第二十五話 混乱
「確かに、リートの存在は不自然だ」
空気が凍りついた。
ジェラルドがなんてことのないように吐き出した言葉に、オスカーもアレスもぎょっと目をみはった。オルガも身を震わせてよろめく。
リートは静かに息を吐いて足を踏ん張った。
「誰よりも俺が一番そう思っている」
ジェラルドは静かに言った。
「だって、地位や金目当ての女すら近づいてこないような俺に、進んで婚約者になってくれて、笑顔で触れてくれる令嬢がこの世に存在するだなんて、とても信じられないんだ」
それはジェラルドの正直な気持ちだろう。無理もない。
「でも、いいんだ。リートが何を考えていようと」
ジェラルドはふっと微笑んで自らの手に触れた。
「俺は、リートを信じると決めたから」
リートの胸に、ジェラルドの言葉が風のように吹き込んできた。
「だって、リートに触れられると、優しい気持ちになれるんだ。これまでの俺は、心のどこかで女を憎んでいた。もしもあのまま皇帝になっていたら、とんでもない愚帝になっていたかもしれない。だけど、俺のその醜い部分を、頑なな心を、リートが全部癒してくれた」
ジェラルドが清々しい笑顔で言い切った。
「だから、俺はリートに傍にいてほしい」
その瞬間、リートの目にはジェラルドの胸で星が弾けたように見えた。白い光がぱあっと辺りに広がる。
その光の中心、ジェラルドの胸の真ん中に、きらきら光る白い石のようなものが見えた。
(魂だ!)
リート以外には見えないそれは、ジェラルドの器に入れられた魂だ。
今この瞬間、ジェラルドはリートに心を開いたのだ。これで、魂を入れ換えることが出来る。
「お前も素直になれよアレス。お前が昔からバルディン公爵令嬢を憎からず思っていることは知っているんだぞ」
「なっ……」
「とっくにバレてるっつの。俺とジェラルドがどれだけヤキモキさせられたと思っているんだ」
「しかしっ……やはりバルディン公爵令嬢は皇妃となるのがふさわしいのにっ」
アレスが顔を歪めた。
「アレス、それは無理だ。わかっているだろう。彼女は皇妃となるに十分な資質があるが、俺の隣に立つことが出来ない。それに……」
ジェラルドが一度言葉を切って、すーっと息を吸い込んだ。
「オレはこの先、何があっても、リート以外と結ばれるつもりはない」
リートの心臓がどくんっと音を立てて震えた。
何故か急激に顔が熱くなってきて、視界がにじんだ。
どういう訳か、足の力も抜けそうだ。
(なんだこれ?)
隣でオルガが何か言っているような気がするが、耳の中でどくどく音がするせいで、よく聞き取れない。こちらに気付いたらしいジェラルド達も何か言っているようだが、やっぱりなんて言っているのかわからない。
リートは自分の胸を抑えてひたすら混乱していた。
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