第177話


「………」


 果てしなく青い海を、ただ静かに眺める。


「(やっぱり、海は良いわね)」


 ただただそう思う。


 フォリンクリの様なゴミ虫も居なければ生息する生物もエレミュートの様な穢れの影響をほとんど受けていない。


 フォリンクリといえど、たかが粒子の塊。飛行できる個体もいるが、長距離をしかも高速で飛行できる個体はまだいない。形を維持できないからだ。


 ある一体の大型フォリンクリを除いては。


 オルキヌス。大型フォリンクリの中で特に戦闘に特化した個体であり、全身を包む様に常時展開されたエレミュートのシールドバリアにより唯一海での活動が可能な個体。


 かつて本国に上陸しようとして当時の最高戦力をもってやっと始末されたバケモノ。


 しかしそのコアを破壊するには至らず、一夜にして根絶やしにされたある一族の血肉によって作られた人造人間の少女の肉体に埋め込む事で擬似的に復活を果たした。


 そう、私は"オルキヌスのコアを埋め込まれただけの人間ではない"。


 穢れた血を持つ、時花の末席。それが今の私。


 テレサが執拗にオルキヌスと呼ぶのはおそらく私の中に眠るコアを感知しているからだろう。飛燕の主が私を警戒していたのも恐らくそれが理由。彼にの目には私は見にくい複合生物キメラにしか見えなかったのだろう。


 この私の意思が元の肉体のものなのか、それとも二つが融合した事で新しく生まれた人格なのか。それまでの記憶がない私にはわからない。


 ともかくも、オルキヌスは死んだ。


 海こそが安息の地。約束された理想郷、化狩学園都市は、だからこそ海上都市として生まれた。

 

 ザザーッ


「………」


 白波が足元を濡らす。日に照らされた砂浜の砂とは違いひんやりとした感触が心地よい。


 この海だけは美しいままであって欲しいと切に願う。


「どうした烏川」

「………?」


 振り返るとそこには桐堂が。


「あー、いや、なんか悩んでる様に見えたというか、なんというか」

「………」

「ともかく、その、何かあれば言ってくれ。いつも世話になってるし」


 私を気遣うなんて、ね。


 何かと人との縁だけには恵まれている。そんな資格、私には無いのに。けど


「お気遣いどーも。ちょっとだけ考え事をしてただけよ」

「そ、そうか」

「ええ。せっかくだし楽しみましょ?」


 私は生きていて良いのだろうか。今はそんな疑問を捨てて、ただこの海を満喫しましょう。



 



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