蛾が。

怪物mercury

一日目。

 高校生の卒業式後。と言っても、3月31日までは高校生という扱いになる。そんな微妙な時期を、みんなは免許を取ったり友達と遊んだりするそうだ。

 俺の場合は、金がないから免許を取るのは無理だ。遊ぶ友達もいないし、金のためにバイトをするというのも面倒だ。


「なんか……面白いことないかな。」


 目的のない散歩という名目で外に出ては、何もせず、ちょっとしたお菓子やジュースを買っては残り少ない金を浪費する。

 そんな自堕落というのもぬるいような、つまらない日々を送っていたある日の話だ。

 昨日と一昨日と、そのまた前の日と同じように外を歩いていると、うっかり蛾を踏んづけてしまった。嫌な感触だけが足の裏に伝わってくる。


「うへぇ。」


 とりあえず足を歩道のブロックの角にこすりつけ、歩道沿いの家の植え込みの葉をちぎって靴の裏を拭く。


「面白いことどころか、クソみたいなことじゃねえか。」


 羽が残っているグロテスクな蛾の死体を放り投げ、さっさと家に帰った。





 家に帰って、さっさとシャワーを浴びる。さっきは気持ち悪い物を見た。


「はぁ……。」


 パジャマに着替え、ババアが面倒だから脱ぎ捨てた服をおもてに返す。


「別に裏表逆でも洗ってくれていいだろうが。」


 そうぼやいていると、ズボンのポケットに何か柔らかいものが入っているのに気が付いた。

 最近は花粉がひどいので、鼻をかんだ時のティッシュだろうか。あのババア、洗濯をするときにポケットの中身ひとつ確認しやしないので、以前酷い目に遭ったことがある。


「気持ちわりぃ……。」


 ぼやきながら手を突っ込むと、思っていたよりもなかに入っているものは粉っぽい。それに、ぱりぱりしている。ティッシュじゃなかったか。


「なんだこれ……うおっ!?」


 思わず取り落としてしまったのは、中に入っていたのが先ほど投げ捨てたはずの蛾の死体だったからだ。


「びっくりさせるなよな。まったく。」


 紙などもそうだが、軽いものは投げ捨てると帰ってくることがある。それにしても、蛾の死体がポケットに入ってくるなどなんて運が悪いのか。


「クソめ。」


 ゴミ箱まで行くのは面倒だったから、その蛾の死体は脱衣所にある洗濯機の横の隙間に捨てた。

 その日は、なかなか寝付けはしなかったが、何とか寝ることに成功した。

 面白いことっていうのはこういうのとは違うんだよなぁ。

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