第35話 デート(6)
駅に戻って電車に乗ると、封印していたスマホを見た。夕方、時間を確認した時に涼夏からメッセージが来ていたのは知っていたが、奈都とのデートを優先して放置していた。
内容は、まだデート中かと尋ねるシンプルなものだった。用があるのではなく、ただの世間話だろう。絵文字の使い方でわかる。
せっかくなので奈都とのラブラブツーショットを送ろうとしたら、奈都が悲鳴を上げた。
「やめた方がよくない? 私だったら、そんなのもらったら嫉妬でモヤモヤする」
「奈都はそうかもしれないけど、涼夏は大丈夫だよ」
「涼夏、チサのこと大好きだよ? 他の女とイチャついてる写真もらっても嬉しくないよ?」
奈都が心配そうに眉をひそめる。別にイチャついている写真ではないと思うが、奈都はそういう気持ちでいたのだろう。思いの外、恋愛体質なのかもしれない。
「知らない相手ならともかく、奈都は帰宅部ファミリーだから大丈夫だって」
気にせず送信ボタンを押すと、奈都が変な声を上げて両手で顔を覆った。いちいち大袈裟な子だ。
「来年、同じクラスになったら、奈都ももっと二人のことがわかるよ」
私と同じように、あの二人も4人で1つの共同体だと考えている。奈都だけ違うのは、出会った時期のせいかもしれないし、愛情の性質が違うのかもしれないし、単に二人との距離が遠いだけかもしれない。
来年は4人とも同じクラスになりたい。そう告げると、奈都がツラそうに首を振った。
「チサ、それはなれないフラグだよ」
「相変わらず、奈都のフラグはよく立つね」
デートの約束をした日にそんな話をしていた。もしもの話がことごとく叶わない世界線でも生きてきたのだろうか。
スマホが震えたので、見ると涼夏からだった。「私も絢音とデートしてた」というメッセージとともに、楽しそうな二人の写真が添付されている。
二人で遊ぶとは聞いていない。一瞬寂しい気持ちになったが、そういえば、私がデートなら二人で遊ぶかと、涼夏が絢音を誘っていた。てっきり冗談かと思ったが、今考えると、何故冗談だと思ったのだろう。
私も遊びたかったと渋い顔をすると、隣で奈都がくすっと笑った。
「ほら、嫉妬してる。4人で1つの共同体じゃなかったの?」
「これは……」
言いかけて、二の句が継げなかった。なんとなく疎外感を覚えた自分が、あまりにも情けない。
「やっぱり私もダメなグループか」
2年生になったら、もっと愛し愛される関係になろう。私はいつだって、自分が愛されていることに自信がなさ過ぎる。
一人で頷いていると、奈都が不思議そうに首を傾げた。
「もって何? そのグループには、他に誰がいるの?」
ねえねえと袖を引っ張る。わざとらしいが、可愛い仕草だ。
自明の問いに答えるのは野暮だろう。爽やかに微笑むと、奈都が不満げに頬を膨らませた。
今日もいい日だった。いつも4人で遊ぶことばかり考えているが、こうして一人ずつじっくりと仲を深めるのも楽しいし、とても大切だ。
涼夏と絢音も、たとえ私がいなくても、二人で親交を深めてほしい。心からそう思えるような、寛大な部長になりたいものだ。
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