番外編 世界旅行2(5)
小西さんが自分もアカウントを作ってみると言って、自分の端末に戻ったので、再び二人でオンライン世界旅行を続けることにした。
4ゲーム目は、いきなり大都会に放り込まれた。片側3車線の右側通行。すぐ隣の超高層ビルには「FEDERAL RESERVE BANK OF BOSTON」と書かれており、遠くにはアメリカの国旗がなびいていた。
「私の予想だと、ボストン。しかもかなり都心」
「実は私もそう思ってた。気が合うね」
自信たっぷりの絢音に深く頷いて返す。検索なしでもいいくらいだが、せっかくなのでいつも通り旅行をしようと少し進むと、すぐに市街地に突っ込んだ。
建ち並ぶビルと無数の看板、信号機とショップ、歩行者と乗用車。セブンイレブンを通り過ぎると中華街に入り、アメリカと中国の国旗が並んで立っていた。珍しい光景だ。
スタート地点から反対側に行くと、大きな河を渡った。橋の端に「WELCOME TO SOUTH BOSTON」と書かれており、反対側には「WELCOME TO FORT POINT」と書かれていた。ひとまず安心する。心のどこかでボストンではない可能性も考えていたが、その心配もなくなった。
SOUTH BOSTONの方はオフィス街で、ビル群を抜けると港らしき建物で行き止まりになった。ズームすると、「Boston Convention and Exhibition Center」とあった。港ではなく、展示場のようだ。
「銀行より、こっちの方が安心だね。ちょっとスタート地点から距離はあるけど、辿れる自信がある」
「一本道だったしね」
私の意見に、絢音が賛同するように頷いた。銀行名だと、最悪支店が他にもあるかもしれないが、この展示場なら確実に一ヶ所に決まるだろう。
Google Mapでアメリカを表示して、「Boston Convention and Exhibition Center」で検索する。もちろん表示されたのは一ヶ所で、橋を渡ったすぐのところに銀行もあった。
誤差4メートル、5000ポイント。もちろん、過去最少誤差だが、これは問題が簡単だった。
「これくらいだと検索は要らないって思うけど、ルールは1ゲーム内で統一したいし、難しいところだね」
一応、日本だった場合は検索はしないというルールを作ってはあるが、まだお目にかかったことがない。
日本も見てみたい気もするが、文字がまったくわからない国の方が盛り上がる。
ワクワクしながら、最後の「PLAY NEXT ROUND」を押した。
最後のゲームは、高速道路っぽい、大きな道路上だった。遠くにはビルが見えるが、周囲には椰子のような南国の樹が生い茂っている。
ガソリンスタンドがあり、「PETRONAS」と書かれていた。50キロの看板には、「AWAS ZON HAD LAJU」と書かれており、まったく読めない。
反対車線にはよく高速道路で見るタイプの行き先板があり、左の看板には「Jln. Yahya Awal」と「Pusat Bandaraya」、右の看板には「Woodlands」、「Kota Tinggi」、「Kuala Lumpur」と書かれていた。
「マレーシアだね」
絢音が何でもないように言って、私は驚いて眉を上げた。
「なんでわかったの?」
「なんでって、クアラ・ルンプールって書いてあるじゃん」
言われてみたらそうだった。ただのアルファベットの塊としか認識していなかった。
今日の内容だったら、検索なしでもよかったかもしれないが、1ゲーム目のポーランドは無理だっただろう。今回も、クアラ・ルンプールからどれくらい離れているかはわからない。
高速道路を逸れて、「Surau Sulaiman」という地名の場所に入ってみる。一気にごみごみした東南アジアの景色になる。葉っぱの大きい緑の植物が無数に自生し、それに埋もれるように薄汚れた家々が建ち並んでいる。倒れそうな電柱と壊れそうな車は、いかにもマレーシアの田舎の景色だ。
私がそう言うと、絢音が「見てきたみたいに話すね」と笑った。
高速道路を挟んで反対の方に行くと、こちらは多少ましな家々が建ち並び、その内の1軒、カラフルにペイントされた建物に「SEKOL.AH AGAMA SALIMON」と書かれていた。サロンっぽい響きだが、一体何だろうか。反省会用にメモしておく。
高いビルのある場所まで行くと、マーケットや、中国語の書かれたホテルっぽい建物があった。ただ、高いビルだけ明らかに綺麗で、周りの景色から浮いている。「TENAGA NASIONAL BERHAD」と読める。高速道路からどう辿ったかは覚えていないが、検索するならこのビルが良さそうだ。
ちなみに、中国語の書かれた建物は「HOKKIEN HUAY KUAN」というらしかった。
「このテナガビルとホッキエンホテルと、どっちが確実に一ヶ所に決まるかなぁ」
意見を求めると、絢音が「ホテルは不安」と言った。確かに、テナガ自体は各地にありそうだが、このビルはここにしかない気がする。
Google Mapでマレーシアを表示して、検索窓に「TENAGA NASIONAL BERHAD」と打ち込む。そして、赤いマークが20個くらい表示されて、思わず絢音と声を出して笑った。最後に罠が潜んでいた。
クアラ・ルンプール内に10個ほど、他にはだいぶ北に1つ、だいぶ南に1つ、だいぶ北東に1つ、だいぶ東に1つ、シンガポールに数個。
「さっきの高速道路の表示から考えると、クアラ・ルンプールじゃない気がする」
絢音の意見はもっともだ。クアラ・ルンプールの近郊という可能性は十分にあり得るが、ひとまず除外する。
4ヶ所を見てみた結果、東のクアンタンにある表示が、一番高速道路との距離感が一致するということでポイントしたら、結果は265キロも離れており、4187ポイントだった。
ちなみに、調べた4ヶ所はいずれも違い、見向きもしなかったシンガポールに近い場所が正解だった。
「最後に舐めプしちゃったね」
「油断大敵」
最後に素晴らしい教訓を得て、23946ポイントでゲームを終えた。
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