第175話


 


「この娘が時花の……!?」

「嘘……」


 あたりは騒然。当主だけが私を静かに見据える。


「…………彼は、お兄さんは元気か?」

「ええ。ここに来てからはあまり会えてないけれど」

「………そうか」


 そう静かに呟くと、男は刀を収める。


「突然の無礼を詫びよう。私は少々この"匂い"に敏感なもので」

「別に良いわよ。友人の家族ですもの、そのくらいでキレたりしないわ」


 頭を下げるおじ様をシッシと払い、置いていた荷物を背負う。


「となると、それはやはり」

「ええ、兄から譲り受けたわ」


 現在の私の愛刀、小夜時雨。これは元々兄の所有物であったが、私が対策部として活動することを機にその兄が譲ってくれたものだ。


 ある"物質"から作り出されたこの刀は刀としても業物だが、エレミュートを中和するという不思議な力を持つ。


 一応手入れはしているけれど、それを加味しても異様な切れ味と頑丈さ。こんな代物を渡してくる辺り、やっぱりあの人は私に甘い。


 今でこそ妹、家族だが私は血も繋がっていないというのに。


「(現在進行形でありがたく使わせてもらっているけれど)」


 そっと撫でてから手元から消し、外した伊達メガネをかけ直す。


「っと、部屋はどこかしら」

「あ、私が案内します」

「宜しく頼むわ」


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