ってもらおう。
長井さんには何かあったら声をかけてと言われ、掃除の後、広田さんと岩崎君にも何か手伝えるかと話しかけられた。今のところは大丈夫だと、丁重にお断りする。
「船頭が多いと船は山に登るって」
「すでに5人もいるけど」
「私は役立たずの王だから」
適当なことを言って二人を見送り、机を固めて5人で座った。実行委員の4人と涼夏だが、メンバーを見て笹部君が役得だと満足そうに頷いた。
「実行委員なんだから、ちゃんと働いてね?」
念を押すと、笹部君は「雑用は任せろ」と胸を張った。私も雑用係なので、進めるのは糸織と川波君に任せよう。
とりあえずルーズリーフに生き残った5案を並べる。演劇は無理だろうということで、議論する前に却下した。台本もなければノウハウもない。衣装も大変だし、飾り付けもわからない。時間もないし、素人ばかりで、形になったとしてもとても誰かを楽しませられるものにはならないだろう。それはHR中にすでにそんな話になっていた。
「このギネスに挑戦って、一般的なのか?」
川波君がルーズリーフを指差しながら首を傾げた。
発案者はネットを検索して出てきたのを言っただけとのことだが、例えば30秒間に将棋のコマを高く積むとか、ノートに「結波」の二文字を書き続けるとか、何秒「あー」と伸ばし続けられるかとか、なんでもいい。
「挑戦要素がなぁ。常にその時の最高記録と勝負するだけだし、後から自分の記録が破られたとか、確認に来るか?」
笹部君が否定的な意見を言うと、糸織は逆に賛成の立場を取った。
「どう盛り上げるかは考えるとして、色んな挑戦が出来たら、それ自体がゲームみたいで面白いんじゃない?」
「ちょっと地味だなぁ。他の3つは?」
涼夏に促されて、私も意見を口にした。
「お化け屋敷は個人的にやりたいと思わない。定番だから他にやるクラスもあるだろうし、万人受けするものじゃない」
「万人受けは何やってもそうじゃね? 個人的にはカジノ推しだけど」
そう言って、笹部君が身を乗り出した。ルールが簡単なトランプゲームやサイコロゲームを用意する。安いルーレットを買ってもいい。1回100円か200円で、景品はお菓子。
そんなようなことを笹部君が熱く語ると、糸織が「カジノはイメージが悪くない?」と難色を示した。仲が悪いのだろうか。
「ボードゲーム大好きな我が帰宅部としては、テーブルゲーム大歓迎だけどね」
一応私も推しておく。何ならボードゲームがやりたいくらいだが、それは少し個人的な趣味に走りすぎだろう。
ボウリングについては、どうにもチープなものになりそうで、子供が多いイベントならともかく、来場者の大半が中高生という文化祭では盛り上がらなそうだと却下になった。
「お化け屋敷も、野阪さんが気が乗らない時点で却下でいいと思うけど」
川波君が私を見ながら言った。
「他にも怖いの好きじゃないってヤツいるだろうし。笹部が言ったみたいに、万人受けは無理にしても、お化け屋敷は特に好き嫌いが分かれる出し物だとは思う」
「やりたがらない人多そうだよね。好きな人は好きだろうけど」
糸織もどちらかと言えば反対だと苦笑いを浮かべた。お金を出して怖い思いがしたい人間は、脳の構造が特殊なのだと思う。
「残りはギネスとカジノ。どっちもゲーム寄りだな」
涼夏が満足そうに言った。どっちがいいか聞くと、カジノの方が内装が簡単そうだと答えた。
「簡単って言うと語弊があるな。わかりやすいっていうの? ギネスに挑戦って、雰囲気もわかんないし、お客さんもパンフレット見て、何するかイメージが湧かないと思う」
「これはカジノの流れだな」
笹部君が満足そうに微笑みを浮かべた。川波君が「お前の発案じゃないだろ」と突っ込んだが、まったくその通りだ。
「糸織はどう? 気乗りしない?」
ネットで「文化祭 カジノ」で画像検索した結果を見せながら聞くと、糸織は「思ったよりポップだね」と前向きな反応をした。カジノの流れになったので、気を遣ってくれたのかも知れない。
「じゃあカジノだな。ゲーム考えようぜ!」
笹部君が急にノリノリになって、隣で涼夏が苦笑した。大体何を考えているかわかる。
本当に言動が奈都っぽい。古々都で遊んだ時からずっとそう思っているが、一般的なオタクの性質なのだろう。
「その前に、カジノにしたもっともらしい理由を考えないとだな。明日みんなに説明して、納得してもらえるような」
川波君がそう言って、糸織も大きく頷いた。
「私もカジノは詳しくないし、各自で調べて、次回までに用意しておくのは?」
「よし、採用」
笹部君が秒でそう言って、「理由かぁ」と腕を組んだ。切り替えが早い。
それから30分ほど案を出し合い、カジノにした理由と、他の案を却下した理由をまとめた。私も含めていささか不安なメンバー構成だが、それなりに何とかなりそうな感触だった。
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