5 不信感

次の日の早朝に出発した一行は、ようやくオアシスに辿り着いた。

一面砂の世界だったのが一変、そこには小さな湖があり少しばかりだが木も生い茂っていた。所々だが、商人達がテントを広げて物を売っている。売っている者は奇妙で店主たちは愛想が悪かったが、メルはアイサイ公国を思い出さずにはいられなかった。


にぎやかな路上、そこで天幕を広げて商売をする気さくな店主達、出会うたびに声をかけてくれる優しい民達……全部失ってしまったけれど。


自分の中で何かがこみ上げてくるのを感じた。


過去は振り返らないって決めたのに。あの時、私は新しい一歩を踏み出した……はずなのに。


この理解出来ない感情にメルは戸惑った。

その戸惑いはナサにも伝わっていたのだが、やはりなんと声をかければ良いのか分からなかった。

ルシファは知り合いがいるから少しここで待っていて欲しいと言い、多数あるテントの中の一つに入っていった。

ルシファが離れた隙にナサは昨晩の彼の様子がおかしかった事をメルに言おうか悩んでいた。

いつもだったら、すぐに告げていたかもしれないだろう。そして、目を盗んで逃げきっていたはずだ。しかし、今の状況ではそれが何になるのか。そもそも、そんな事が出来るのならナサなら最初から誰も頼ろうとはしなかった。怪しくてもそれでも砂漠を熟知している彼についていくしかない。

ナサは自分の無力さを嘆いた。


どうしていつも大切なものを守れないのだろう。

あの時、私だけが死ねば……。


ナサは何度も過去を思い出し苦しんでいた。

そうこう各自が思いにふけっているうちに、ルシファがテントから出てきた。

大柄な二人の男を背後にしたがえて。

「ルシファ、その人達は?」

とメルが尋ねると、ルシファはあの満面の笑みを返した。

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