3 接近

 ルシファが組み立てたテントは、出入り口に比べて中は思ったよりも広かった。これなら三人位余裕で寝られそうだ。(特にメルは小さいし)

しかし――

「いけません! メル様のような方がどこぞの誰か分からない、まして異性と一緒に寝るだなんて!」

とナサが青い顔で叫んだ。

当のメルはきょとんとしている。

「別に幼女襲う趣味ないけど……」

「そんな事もってのほかです!」

とナサは怒り心頭でルシファに詰め寄る。

結局、ルシファはテントの外で寝ることになった。

元はと言えば、自分のテントなんだが……と思いながら、また文句を言われても面倒なので何も言わなかった。

と、ここで終わればまだましだったのだが。

「メル様のようなお方が、私のような下々の者と部屋が同じなんて……!」

ナサは外で寝ると譲らなかった。流石にメルはおろおろしながら、自分が外でと言い出す。

そんなこんなで誰が外で寝るか議論が続き結局、侍女と旅人が外(見張りも兼ねてと説得した)、姫が中となったのだった。

夜遅く目を覚ましたルシファは、ふとテントの中を見た。

姫がいない。

どこにいったのか辺りを見渡すと、テントから少し離れた小さな砂の丘の上に姫は座り込んでいた。

「どうしたんだ、姫。こんな夜遅くに」

その声にメルが振り向く。

その声にメルが振り向く。驚いた顔でまじまじとルシファの顔を見つめる。

「どうして私が姫って知っているの?」

自分達の身分の話、いや一切の事情を彼には話していなかった。

それなのに。

ルシファは茫然としているメルの隣に腰を下ろした。

「あっちののっぽの女の方がどう見ても年上なのにあんたに対して敬語を使っているし、あんたを様づけで呼んでいる。そこから察するに、あんたは高貴な出であの女はその従者」

そして、とルシファはメルの額の冠を指さした。

「そんな豪勢なもん、王族しかつけないだろ」

的確な推理にメルは凄い、と言うかのような眼差しをルシファに向けた。

「ルシファって心の中をよめるみたい」

その言葉がおかしくってルシファはプッと吹き出す。

「誰だってそれぐらい分かる」

メルは、ううんと首を振る。

「誰でも分かるものじゃないよ。ちょっとでも私達の事を知ろうとしてくれているって事でしょ? それってすっごく嬉しいな」

それに、と続ける。

「ルシファのする事は誰にでも出来るものじゃないよ。全然見ず知らずの私達を助けてくれたし……」

ヒュウと二人の顔に冷やりとした空気が触れる。

風が強くなってきた。

「ルシファは優しいね」

予想だにしなかった言葉に思わず、ルシファは彼女の顔を見た。

遠くで砂が渦巻いている。砂嵐だ。

ルシファはフイッとメルから顔をそらした。

「……どうだか」

風の音にかき消されメルの耳には届いていなかった。

ただ聞こえずともテントの傍から一部始終を眺めていた者がいた。

ナサだ。

その時の彼の顔つきが一瞬変わったのを見逃しはしなかった。

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