第47話

 キスのあと。

 セイラはいつものセイラだった。


 生徒会であったおもしろい話を聞かせてくれた。

 次の日曜日は何をしようか、と相談した。

 時事ネタについて意見を交換した。


 楽しかった。

 この部屋にいる時間は、マナトだけのセイラで、セイラだけのマナトだった。


「ねぇ、マナ。あなた、ずっとこの学園にいたら。というか、側にいてほしいわ」

「私だってそうしたいのは一緒です。でも、正体がバレるのは時間の問題でしょう。それに私たちの両親が絶対に許しません」

「マナがいないと悲しくなってしまう。1年半か2年は会えなくなるのよ。ひどすぎると思わない?」

「思います。自分の片腕とサヨナラするくらい辛いです」

「せめて、定期的に会うのはどうかしら?」


 マナトの脳裏を、父親の顔がチラつく。


「そうしましょう。私の父は全力で止めにくるでしょうが、何としてもお嬢様のところに参ります」

「ありがとう。私もお母様に相談してみるわ。龍造寺サネアツさんのような人と結婚したくない。マナがいい。きっと、お母様なら理解してくれる。だって、同じ女ですもの」


 ぴたっと。

 2人はおでこを密着させた。


「お嬢様に、どうしても謝らないといけないことがあります」

「なによ?」

「え〜と……その……」

勿体もったいぶらずに教えなさい」


 マナトは自分の荷物から一冊の辞書を取り出した。

 パラパラめくると、手紙を挟んでいるページに突き当たる。


「これを今日まで隠していたこと、お許しください」

「まぁ⁉︎」


 2通の手紙、


『知っているぞ。お前は避妊具を落とした犯人を探しているのだろう?』

『私は犯人を知っている。そいつは四ツ姫の中にいる』


 文面を読んだセイラが目を丸くする。


「犯人から私への挑戦状だと解釈かいしゃくしました。そして、残っている四ツ姫は、リュカさん1人のみです」

「この手紙を誰かに見せましたか?」

「シスター・ユリアだけです。というのも、この手紙を送りつけてきたのが、シスター・ユリアだと思ったからです」


 知らないわ。

 そういって追い返されたけれども。


「この手紙があったから、チトセさん、アリアさんに接近したの?」

「はい、詳しく知ろうと思いました。もちろん、リュカさんのことも」


 成果はなかった?

 いや、そんなはずない。


 チトセは想いを打ち明けた。

 セイラのことを愛していると。


 アリアも胸襟きょうきんを開いてくれた。

 その結果、周りの生徒と少しずつ打ち解けている。


 成果はあった。

 チトセ、アリアに良い変化が訪れた。


「どういうことかしら? 私たちは遊ばれているのかしら?」

「利用されているような気がします。ゲームの駒の1つみたいに」


 もう一度手紙を見つめる。

 この差出人があの人だとして、何のメリットがあるのだろう。


「リュカさんが犯人だと、マナは思う?」

「わかりません。昨日まで、リュカさんが犯人だと思っていましたが、自信がなくなりました」

「謎めいた人ですから。しかし、この法隆セイラにケンカを吹っかけてきたのも事実。絶対に負けません。マナは渡しません。同じ四ツ姫として、正々堂々と勝負します」

「しかし、勝ち目はあるのでしょうか?」

「なければ勝機をつくります」


 セイラは法隆の跡取り。

 敗北するとは思えない。


 でも、相手が悪すぎる。


 あれから情報収集してみた。

 リュカの占いは100%当たると評判。

 もはや、ファンタジー世界の登場人物である。


 勝てるのか?

 バケモノじみた相手に?


「お嬢様、本当にリュカさんの占いは100%的中なのでしょうか?」

「どういうこと?」

「リュカさんは1年、留年されました。ご病気が原因と聞いておりますが、留年は基本、不名誉なこととされております。ましてや、リュカさんは四ツ姫ともあろう方」

「たしかに変ね。占いで先手を打てなかったのかしら」

「リュカさんの能力は、万能じゃないと思うのです」

「穴を見つけるってわけね」

「そうです」


 リュカがセイラを否定するのなら……。

 マナトはリュカを否定してやる。


「やっぱり、私が次の四ツ姫というのは、おかしいです。だって、私は男なのです。リュカさんの占いは、狂っていることになります」

「わかりました。2人で逆転の一手を考えましょう」

「はい」

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