第159話


「それで、今回の件だけど」

「ああ」


 カラスこと、透夜さんは頷くとポケットから一つのUSBメモリを取り出し、烏川に差し出す。


「お前達学園の方から引き渡された奴の尋問記録だ。なんの変哲もない問答だが、少し妙な単語があってな」

「妙?」

「ああ。恐らくだが、それについては暁海。お前の方が詳しい」

「そう、分かった」


 烏川はそれを受け取ると自分のポケットに収納する。


「ああ、それと」

「……?」


 透夜さんは何やら頭をかきながら視線を逸らす。


「その、学校生活は楽しんでるか?」

「うん、楽しいよ」

「………そうか」


 それを聞くとフッと満足げに笑って席を立つ。


「いくぞ、香織」

「もうですか?私はもう少しお話ししたいのですが」

「お前にはまだ本土での仕事が残っているだろ。それに」

「それに?」

「聞きたい事は聞けた」

「そうですか。なら、仕方ないですね」


 やれやれと香織さんも席を立つ。


「また来ますね、紅葉さん」

「うん。またね、織リン。そん時はもう少しゆっくりしてってね」

「はい」


 出口へ向かう2人。その時、透夜さんが僕の肩に手を置く。


「少し無愛想だが、ウチの可愛い妹だ。宜しく頼むな」

「は、はい」

「無愛想なのは透夜くんの方だと思いますけどね」

「うるせぇよ」


 じゃあな。と、最後にそう言い残し2人は店を出る。


「………いい人達だな」

「ええ」


 ふふっ、と小さく、でも嬉しそうに微笑む烏川。彼女もこんな表情をするんだな、と意外に思う。


 血縁上はなんの繋がりも無いらしい。しかし、あれは本物の家族だと感じた。


「さ、私達も行きましょう」

「そうだな」


 少し、目標みたいなものが出来た気がする。


「(僕もあの人達みたいになりたい)」


 そのためにも、烏川から学び、着実に実力を身につけないといけない。


「どうかしたかしら?」

「いいや、なんでもない」

「そう」



 少年の決意に呼応する様に、その右目は金色に輝いていた。



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